どう思っているの?
ついにやってきました、今日は王族へのご挨拶にお城へ行く日です。
「完璧ですナディア様、お美しいです! いかがですか!?」
私の身支度をしてくれていたメイベルの達成感溢れた言葉に改めて鏡を覗くと、誰だこれ、という感想しか出てこない。どちらのお嬢様でしょうか?
仮面パーティーの時も洗礼式の時も、可愛くしてもらったなあと思っていたけれど、今日は何だか雰囲気が違う。私の癖っ毛は丁寧に梳られてサラサラになり、少し巻いていることで可愛いカール状に整えられている。けれど上半分は複雑に結い上げられていて、いくつもちりばめられている小さな飾りのおかげでとても華やかだ。
けれど衣装がシンプルにまとめられているのもあって、全体的には清楚なお嬢様という雰囲気。洗礼式と同じく白いドレスのふんわりとしたスカートには上質で艶やかな布がふんだんに使われていて、私が動く度に綺麗に揺れる。
派手ではないけれど繊細で綺麗なアクセサリーもつけているので、鏡の中の自分がとてもキラキラしているように見える。
今日も薄くメイクをしてもらっていて、今までで一番綺麗にしてもらったな、と思った。洗礼式の時より完璧に仕上げられた自分にびっくりだ。孤児院のみんなが見たら、私だとは絶対にわからないと思う。
いやあ、メイクと衣装で化けるものだよね……。
私はメイベルを見上げた。今日はメイベルもお城へ行くので控え目ではあるがドレス姿だ。侍女の役割をするためらしい。元々侍女を兼ねているような仕事内容だけれど。
「すごいわ、メイベル。こんなに綺麗にしてくれて、どうもありがとう」
もはや尊敬に値するレベルだよ。
「はうっ……」
メイベルは褒められて嬉しそうだ。私を見て目を潤ませ、赤くなった頬を手で押さえている。
「と、当然でございます。ナディア様の魅力を引き出すことはわたくしの使命ですもの」
メイベルの仕事にかける情熱はすごいね。
「お姉様、とってもとっても綺麗よ! さすがわたくしのお姉様ね!」
「なでぃたん、きれーよー!」
アリアナとマリエラからも大絶賛を受けた。今日も妹たちが可愛いです。
お養母様とメイベルと一緒に馬車に乗り込んで、お城まで進む。別に歩けない距離でもないけれど、せっかくの装いが崩れそうだし、貴族令嬢が歩いて行くのはマナー違反なんだって。どこに行くにもこれだと、貴族令嬢って運動不足になりそうだよね。
「お養母様、謁見の時、お養父様とお養母様もその場にいらっしゃるのですよね?」
「そうね、ランディは朝から城で仕事をしているけれど、合流してから行くつもりよ。挨拶会の最大の目的は王族への顔見せですけれど、貴族の子として、他の貴族への御披露目も兼ねていますからね。貴族の出席は自由となっていますけれど、今日はたくさんの貴族が出席すると聞いているわ。みんなナディアを一目でも見たいのね」
お養母様はからかうようにクスクスと笑った。
うう、みんな、初代女王の生まれ変わりは一体どんな奴だと品定めに来るんだろうな。ただでさえ今日は心が落ち着かないから、余計な気は取られたくないのに。
不安げにそわそわしていると、お養母様がこてりと首を傾げた。
「まあナディア、緊張しているの? 大丈夫よ、挨拶会は王族へ向けて挨拶するためのものですから、見学者に発言権はないわ。気にすることないわよ」
「そ、それはそうなのですけれど……その、ほ、本番でうまく出来るかどうか心配なのです」
私はなんとなく気まずくて目を逸らした。本当は少し違うからだ。
……本当は、フィルに久しぶりに会えると思ったら、なんだかそわそわしてしまうのだ。
グレイスフェル家に養子に来てから、フィルには一度も会っていない。
フィルは王子なんだし、今は緊急時でもないんだから、私という友達に会うためだけに軽々しく外を出歩くわけにはいかないのだとわかっている。けれど、かといって私がお城に遊びに行けるわけでもないので、フィルには軽々しく会うこともできないんだよね。
用事があるわけでもないのだからフィルが私に会いに来ないのは当たり前のことだし、別にその必要だってないのだとわかってはいる。
……私が勝手に、会えなくて寂しいと思っているだけで。
今日だって言ってしまえば貴族の決まりなので仕方なく会うことになるだけなのだけれど、それでも久しぶりに会えると思ったらなんだか嬉しくて、そわそわしてしまう。
うぅ、私、なんだか浮かれてるよね。そんなに長い間会えていなかったわけでもないのに、フィルに会えると思うとすごく嬉しい。こんな感じでは口上が頭から吹き飛んでしまうかもしれない。落ち着け、私。
「まあ……」
私がぐるぐると考え事をしていると、お養母様が少し驚いたように扇子で口元を隠した。
「お養母様、どうかなさいましたか?」
「……ナディア、あなた、フィルハイドと仲が良いわよね」
「え、はい、そうだと思います」
王子様が元平民の私と仲良くしてくれているなんて、普通はありえないことだよね。
「フィルハイドのことは、どう思っているの?」
お養母様が私を見つめながら聞いてきたけれど、顔半分が扇子で隠れていて、どういう表情なのかよくわからない。
「どう、とは?」
「異性として、どう思っているのかということよ」
「へ!?」
い、異性!?
「そ、そんな目では見ておりません、恐れ多いことですもの。いくら公爵家の養女になったとはいえ元は平民なのですし、釣り合わないことはきちんと承知しております」
私は慌てて否定した。元平民が王子を狙っているだなんて色んな人に呆れられそうな案件だ。
「わたくしはナディアの気持ちを聞いているのよ。フィルハイドのこと、どう思っているの?」
お養母様は声の調子を変えず淡々と質問を繰り返した。
……私の気持ちって。
「……正直、あまり、深く考えたことはありません。フィルはとても素敵な人だから、きっとふさわしいご令嬢と結ばれることになると思います。私がもしフィルを好きになってしまったら、私も辛いでしょうし優しいフィルだって困ってしまいます。誰にとっても良くないことになるのだから、そんな風には考えないようにしよう、とは思っています」
フィルといると楽しいし安心するし、たまにからかうようなことを言ってくるから、ドキドキしたりもする。
孤児院を出ないといけなくなった時も、私のことを考えてくれて、悲しい気持ちを半分持っていってくれた。
その上こんなに素敵な家族を紹介してくれて、フィルにはとても感謝している。
……それと、実は私を養女にしてほしいとお養父様やお養母様に頼みに来た時のことを、少し前にメイベルに聞いたのだ。フィルは頭を下げて私のことを受け入れてくれるように頼んでくれていた。私のためにこんなに動いてくれた人は初めてで、フィルはどうしてそこまでしてくれるんだろうって思う。
……本当は、そういう気持ちを持ち始めている自分に気づきそうな時が何度かあった。
けれど、見ない振りをしておかないと後で辛いのは自分だし、フィルを困らせるなんてもっと嫌だ。
そう言うと、お養母様は困ったように眉をひそめ、目を細めた。
「…………」
「お、お養母様?」
少し逡巡した様子を見せた後、ふうっと息を吐いて扇子を閉じた。
「まあ、わたくしは口出ししないと言ったものね。大人しくしていましょう。これもあの子が頑張ることよね!」
そう言うと、お養母様は一転、うふふと声をあげて楽しそうな笑顔になった。
……お養母様ってば、何がそんなに面白いんでしょうか。
ずっと黙って聞いていたメイベルは、なぜか微笑ましいものを見るような顔で私を見ていた。




