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閑話 メイベル、布教中!(sideメイベル)


 わたくしはメイベル・ガードナー、十八歳です!

 一応子爵家の貴族ですが、たいした家柄でもなく、魔力も基準以下のため、わたくしはただの魔力使い。


 なのに運良くグレイスフェル公爵家に行儀見習いに来れたのは、簡易な魔術具を発動させるだけの魔力はあったことと、ずばり、婚約者のコネです!

 一応、わたくしにも婚約者がいるのです。誰も興味がないと思いますので馴れ初めは省略致しますけれど、とにかくその年上の彼がグレイスフェル公爵様の部下だったという繋がりで。


 本当に運が良かったと言わざるを得ませんが、わたくしにさらに驚くべき幸運が舞い込んだのです。


 そう! ナディア様の専属メイドという役割を与えられたのです!!



「ああ、ナディア様。どうしてあんなにお優しくて、可愛らしくて、神々しいのかしら。ねえ、カティ?」

「……初代女王の生まれ変わりだからでしょ?」

「やだ、わかってるじゃない!!」


 わたくしはバシッとメイド仲間で同期のカティの背中を叩きました。


 今は仕事後のお茶をメイド仲間たちと楽しんでいます。

 今日、ナディア様が洗礼式を受けられて、神々しく輝きを放ったまま屋敷に戻ってきたのです。本当に、ナディア様はわたくしなどには予想もできないようなことをごく普通に行われるのですよね。


「痛った! あんたねぇ……毎日同じこと言ってたらそりゃわかるわよ! はぁ……あんたの『ナディア様病』は重症ね」


 まあ、病気だなんて失礼ね!

 わたくしはナディア様を尊敬しているだけなのに。


 両親に聞かされていた初代女王の偉業の数々。

 この世界でただ一人精霊王の加護を持ち、人間に魔術をもたらした。魔法が使えるのに、とびきりすごい魔術師でもあった。

 貴族でありながら魔力が少ないわたくしには、憧れそのものでした。


 そんな彼女の生まれ変わりであるナディア様の、専属メイドになれるだなんて!


 ナディア様は平民の生まれでありながら魔法が使え精霊が見え、やはり膨大な魔力も持っていらっしゃいました。まだきちんと扱えないようですが、あんなに体から溢れるほどの魔力ですもの、それも当然です。

 ナディア様は間違いなく初代女王アイリス様の生まれ変わり。なんと洗礼式では精霊王にもお会いになったとか。


 しかも能力だけでなく、中身も素晴らしいのです!


 謙虚で努力家でお優しくて、一メイドでしかないわたくしに、お友達のように向けてくださるあの笑顔の可愛らしさといったら!


 しかも、この公爵家との縁を取り持ったフィルハイド殿下とは大変仲がよろしいようで、初めてお屋敷にいらっしゃった時のお二人のやりとりは見ていて心がほわほわと和みました。とてもお似合いのお二人だと思います。


 殿下は明らかにナディア様に好意を寄せているようでしたけれど、ナディア様は憎からず想いを持ちながらもまだご自分のお気持ちを自覚していらっしゃらないご様子でしたね。


 それどころか、あんなに分かりやすい態度を見せる殿下のお気持ちにも気づいていらっしゃらないようです。


 そこがまた可愛らしいのですけれど!


 ああ、わたくし、ナディア様にお仕えできて本当に幸せ者です!


「ねえメイベル、今日のナディア様はどんなご様子だったの?」

「アリー!」


 にこやかに声をかけてきたメイド仲間のアリーはわたくしと同じく、ナディア様が初めて公爵家にいらした時に同じ部屋にいました。つまり、一緒に精霊の姿を見た仲間なのです!


 その時からアリーはナディア様大好き仲間です。仕事後には『今日のナディア様』を語り合うのです。


「あんたたち、ナディア様を語り合うならよそでやってよね。まったく、私にも魔術が使えたら、掃除なんて魔術でちょちょいって済ませちゃうのに」


 まあ、カティったら、何を言っているのかしら。


「魔力はそんなことに使うものではないわ。使いすぎると体調が悪くなるのだし、もっと有用なことに使わないと。掃除は魔術じゃなくてもできるでしょう?」

「魔術師ならそう思うのでしょうけど、掃除担当メイドの私にはこれが一番有用な使い方よ!」


 どん、とテーブルを叩いてカティが熱弁しました。

 貴族のお屋敷で働くメイドは、狭い世界に生きていますからね。仕方がないのかもしれません。


「ナディア様がどんな方でどんな魔法やら魔術やらを使おうが、私には関わりのないことだわ」


 カティが会話を終了させるようにそう言いました。


 もっとナディア様を尊敬する仲間が増えればいいのですけれど、直接あの場面を見ていないメイドたちはわたくしたちが話を大げさに言っているだけだと思っているようなのですよね。


 はぁ、どうしたらもっとナディア様の魅力を周囲にお伝えできるかしら。


 わたくしももうじき成人。

 成人になったら、ここを辞めて結婚しなければなりません。結婚が嫌なわけではないのですが、もうナディア様のおそばにいられないと思うと少し寂しくもあります……。


 ですからわたくしがいなくなる前に、出来るだけたくさんのメイド仲間にナディア様の素晴らしさを理解してもらい、わたくしがいなくなった後の環境を整えておきたいのです!


 そのために、わたくしは今日も他のメイドたちに『今日のナディア様』を語って聞かせるのですよ!!




 今日はナディア様が初めて魔術の訓練をされる日です。


 ナディア様に魔術を教えにいらしたアゾートという先生は少し変わった方のようですが、ナディア様の素晴らしさをよくわかっておられる、とても良い方のようですね!

 わたくし、とても安心しました。


 わたくしは大人しく部屋の端に立って、ナディア様が授業を受けていらっしゃるのを見守ります。


 はあ、ナディア様今日も可愛らしい。


 ナディア様はアゾート様の少し不躾なお願いにも嫌な顔一つ見せず、また素晴らしい魔法を見せてくださいました。

 雪を部屋に降らせ、その雪で精霊を象るだなんてなんて美しい魔法でしょう!


 魔法を初めて見たメイドたちが目を点にして驚いています。

 うふふ、これでわたくしの言葉が嘘でも大げさでもないことがわかったことでしょう。ナディア様の信者がまた増えそうですね!


 アゾート様も大変驚いていらっしゃって、さらに精霊が見える魔法をかけてもらった時には狂喜乱舞していました。

 隣にいるメイドのミリアが震えながら目を輝かせているのがわかります。彼女もナディア様の素晴らしさがようやくわかったようですね!


 その後、魔術の授業を開始されてすぐ、ナディア様は事前呪文が言えると言い、いきなり魔術を使う流れになりました。


 わたくしは口を挟める立場ではないので黙っていましたが、これはかなり常識を逸脱した方法ではないでしょうか?

 少しだけ不安になりました。


 けれど、ナディア様は難なく事前呪文を唱え、魔術の準備を終えられました。さすがはナディア様、練習もなくいきなり事前呪文を完成させるなんて聞いたことがありません!


 アゾート様も大変興奮していらっしゃるご様子です。それだけナディア様のされたことが凄いことだということですね!


 ナディア様はなぜか少し躊躇ったような様子を見せましたが、意を決したように結びの呪文を唱えられました。


浄化(ミオフィレイア)》!


 ナディア様がそう言った瞬間、ぶわりと清らかな風が吹き、それは部屋中を巡って清浄な風の膜がわたくしを通り過ぎていきました。

 大した衝撃ではありませんでしたが、いきなり風を受けたことで驚いてしまい、へたりこんでいるメイドもいました。


 ナディア様が慌てて魔術を中断されましたけれど、それは少し遅かったようで、浄化の魔術は屋敷中を駆け巡った後でした。



「本当にごめんなさい!」


 ナディア様の浄化の魔術にいきなり晒された驚きで持っていたお皿を割ってしまい、泣きそうになっていたメイドのラナにナディア様は申し訳なさそうに謝っていらっしゃいます。


 何か被害はなかったかご自分で直接聞いて回るのだと聞かなかったナディア様は、たくさんの使用人に驚かせてしまったことを詫びて回りました。一番の被害と言えるのがこのお皿が割れたことだったのですけれど、そこまで高価なものでもないですし、公爵や奥様がお怒りになるようなこととも思えません。


 けれどナディア様は、自分のせいだからあなたは謝る必要はない、わたくしが謝っておきますからとラナに言っていました。


 ラナは感動したように目を潤ませてナディア様を見ています。どうやらラナもナディア様の信者になったようですね。


 屋敷中をあっという間にピカピカにしてしまったナディア様に、ついにカティも陥落しました。今では「ナディア様はなんて素晴らしい方なのかしらね!」なんて言っています。


 わたくしが頑張って伝えなくとも、ナディア様はご自分で周囲を魅了していってしまうのですね!

 わたくし、安心致しました。


 そしてわたくしは今日も、ぐっと数を増したナディア様の信者に『今日のナディア様』を聞かせてあげるのですよ!

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