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ローナとの再会

数日後、子爵家に養子に入り、早々に行儀見習いという形で公爵家にやってきたローナと久しぶりに会うことができた。


「ローナ! 久しぶり!」

「お姉様……!」


ローナの到着を聞いて玄関まで迎えに出てきた私は、ローナの顔を見て今まで覚えてきた貴族としての振る舞いは吹っ飛んだ。


思わず駆け寄って、ローナをぎゅっと抱きしめた。


「ローナ、すごいよ! 本当に魔力を得て、ここに来ちゃうんだもん!」

「お姉様、お会いしたかった……!」


ローナも涙を浮かべながら抱きしめ返してくれた。

屋敷の人たちは仕方なさそうに笑って、私たちの無作法を見ない振りをしてくれた。



ローナが到着した夜、「まだローナの部屋が用意できていないから、今日だけナディアの部屋に泊めてあげてくれる?」とお養母様がウインクをしながら聞いてきた。


私は一も二もなく頷き、お養母様の優しい嘘に感謝した。


ローナが来ることはわかっていたのに、部屋が用意できていないわけがない。ローナが今日だけでも私と同じ部屋に泊まって、話ができるようにと気を遣ってくれたに違いないのだ。


ありがとう、お養母様!


その夜、私は久しぶりにローナと同じベッドに入った。

といっても、孤児院にいた時とは比べ物にならないくらい広くてふかふかのベッドだけれど。


「ローナ、ありがとう。結局貴族の養子にはなったけど、最初はそれを蹴って私のところに来てくれようとしたんでしょう?」

「当たり前です。わたくし、お姉様……いえ、ナディア様を追いかけるために何日も精霊殿に通い、魔力を得ることを願っていたのですから」


ローナは公爵家の使用人になるに当たって、当然かもしれないけれど、私の呼び方を変えることになった。さすがにここでお姉様はおかしいもんね。

いや、孤児院でもおかしかったけれど。


ローナは貴族になれる魔力を持っていたんだから、貴族になれば私と会う機会も少しならばある。先にはなるけれど、魔術学園でだったり、お茶会だったり、パーティーだったり。

でも、それだとうちのメイドになるよりは遥かに会える機会は少ない。だからきっと、ローナは貴族令嬢になることよりも、私の近くにいられるメイドの立場を選んでくれたのだ。


「ローナはただの貴族令嬢として過ごすこともできたのに、メイドとして私と一緒にいることを選んでくれて、私、本当に嬉しい。いつもはきちんとした態度で頑張るから、二人の時は、たまにこうしてお話させてね」

「はい」


二人でクスクス笑い合う。


「でも、わたくし、貴族令嬢としての生活なんて興味はありません。わたくしは本当にこれが一番の望みだったのです。わたくしは元々貴族のお屋敷でメイドになるべく育てられたからか、誰かにお仕えしてお世話をして差し上げることに至上の喜びを感じるのです。そして、ナディア様と出会った時、生涯の主に出会えたと思いました。孤児院では最低限しかお世話させて頂けませんでしたが、これからは堂々とお世話できるかと思うと、わたくしとても幸せです」

「そ、そうなの……?」


でも、確かにローナはよく私の世話を焼きたがった。食事を取り分けようとしたり、洗濯を代わろうとしたり。自分でできることは断っていたけれど、髪を切ってもらったり、忙しい時は仕事を任せたり、たまに甘えさせてもらうことはあったんだよね。


あれは気遣いとかじゃなくて、やりたくてやってたことだったのか。


でも、それならよかった。仕方なくメイドになったわけじゃなくて、少し安心した。


「みんなは元気?」

「元気ですよ、院長先生も相変わらずです。最後に挨拶できなかった子たちは特にですが、ナディア様が急にいなくなって少し落ち込んだりしていましたけどね。ですから、公爵家の養女になったと手紙が来た時は大騒ぎでした」


そりゃあびっくりするよね……私もびっくりしたもん。


「ナディア様が頑張っておられるのがわかったので、みんな負けてられないとそれぞれが頑張っています。小さい子たちも、片付けをきちんとするようになったのですよ」

「そうなんだ……すごいね、次に会ったら褒めてあげなきゃ」


ローナに孤児院の話を聞けるのがとても嬉しい。こんなお泊まり会は今日だけだろうから、もっとたくさん話したいな。


「それで、ナディア様。フィルハイド殿下とは、どのような経緯でご婚約なさったのですか?」

「へっ!?」


いきなりの話題転換に思いっきり動揺してしまった。


「同意の上なのですよね?」

「そ、それはもちろん」

「それならば、よかったです。もしかして、無理を強いられたのかと少し考えてしまって。以前お会いした時はそんなことをする方には見えませんでしたが、政治的な面も重要視しなければならないお立場でしょうから」


ローナがホッとしたような笑顔を見せる。


……私って、ローナから見ても政治に利用されやすい立場なんだね。

でも、私はフィルが好きで婚約したんだし、フィルも私のことを想ってくれているのはこの前のことで嫌でもわかった。フィルの気持ちを疑うつもりはない。


利用したい人はいたらしいけれど、私はフィルと婚約したんだからもう大丈夫だよね?


「ではナディア様は、殿下自身をお好きになったということなのですね! 是非詳しく聞かせてくださいませ!」


私を心配していたような顔から一転、興味津々に目を輝かせたローナに、私は真っ赤になって首を振った。


「な、内緒っ」

「まあ、そんな寂しいことをおっしゃらないでください。殿下はお優しいですか? どのようなところを好きになったのですか? いつお気づきになったのですか?」

「う、ううう……」


どうしてこうなるのか。

もう逃げたいと思ったけれど、同じベッドで寝ている状況では逃げることもできない。


「もう口づけはなさいました?」

「くっ!? ろ、ローナ、そんなのまだっ、婚約したばかりなのに!」


私があわあわしていると、ローナは小首を傾げた。


「もう婚約なさっているのですから、別におかしなことではないでしょう? わたくしが以前メイドをしていた時にはもっとすごいお話を聞いたことがありますし」


……もっとすごいお話って何?


というか、それってローナが孤児院に来る前だから、まだ十歳になってない時の話だよね!? 何の話を聞かされてるの!?


「婚約者と恋人は別、と言って決まった相手とは違う方と逢瀬を楽しむ貴族の子息令嬢はたくさんいるようですよ。まあ、ほとんどが政略結婚ですから、仕方ないのかもしれませんね」

「……」


それは、結構ショックな話だ……。


そうか、貴族ってほとんどが政略結婚で、自由に相手を選べないんだ。貴族は魔力が多い平民の子供を養子にして政略結婚に利用するって話は知っていたはずなのに、あまり深く考えてなかった。


私、好きになった人と婚約できて本当によかったな……。


……あれ? でも、魔力って魂の力なんだって、精霊王が言ってなかった? うーん、魔力が多い人の子供に魔力が多い魂が宿りやすいってことかな。私は魔力が多いけど平民生まれだし、それも確実じゃないんだろうな。


「ふふふ、ナディア様はまだまだ子供ですね。殿下は苦労なさりそう」

「……!」


と、年下のローナにまでそんなことを言われるなんて!

ローナには身体の成長が負けているとは思っていたけれど、精神的な成長も負けているということだろうか。


……なんだか悔しい。


「それに、従魔の方のことも気になります。人間、ではないのですよね?」

「うん、メノウは悪魔族なんだって。黒髪以外見た目は人間と変わらないけど、四百年以上生きてるんだよ。詳しい年齢は覚えてないんだって」


くすくすと笑いながらそう言うと、ローナは安心したように微笑んだ。


「メノウ様とおっしゃるのですね。いい関係を築かれているようで、よかったです。闇の大魔術師は死神とも呼ばれる恐ろしい方だという噂もありますから、それも少し心配だったのです」

「メノウは確かにちょっと考えが危ない時もあるけどちゃんと言えばわかってくれるし、悪い人じゃないから大丈夫だよ! また今度紹介するね」

「はい!」

「昼は私が忙しくしてるからか、メノウはいつも夜に来るんだ。たぶん気を遣ってくれてるの。みんなが二人きりで会うのはダメだって言ってたから今はメイベルたちに夜までいてもらってるんだけど、ローナも会うのは夜になっても大丈夫?」

「もちろんです。楽しみにしてますね」


久しぶりのローナとのおしゃべりが楽しくて、その夜はだいぶ夜更かしをしてしまった。


ローナはこれから私と一緒に魔術について学びながら、メイベルに付いて専属メイドとしてのお仕事を引き継いで行くんだって。


ローナのおかげで、ここでの生活も魔術学園に行くのも、とても楽しくなりそうだ。

読んでくださりありがとうございます!


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