初めての相談者
「では今日の講義はここまで。来週はレポートの課題の締め切りなので忘れずに」
三限の西洋法制史を受け終わって受講生達が講義室から出ていく。
「佐藤お前レポート出したか?」
隣で一緒に講義を受けていた金髪のイケメンがスマホを弄りながら話しかけてきた。
「とっくに出してるよ。だから早川にはみせれないな。」
どうせまたレポート写させてくれとか言うつもりだろうから先に無理なことを伝えておく。
「お前が見せてくれなきゃ俺はどうやってレポート出せばいいんだ。俺にはお前が必要なんだよ。」
「真面目な顔できもいこと言うなよ…吐きそうになったわ」
「また綺麗な先輩にぶっかけるのか?」
「その話はやめてくれ。さもないと次はお前にぶっかけるぞ」
「それは勘弁。綺麗な顔が台無しになる」
自分でイケメンと言う所はむかつくが実際イケメンなので受け流しておく。
「まあせいぜい自力でレポート頑張ってくれ」
へーいというダルそうな早川の返事を後に講義室を出ていく。
「待っていたぞ佐藤」
「げっ」
講義室を出るとそこには部長がいた。
「げっとはなんだ。私がわざわざ出向いてやったんだぞ」
「そんな待ち伏せみたいなことしなくてもちゃんと行きますよ」
「そう言いながら前回は休んだでは無いか」
「あれはバイトの後輩が急に代わってくれて言ってきたから致し方なくですよ」
「あれ?ゲロぶっかけられた先輩じゃん。やっぱすげぇ美人だな」
後から講義室を出てきた早川が声をかけてくる。
部長は確かに美人だ。しかしこの人は黙ってれば美人なだけで…
「佐藤誰だこの顔面オチンチンボーイは」
ほら出た。いや早川がオチンチンボーイなのは否定しないが。
「え」
ほらドン引きしてるんじゃん。そりゃいきなり顔面オチンチンボーイなんて言われたら誰でも引くしビビるわ。
「じゃ、じゃあ俺はこの後予定あっからこれで。またな佐藤」
「おうまた明日」
そう言いながらチンボーイは足早に去っていった。
「部長ダメですよ。いきなり人に下ネタ言うなんて」
「すまない。私は初対面の人間には上がってしまってつい変なことを口走ってしまうのだ」
「どんな上がり方してんだよ…」
「それより今日は客人がいるんだ。どうやらお前の知り合いらしいぞ」
「え?僕の知り合い?」
大学内での知り合いは部長と早川位しか思いつかないが。
「とりあえず部屋に行こう。話は会ってからだな」
うちの大学は無駄に広い。ひとつの講義で移動だけに10分近くかかったりするため結構面倒くさかったりする。
「佐藤おまえバイトはなにしてるんだ?」
ボックスに向かう途中暇なのか部長がそんなことを聞いてきた。
「普通に居酒屋ですよ」
「どこの居酒屋だ?」
まさか部長来るつもりなのか。是非ともやめてもらいたい。
「え、えっと…あ、もう着きますね」
「あ、おいはぐらかすな」
こんな会話をしてる間にボックスに着いたためこの話は一旦終わらせておく。
「こんにちは…」
ボックスに入ると少し染めた茶髪のセミロングの女の子が挨拶をしてきた。
「こんにちは…ってあれ?佐原さん?」
「佐藤、この子とはどういう関係だ?」
「なんか部長がそれ言うと卑猥に聞こえますね。ただのバイトの後輩ですよ。後輩て言っても年齢は同じですが」
「佐原さんうちの大学だったんだ。交友関係狭すぎて知らなかったよ」
自虐を入れつつ怖い顔している佐原さんの警戒心をとく。
「お前…自虐で相手の心開いて1発狙ってるのか…?」
「あんたはいい加減その腐った思考をどうにかしろや!」
もうヤダこの部長…
「あの…!そういうの今はやめてください!」
突然佐原さんが声を上げた。
「ごめんごめん。うちの部長デリカシーをどっかに落としてきたみたいでさ」
にしてもこんな声荒らげる子だったのか。知らなかったな。
「佐藤私のデリカシーの捜索願は出してくれたのか?」
「その話はいいんだよ!」
「まぁおふざけはこれぐらいにして話を聞こうじゃないか佐原くん」
あんたがふざけだしたやん…。
「あの…私付きまとわれているんです…」
「佐藤お前…私に卑猥とか言いながらもう立派な犯罪者じゃないか」
「してねぇよ!え、僕じゃないよね?」
「佐藤さんじゃないです…ただ私大学にも友達いないし、私東京出身で今は一人暮らしで親にも言えないから…」
「それで人畜無害に見えるバイトの先輩の佐藤てわけか。ただ佐藤は人畜無害に見えて実は私に臭い白濁液をぶっかけたことあるんだぞ」
「いい加減ゲロて言えや!卑猥な言い方やめろ!あと臭いのは分かりますが傷つきます」
「その話は知ってるので大丈夫です。先輩がミスコン1位にゲロかけた話は有名なので…」
「え?僕ってそんなことで知られてんの?あの話そんな有名になってんの?ていうか部長ミスコン1位てなんの冗談ですか?部長こそ歩く猥褻物じゃないですか」
「お前こそ私をなんだと思っている。確かに口を開けばシもいことしか言わないが黙ってれば私は美人なんだぞ?あとミスコンに出たのはこのサークルの為だ。ミスコンで1位取ると賞金が出るしな。サークルの活動費に当てている」
「シもいて言葉初めて聞いたわ…」
「話が脱線したわね。付きまとわれてるというのはどういうこと?」
「私現実に友達居ないのでSNSをやってるんですがネットで仲良くしてた人に特定されてしまって…会おうとか気持ち悪い画像送ってきたり口にしたくないことしようとか言ってきたり…最近だとバイト先にまで来てしまって…」
「だからこの前バイト休んだんだね」
「はい…代わってもらってすみません」
申し訳なさそうに頭を下げる佐原さん。そんな佐原さんに部長が
「どうしてそんなことになったんだ?ネットで特定なんてそんな簡単じゃないだろう?」
「いや…あの…」
顔を赤らめ言いたくなさそうに顔を下に向ける佐原さん。まぁ大体察しはつくけど。
「エロい画像とか投稿したりしてたんだな?他にも外の写真とか。そのせいでストーカーに付きまとわれるようになった。違うか?」
少し怖い顔をした部長が佐原さんに詰め寄る。
「はい…その通りです…」
「君が受けた被害を証明するものはあるか?」
さすが弁護士の娘徹底的に潰すつもりだ。あぁ恐ろしい。
「えっと…私のスマホ渡すので自分で見てもらっていいですか…?もう見たくもないので…」
思い出して気分が悪くなったのか佐原さんは外の空気を吸いに行った。
部長は真剣な表情でメッセージのやり取りを見る。
「これはひどいな」
一通り見終わった部長の一言目は侮蔑を含んだような声色をしていた。
「どんなものだったのですか?」
「気になるのか?」
「まぁ一応」
「猥褻物の写真、佐原さんが自撮りした写真をプリントし射精した写真、他にも気色の悪いポエムが送られていた。ブロックしアカウントに鍵をかけたことがきっかけでストーカー行為に及んだて所だ」
「救いようのないクズですね。こういう場合ストーカー規制法が適用されますよね?」
「あぁ、この堕落というアカウントは佐原さんに対してつきまとい、名誉を傷つける行為、性的羞恥心の侵害にあたる」
さすが部長よくそんなことまで知ってるよ。
「でもどうします?そういう奴て警察に行ったらどうなるか的なことで脅してるんじゃないですか?だから佐原さんはここに来たんでしょ?」
勝手な推測だが僕が思ってることを伝えておく。
「あぁその通りだ。正確には警察に行けばお前の人生をめちゃくちゃにする。というあまりにも幼稚な脅しだがな」
「困りましたね。被害届は原則として被害を受けた本人からじゃないと受け取られないとか。恐らく佐原さんの疲弊しきった様子を見ると四六時中付きまとわれてると思いますよ?」
四六時中付きまとわれてちや被害届出した後に襲われかねないしね。
というか部長といる時間が増えてからこの手の知識が増えて仕方ない。
まぁ使えるものも多いから全然いいんだけど。
「さっきの推測といい観察眼といい相変わらず君はそこそこ優秀のようだな」
「そこそこてなんですか。友達少ないと色々目がいっちゃうだけです」
「女性限定だろ?」
「ちゃんと男も見るわ!」
「お前まさかそっちだったのか…佐藤智樹を改名して佐藤ホモ樹にしたらどうだ?」
「初めて僕の名前出たのになんで台無しにするんですか!」
「怒るとこそこなのか…」
珍しく部長がたじろいだ。いや別にホモてわけじゃないよ?ただ男友達と話のも楽で楽しいってだけで、見る分には女の子の方がそりゃ好きだから。ん?なんか僕変態じゃね?これ以上は墓穴を掘りそうだ。
「ホモだけにか?」
「人の心読むんじゃねぇ!」
ガチャと扉の音がして佐原さんが戻ってきた。
「先輩…外まで声聞こえてましたよ…」
まじかよ。僕の声そんな響いてた?うわ恥ずかしい。穴があったら入りたい。
「ホモだけにか?」
「しつこいわ!」
「先輩ホモだったんですね…やっぱり先輩に相談して良かった…」
佐原さんがここに来て初めて安心した顔をしていた。
いやそんなことで安心しないでもらえる?ていうかホモじゃないから。健全な女が好きな男だから。まぁここで下手に刺激してまた警戒されたら話しにくくなるし今はホモでいいや。え?いいのか本当にいいのか?
「1人で何ブツブツ言っている。気持ち悪いぞ」
「はいそれアウト!男に向かって臭い、気持ち悪い、臭いは絶対に言ってはいけない言葉なんだぞ!3Kの法則知らねぇのかよ!僕もう2個も言われてんじゃん!」
「臭い2回あったぞ。まぁお前のゲロは本当に臭いから2回分はあるな。良かったじゃないか三冠王だぞ」
「そんな三冠要らねぇわ!」
「ウフフ…」
あ、佐原さんが笑ったとこ初めて見た。
「すみません。最近ずっと悩んでて張り詰めてたので…久しぶりにこのような空気を味わったのでつい笑ってしまいました」
まぁ僕で笑ってくれるなら安いもんだな。
「話を戻していいか?」
部長が真剣な顔で仕切り直そうとする。
「佐藤のゲロについてだが…」
「どこに戻ってんだ!」
もうホントやだこの部長…