ボディーガード
「で、対処法についてだ。佐原さんあなた自身はどうしたいの?」
僕のゲロの話からやっと本筋に戻った模様。やっとか…
「私はやめて貰えるならそれで十分です。警察に被害届出した後逆恨みでなにかされるのも怖いですし…」
実際、被害届を出したあとの逆恨みというものは多い。被害届を出したからと言って直ぐに逮捕されるケースはストーカー行為に置いてあまりないと思う。まずは調査から始めるのが鉄則だ。
「確かに被害届を出してすぐ解決とはいかないだろうな。私的には徹底的に潰してやりたいが本人が望んでないならそれはやめておこう」
「でも被害届出さずに解決てのも難しくないですか?」
「この手のストーカーに効果的なのは二度と近づかせないよう恐怖心を与えることだ」
こっちも脅しを使うてことか。
「でも危険すぎません?場合によっては被害届出すよりも危ないですよ」
「それならそれでいい。向こうが強行手段で来たら即刑事事件行きだ。しかし危険なことには変わりない。佐藤暫く佐原さんのボディーガードをやってくれないか?」
「それなら被害届出してボディーガードやった方が良くないですか?」
こっちの方が僕としても安心なので提案してみる。
「さっきの佐原さんが言ってただろう。やめてくれたらいいと」
確かに佐原さんは気が弱いしあまり大事にもしたくなさそうだしな。佐原さんの配慮もしっかり忘れてないと。普段からこんなだと尊敬出来る部長なのになぁ。
「すみません。私の都合で…」
申し訳なさそうに頭を下げる佐原さん。
「悪いのはストーカーだよ。君が頭を下げる必要はない。それに僕にとっては大事なバイトの後輩だしね。こんなことでもし辞められりしたら僕のシフトが爆発する」
気を遣わせないようちゃんとした理由付けもしておく。
「ありがとうございます…」
「実際ボディーガードて何すればいいんですか?一緒に登下校と言っても僕たち学部違いますから講義時間とか違いますよ?それに僕が一限で佐原さんが二限からとってる講義があったらどうするんですか?佐原さんに早く来てもらうんですか?」
「佐藤お前一限取ってないだろ。朝は苦手なんでとか理由で」
「なんで知ってんの?!」
いやまじでなんで知ってんの?
「酔っ払って覚えてないか。お前がゲロ吐く前、一限とか起きれるわけないじゃん!アホじゃね大学!一限行ってる奴もアホじゃん!2回は絶対に一限取らないもんね!と高らかに宣言してたではないか」
僕マジで何言ってんの。ゲロ吐く醜態だけでなく大学と一限行ってる全員にも喧嘩売ってたのか。本当に申し訳ありません。もうお酒は飲みません。酒は飲んでも呑まれるなとか言うけど僕は呑まれちゃうからお酒はもう飲まない。
「分かりましたよ。ちゃんと早起きしてボディーガードやります。佐原さんそういう事だから気遣わなくていいからね。もし僕が寝てたら携帯で起こしてね」
「すみません…よろしくお願いします」
「さりげなく女の子にモーニングコールを頼むとは佐藤そんなにちんちん属性高かったか?」
「あんたは下ネタ言わないと話締めれないのか!」
「とりあえず今日はここまでだ。今日からボディーガード頼むな佐藤」
「分かりました」
「今日はありがとうございます…」
「気にするな人を守るためにやってるだけだ。そのために私はここにいる」
なんだよかっけぇじゃねか部長。まぁ行動するの僕なんだけど。
「じゃあ私はこの後用事があるのでなパイパイ〜」
ほんと最後までかっこいいて思わせといてくれよ…
今日から佐原さんのボディーガードをする訳だが、話すことがなくても気まずいな。バイトの時も殆ど喋らないし、喋ったとしても仕事内容の確認くらいだからなぁ。
「あの…」
相変わらず遠慮がちに話しかけてくる佐原さん。そんな気遣われてもこっちも気遣ってしまうよ。
「あの部長て人お名前はなんというのですか?」
あぁ確かに名乗らなかったな。というかまだ1度も名前出てきてないんじゃ…
「部長の名前は鮫島花恋だよ。苗字は仰々しくて、名前は可愛すぎるから呼ぶなて言われて僕は部長て呼んでいる」
1度も花恋先輩て呼んで通報されかけたな…
「そうなのですね…先輩と鮫島先輩はどういう関係なんですか?」
難しいこと聞いてくるなこの子。貴族と奴隷?いやなんか奴隷て嫌だな。主と執事?これも違うな。
「ただの先輩と後輩だよ。一応中学から面識はあった」
迷った末に無難に答えておいた。
「中学校からのお知り合いなのですね。仲がいいわけです」
仲がいい?ただひたすら振り回されてる気しかしないけど。
「人使いの荒い人で困ってるんだよ」
「それでも私からしたら羨ましいです。私は高校生までは東京にいたのでこっちには友達は1人もいません。だからネットで友達を作っていたのです」
なんだろう。凄く切ないな。しかし現実で友達がいないのにネットでの居場所まで脅かされてるのはさすがに酷だな。何とかしないと。
「僕は佐原さんとは友達だと思ってるよ。バイトも一緒だし、連絡先も知ってるしね。それに同い歳なんだから敬語も使わなくていいよ」
思ってることをそのまま伝えてみた。
「そう言って貰えると嬉しいです。でも直ぐに敬語は消えなさそうです。先輩は先輩なので…」
そう柔らかく微笑んできた。笑うと可愛いなこの子。不覚にもドキッとしてしまった。
「でもどうしてうちの大学に?うちの大学受かるくらいなら東京の大学のレベル高いところ行けたでしょ」
うちの大学は誰しもが聞いたことある大学で、入るには相当勉強が必要になってくる。
「あの…それは内緒です」
「なら仕方ないね」
言いにくそうに俯いたのでこれ以上は聞かないようにする。
「ひっ…!」
突然佐原さんが肩をビクッとさせた。
「どうかした?」
蛇に睨まれたかのように動かなくなる佐原さん。恐らくストーカーからの視線を感じ取ったのだろう。安心させるため言葉を選ぶ。
「今は大丈夫。僕がいるから。下手に行動はしてこないよ」
ストーカーというのは非常に厄介な生き物である。狙ってる人間が1人になるまではただ着いてくるだけ。こういう奴ほどリスクリターンに長けているのだ。ほんとそんなけリスクリターンがわかってるならストーカーするなて話だけど。
「すみません…迷惑かけてしまって」
「謝る必要はないよ。僕と部長が勝手にやってる事だから」
10分程その場から動かず、佐原さんが落ち着くのを待った。
「もう大丈夫です…」
「あいつもどっか行ったようだな」
「気づいていたんですか…?」
「まぁね」
年齢は20代半ばくらい。身長は170センチほどの少し肥満体型の男だった。なるほど現実上手く行ってないパターンか。こんな時間にストーキングしてるくらいだから恐らく無職か個人営業て所か。どっちにしても早いこと手を打たないとな。まぁ情報に関しては部長に任せておくか。
「あの…どうかしましたか?」
暫く黙り込んで考えていると佐原さんが声をかけてきた。
「いやなんでもないよ。早く帰ろっか」
「はい」
その後は特に何も無く佐原さんを家に送り届けた。
佐原さんを送り届けた後僕は部長に電話をかけることにした。
「もしもし部長」
「なんだ佐藤か。もう私が恋しくなったのか?この寂しがり屋め。おっぱい飲むか?」
ほんと普通に会話できないのかこの人。
「部長のおっぱい普通ですよね?おっぱいネタ使うなら貧乳か巨乳になってからにしてください」
いつもやられっぱなしなのでこの辺で仕返しをしておこう。部長はおっぱいを舐めている。貧乳だからこその輝き。巨乳だからこその美しさ。普通のおっぱいは良くも悪くも普通だ。
「え?佐藤私のおっぱいなんで知ってんの?やっぱり見てたんだ!私のおっぱい!興味津々なんだ!流石女性を見る時はおっぱいから見る男!やだぁさとうくんえろ〜い❤」
マジでムカつくなこいつ。最後の方キャラ崩壊してんじゃねぇか。やっぱり部長をいじるのは無理だ。素直に謝ろ。
「すみません。冗談です」
「冗談〜?本当は好きなくせにぃ〜❤三度の飯より猥談!て言ってたじゃん❤」
「いい加減にしろや!そんなこと言った覚えねぇわ!」
語尾ウザすぎるだろ…
「くだらない話はさておきそっちの成果はどうだったんですか?」
「成果とはなんだ?」
「はぐらかさないでくださいよ。どうせ調べてたのでしょ?ストーカーのこと」
「さすがのパイ察眼ね。まだ調べたばかりであまり把握は出来てないの。名前と住所くらいね」
普通に観察眼ていえばいいのに。でもさすが部長もうそこまでわかっているのか。
「僕も本人を見たのですが…」
僕は今日帰りにあったことを部長に話した。
「なるほど。でもまだ動かないでね。もっと正確な情報を手に入れて完全に心を折ってやらないと終わらないから」
「了解です。暫く僕もボディーガードをするつもりでしたから」
「ほんとすごい変わりようね。昔のあなたとは大違いよ」
「昔の話はやめてください。黒歴史なんで」
「私は昔の佐藤もなかなか好きよ?」
ほんと唐突にこういうのやめて欲しい。いつも冗談ばっかり言う人だから真意が掴めない。こっちは平静を保つのに必死なんだよ。
「そういう冗談はいいんで。また何かあったら連絡します」
「えぇ、こちらも何かあれば連絡するわ。おっぱい〜」
「バイバイの原型は残せや!」
これからバイトだと言うのにもう疲れた。