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メノウの処遇

「ナディア様……」

「……!」

「あ、あれ……闇の大魔術師なんだよな? それを手玉に取るって……」


メイベルとフィルの護衛の人たちが、信じられないという目で私を見ているような気がする。


て、手玉に取るなんて、人聞きの悪いことを言わないで欲しい。ただ友達になっただけだもん。


「あの、フィル。メノウのこと、言ってなくてごめんなさい。私、メノウのこと捕まえてほしくなくて……」

「…………」


フィルは困ったようにこちらを見ている。


やっぱり、メノウのこと捕まえるつもりなのかな。

さっきはいきなりフィルに攻撃してきたわけだし、危険な人物だと思われても仕方ないかもしれない。


「フィル……」

「ナディア、いくら君が友達になったと言っても、そいつは犯罪者だ。今までの罪は消えない。君の前に度々現れると知って野放しにするわけにはいかないよ」


フィルが王族の顔をしてそう言った。


犯罪者……。

でも、そうだよね。やっぱり、メノウを見逃してはもらえないらしい。

……たくさんの人を苦しめてきたのは確かなんだから、仕方がないのかもしれない。


でも捕まってしまったら、メノウはどうなってしまうんだろう?

もしかして、死刑になったりするんだろうか?

私は、そう思うと余計に他の人にメノウのことを言うことはできなかったのだ。


「野放しにできないと言うが、私は捕まるつもりはない。今すぐにでもここを離脱できるし、例え牢に入れられたとしても、簡単に脱出できるだろうな」


メノウは自信満々にそう言い放つ。


「……お前は、ナディアの立場を考えないのか? 罪を償ってもいない犯罪者と仲良くしているなどということが知られたら、ナディアが周囲にどう言われるのか考えたことはないのか」


フィルが怒りを込めてメノウを見据えている。

メノウが目を細めてフィルを見た。


「だから、あまり人前に出ぬようにしている。それに、闇の大魔術師の姿は知られていないはずだ。多少私がナディアといても、お前らが私をそう呼ばなければそこまで不都合はないと思うが?」

「初めはそうでも、どこから話が漏れるかわからないだろう。お前の見た目や行動から周囲が感づくかもしれない。お前がナディアのそばにいることがナディアにとって危険だということに変わりはない」


フィルは口を緩めない。


「お前は今日のように、何かあれば人前でも姿を現すつもりなんだろう。その時にもし大勢に目撃されれば、ナディアが困ることになるとは思わないのか? 自分がナディアといられればそれでいいのか?」


フィルにそう言われて、メノウが眉を寄せて押し黙る。

ちらりと私を見る目には、心の葛藤が見えた。


……そっか、私も、メノウと仲良くしていることで何か言われる可能性もあるよね。

私はそれでもいいけれど、公爵家に迷惑がかかったりするのは困ってしまう。


それに、ついさっき私はフィルの婚約者になった。

そのことを踏まえると、余計に闇の大魔術師と友達だなんて知られるのはまずいことなのかもしれない。

フィルにも迷惑がかかるかもしれないのだ。


人前に出る時は幻術を使ったとしても、緊急時ならきっと魔術を使うことになる。

メノウの魔術の腕は異質だ。

そうなったらきっとすぐに感づかれて、いずれはバレてしまうだろう。


私は悲しい気持ちでメノウを見上げた。


もうメノウと友達でいちゃいけないんだろうか。

メノウは 呪いの魔術具をたくさんばら蒔いたり、戦争を煽ったり、地形を変えるほどの大魔術を実験したりしていたと言っていた。


何か刑を与えられるとしても、簡単なものではきっとないよね……。


「メノウ……」

「……わかった。もう、ナディア以外の前には現れない。これでいいのだろう」


メノウが顔をしかめながら冷たい目でフィルを見てそう言った。

けれど、フィルは全く引かず、それどころかなぜか怒気が増した気がする。


「良い訳ないだろう。ナディアが一人でいる部屋にでも現れるつもりか?」


……なんだか怒っている理由が変わった気がするけど気のせいかな?

今までもずっとそうやって会っていたと言ったら怒られそうだ。


私はそう思ったのだけれど、メノウは違ったらしい。


「そんなことは今までも……」

「め、メノウ!」


私は焦ってメノウの発言を止めた。

それはたぶん言っちゃダメだと思うの!


「……今までも?」

「!?」


ゆらり、とフィルから黒いオーラが溢れ出しているように見える。


あああ、フィルの目が逆三角でとても怖いことになってるよ!?


メイベルも護衛の人たちも、青ざめて固まってしまっている。


「安心しろ。私はナディアといたいだけであって、たとえ部屋に二人きりだったとしてもナディアが望まないことをするつもりはない。ナディアが望めば話は別だが、せいぜい抱きしめるくらいのものだ」

「おいお前やっぱり死刑にされたいようだな」


黒いオーラを放つフィルの口から『死刑』という言葉が出て私は慌てた。


「あの、メノウは本当に、私が嫌だと思うことはやらないよ? だから別に部屋に二人きりになっても」

「ナディア」


逆三角ではなくなったけれど、やっぱり怖い笑顔でフィルが私を振り返り、優しく、でも逃げられないくらいの力で両肩を掴まれた。


「コイツじゃなくても男と部屋で二人きりになるなんて絶対に駄目。そんなことが知られたらナディアの名誉に大きな傷がつくことになるんだよわかった?」

「は、はい……」


フィルの勢いに押されてつい「はい」と返事をしてしまった。


でも、それだともうメノウには会えなくなってしまうのかな。

そう思うと悲しくなってきて、私は思わずフィルの服を掴んで懇願した。


「あの、フィル、私……もうメノウに会っちゃダメなの……?」

「ぐ……っ」


フィルがまるで攻撃を受けたかのように胸を押さえた。


「えっ、フィル? どうしたの?」

「いや、何でもない。けど、はぁ……」


フィルが仕方無さそうにため息を吐いた。


「……」


そして、ジロリとメノウを見た。

メノウも忌々しそうな表情でフィルを見ている。


「……ナディア、そんなにコイツと離れるのが嫌なの?」

「うん」

「即答……」


フィルが頭痛がするとでも言うように手で頭を押さえた。


「メノウが呪いの魔術具をばら撒いたりしてたことは知ってるけど、本当は悪い人じゃないんだよ。ねえフィル、メノウはどうなっちゃうの?」


私がひどい処罰は与えないでほしい、と懇願するようにフィルを見上げると、フィルは心底困ったように眉を下げた。


「……実際、噂が独り歩きしているところがあって、彼がやったという証拠があるものは本当は少ないんだ。戦争を唆して双方を破滅させたということで怖れられたりしているけど、それは結局両者が決めたことで、罪というわけではないし」


じゃあ、メノウはそんなに重い罪にはならないってこと?

私が期待を込めてフィルを見ると、フィルは厳しい顔で首を振った。


「でも、呪いの研究は犯罪だよ。彼が呪いの魔術具を大量に作り出していたことは確かだ。彼を無条件で許してしまったら呪いの魔術具に苦しめられた人も納得しないだろうし、呪いの研究を禁止する法を定めた王家の面目も立たない。呪いの研究は許されるのかと他の人が言い始めて研究する人が現れるかもしれない」

「……っ」


自分の考えの甘さに頭を殴られたような気がした。

青ざめてうつむく私に、フィルが仕方無さそうに声をかけてきた。


「……だから、ナディアがこれからも彼と友達でいるには、彼に何らかの功績を立ててもらった上で、枷をつけてもらう必要があると思う」


私はバッと顔を上げてフィルを見た。

それって、条件を満たせば私はまだメノウと友達でいられるということ?


私の表情を見て、フィルが苦笑した。


「罪を償うにしても彼は有名だし、軽いものじゃ国民は納得しないはずだ。だから、誰もが納得するような功績を立ててその報奨として罪を帳消しにすればいいと思う。それでも恐らく不満は上がるだろうから、完全に自由にはできないけど」


私は衝撃を受けた。

フィルって本当にすごい。そんなことを思い付くなんて!


しかも、フィルはメノウとは仲良くないのに、私の友達だからってこうやって考えてくれているのだ。

私は本当に素敵な人の婚約者になれたと思う。


尊敬の眼差しでフィルを見るとフィルは不本意なのだと言うように顔をしかめたけれど、照れているのか耳が真っ赤になっていた。


「ふむ。功績か。呪いの魔術具でも提供するか?」

「そんなことは当たり前だ! 提供じゃなくて提出しろ。呪いの研究成果など功績でも何でもない!」


メノウの言葉にフィルが噛みつくように答えたけれど、私はもうあまり心配していなかった。


だってメノウの功績なら、ふさわしいものがすでにある。


「大丈夫だよ! メノウにはもうちゃんと立派な功績があるもん」


私がそう言うと、みんなの視線がこちらへ向いた。


みんな何を言い出すのかと怪訝な表情をしているし、メノウは心当たりがないのか首を傾げている。


けれど、フィルがふと思い当たったような顔をして恐る恐る聞いてきた。


「……ナディア……まさかとは思うけど……」


フィルはとても嫌そうに顔をしかめている。

……確かに、フィルからしたら複雑かもしれない。


「うん、さっきも言ったけど、メノウが私に助言してくれたからアレクサンダー殿下の病を治すことができたんだよ。どのみち私のことは公表しないんだし、全くの嘘でもないんだから、メノウの功績だって発表すればきっとみんなメノウのことを受け入れてくれるよね?」


私が晴れやかにそう言うと、フィルは額に手を当てて、がくりと項垂れた。

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