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回復薬を巡る攻防


あれ、誰か来た?


お城のメイドさんが確認に行って、ドアの前にいる人と話をして戻ってきた。


「ビシャス・ランドローディ様がいらっしゃって、皆様にお目通り願いたいと……」


ビシャス・ランドローディ?


あれ、どこかで聞いたような……あ、確か挨拶会の前に控え室に来た、ちょっと変な人? どうしてここに?


「どなた?」

「……緑の魔術師団の副師団長だ」


お養母様の疑問にお養父様が答える。でも、なぜここに来たのかはわからないのか、訝しげな表情だ。


「……ナディア、通してもいい? ちょっと思うところがあるんだ」


そう尋ねてきたフィルに、私はこくりと頷いた。


「通せ」


フィルがそう言うと、メイドがドアに向かい、彼が入ってきた。人好きのする笑顔でにこにことこちらへ向かってくる。


「入室を許可して頂き、ありがとうございます。ご機嫌麗しく、殿下、公爵閣下、公爵夫人、そしてグレイスフェル嬢」


どう見てもみんなのご機嫌は麗しくないと思うけれど、それは形式美というものなのかもしれない。


「何の用だ、ランドローディ」


フィルがいつもと違う、上に立つ者の雰囲気をしている。

……私と仲良くしてくれていても、やっぱり王族なんだよね。


「いえ、私はただそこにおられるグレイスフェル嬢に先ほどのお詫びをしたいと思いまして」


「「あ?」」


ひょえっ!?

フィルとお養父様の目がいきなり氷点下になったよ!?


「……おい、ナディアに何をした?」

「……」


えええええ、あの、二人とも、ちょっと怖いですよ? フィルは何か口調もおかしいし。二人の後ろに何か悪魔みたいな黒いものが見えますよ!

そしてお養母様も止める気配はないですね!

というかお養母様、またしても顔は笑顔なのに目は据わっているというすごい技を使っていらっしゃいますね! 二人を止めるどころかむしろお養母様にも黒いオーラが見えますけど!?


「あ、あの! 大したことではございません、謁見前に少しお会いしただけですから」


頭痛のせいであまり大きな声は出なかったけれど、みんなには聞こえたらしい。みんなの視線がこちらに向いた。


「やあ、さすが初代女王の生まれ変わりであらせられるご令嬢、なんと慈悲深い! 突然控え室を訪れた私の無礼をいとも容易くお許しくださるとは」


「「控え室を訪れた?」」


み、見事に揃ってますね、フィルとお養父様。

二人の息がそんなにピッタリだなんて知りませんでした。二人は血縁じゃなかったはずだよね?


「はい。私は、画期的な事前呪文を開発されたという初代女王の生まれ変わりであるご令嬢に一目お会いしたいと、魔術を研究する者としての興味を抑えきれなかったのです。今日彼女がいらっしゃるであろう控え室に不躾にも訪問してしまったのですが、やはりご迷惑だったようで、お話をすることは断られてしまいましたが」


「……画期的な事前呪文?」


お養母様がそう呟いてこちらを見た。


……も、もしかして、昨日アゾート先生に伝えたあれのことでしょうか。

アゾート先生、本当に魔術師団で会議にかけたの? しかも昨日の今日で?


「いきなり控え室に一人のところにやってきて話をしたいなどと、娘が断って当然だ。貴様がそのような礼儀知らずだったとはな」


お養父様が相変わらずの冷たい目でビシャスを睨む。


「おっしゃる通りです。ですので、少しでもお詫びになればとこちらをお持ちした次第でございます。もしやご令嬢にはこれが必要なのではと思いまして」


そう言ってビシャスはシュンッと手元に小瓶を出現させた。


「それは……」

「……」


お養父様がまさかと目を見開く。フィルは予想していたのか、驚いた様子はない。


「第三級の魔力回復薬です。見たところやはりご令嬢は魔力欠乏を起こしているご様子。是非ともこちらをお役立ていただきたく」

「待て。やはりだと? どうして貴様が今の状況を知っているのだ」


お養父様は警戒心を緩めない。

でも確かに、どうして私がここにいて、魔力欠乏を起こしていることを知っているんだろう?


「簡単なことですよ。私も挨拶会にお邪魔したのですが、第一王子殿下のお姿がありませんでした。その後ご令嬢はなぜか帰る様子がなかったので、もしやと思えばやはり殿下の元へと向かわれ、そしてしばらくすると、なんと殿下が顔色も良く部屋から出てこられたではありませんか! メイドたちも涙を流して喜んでいるのを見たら、彼女が奇跡を起こしたのだと考えるのが普通でしょう?」


「…………」


えーと。この人、私の行動をずっと監視していたんだろうか。ちょっと怖いんですけど?


「……何が目的なのだ」


お養父様が相変わらず怖い顔で凄む。


「いえ、ですから私は先ほどのお詫びをする機会はないかと少し様子を窺っていただけでして。奇跡の代償はご令嬢には少し辛いもののようですから、私の作ったものでよろしければ是非お使いください」


そう言って回復薬を差し出すビシャスは、本当に何も下心などありませんという風情だ。


「……代金はこちらで出そう。いくらだ」


フィルがビシャスに自分が買い取ると言い出した。

どうしてフィルが買い取るの!?


「いえ殿下、私が。ナディアは私の娘ですから」


お養父様がそう言って前に出る。


「だが、ナディアがこうなったのは兄上の為だ。その魔力の回復には王族が代金を出すべきだろう」

「いえ、先ほども言いましたがこれはお詫びなのです、代金などどなたからも頂くつもりはありませんよ」


フィルが主張したのを首を振って遠慮し、ビシャスが宮廷医師のおじいちゃんに回復薬を渡す。


「一応、調べてから飲ませて差し上げてください。あまり第一印象が良いとは言えなかった私の薬など、怪しいと思われても仕方ありませんからね」


そう言って爽やかに笑った。


「緑の魔術師団の副師団長であらせられるランドローディ様の作った回復薬ならば間違いはないと存じますが、そうおっしゃるならば調べてみましょう」


宮廷医師のおじいちゃんがシュンッと何やら魔法陣の描かれた丸い板のようなものを取り出した。

みんなメノウがくれようとしたような腕輪の魔術具から色々と出しているけれど、やっぱりすごく便利そうだなあ。


私はちらりとビシャスを見た。

ビシャスはそれに気づいて、にこりと笑顔を向けてきた。


おじいちゃん先生が魔法陣の描かれた板の上に小瓶を置いた。板に魔力を流しているのか、両手は板の上だ。すると魔法陣が淡く黄色に光った。


「間違いなく第三級の魔力回復薬ですな。さすがでございます、ランドローディ様」

「いえいえ。グレイスフェル嬢、私のお詫びの気持ちを受け取って頂けますか?」


ビシャスがにこやかに私に問いかけた。

私はちらりとみんなの様子を窺う。

みんな、あまり歓迎はしたくないけれど、私の体調には代えられないというような複雑な表情をしている。

けれど、貰うなと言っているわけでもないから了承してくれていると見なしてもいいのかな?


「ありがとう存じます、ランドローディ様。とても助かります。先ほどのことは気にしておりませんので、あなた様もどうぞ気になさらないでくださいませ」


そう言っておじいちゃん先生から回復薬を受け取った。


蓋を開けて中身を飲む。

……うぇ。やっぱり美味しくない。味は等級に関係ないんだね。これ、もうちょっと美味しくならないのかな?


「そう言って頂けてホッと致しました。やはり噂通りのお優しいご令嬢ですね」


そう言うビシャスはどう見てもただのいい人だ。控え室では緊張していたし、私が警戒しすぎだったのかな。

そう考えたら、ただ魔術の研究に熱心なだけだったこの人を邪険にしてしまったことがなんだか申し訳なくなってきた。


「先ほどはわたくしも少し緊張しておりましたので、お話できなくて申し訳ございませんでした。こちら、貴重な回復薬だったのでしょう? やはり代金をお支払い致します」


呪い事件の報酬があるから、ちゃんと払えるよ!


「いいえ、私が勝手に持ってきたものを、代金などお支払い頂くわけには参りません。ですが、何かお返しをと思ってくださるならば、どうか私と友人になってくださいませんか?」


ビシャスがにこやかにそう言うと、フィルとお養父様の雰囲気がまた不穏なものになってきた。


「友人ですか?」

「はい、よろしければ友人として、名前で呼ばせて頂けると光栄です」


うーん、そんなことでいいの? といっても、魔術の研究に協力してくれとか言われても困るし、名前で呼ぶくらい何でもないよね。


「構いませんよ。ランドローディ様」

「ありがとうございます! ナディア様も是非私のことは名前でお呼びください」


ビシャスはとても嬉しそうに笑った。


「はい、わかりました。ビシャス様」


そう言った私を、みんながため息をついて頭を抱えるように見ていたことに私は全く気づいていなかった。


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