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魔術をやってみよう!


 その後もアゾート先生はなかなか落ち着かなかった。改めて精霊人形を見て、「これが精霊ですか!」と騒ぎ、例のごとく精霊を見せてあげると、興奮して踊り出していた。狂喜乱舞ってこういうことを言うんだなあと思いました。



「いや、お騒がせして申し訳ありません」


 しばらくしてアゾート先生がようやく落ち着いた。


「いいえ、お気になさらず」


 私はにっこり笑って一連のやりとりを流した。

 さて、いよいよ魔術の授業開始です!


 一応本を読んで予習してみたんだけど、全然意味がわからなかったんだよね。これ、絶対学園に通って教わらないと魔術師になるのは無理だよ。


 とりあえず、まずは魔力を感知して自在にコントロールできるようにならなければいけないことはわかったのだけれど、その方法が全く理解できなくて、私はまだ光った状態のままなのです。


「先生、この光は落ち着くでしょうか?」

「……うーん、興味深い。魔力が解放された瞬間のものがまだ体に収めきれていないのだろうか? でなければ、まるで魔術を行う準備が完了しているようにも見えますが、全身が輝いていらっしゃるので通常とは異なるし、今も普通に話しておられるのでそういうわけでもないようだ。しかし光がナディア様の体から発せられている以上、ナディア様の魔力が元であるはず。しかし、金色のように見えるのはどういうことだろうか? おそらくはコントロールすることによって抑え込むことは可能であるはずと考えますが、昨日からずっと魔力を放出している状態ならばとうに魔力が尽きて倒れてもおかしくはないのに、一体どういう原理なのだ……」

「…………」


 私の周りをぐるぐると周りながらアゾート先生が思考の海に潜ってしまった。口を出さない方がいいのかな、と少し待ってみる。


「はあ、やはり考えていても答えは出ませんね。とにかくやってみましょう」

「はい」


 結局答えは出なかったらしい。

 アゾート先生の言葉にこくりと頷く。


「ナディア様、ご自分の魔力を感じることはできますか?」

「……なんだか温かいものが体を満たしているような感じはするのですが、全く自分の意志では動かせないのです」


 本には、これをぐるぐると体内に巡らせるとあったけれど、自分の意志で動かせないのに、どうやって巡らせればいいと言うのだろうか。


「なるほど。いくつか方法はありますが、魔力をある程度扱えるようになるには大体一ヶ月程かかると言われています。ですから、まずはナディア様ならではの手っ取り早い方法を試してみたいと思うのですが、いかがでしょうか?」


 アゾート先生の目が再び好奇心でキラキラと輝き出した。

 ……あんまりいい予感はしないな。でも、一ヶ月もかけられない。三日後には王族との謁見があるのだ。それまでにはこの光を抑えたい。


「どういった方法でしょうか?」

「魔術を使ってみるのですよ! 魔術とは魔力を対価に現象を起こすこと! 魔術を使うことは魔力を操るということなのです」


 あれ? 言っていることは合っていると思うけれど、順番が本と違う。まずは魔力を感知、コントロールしなければならなかったはずだ。


「でも先生、コントロールできない魔力で魔術を扱うと危険だと本には書いてありましたけれど……」

「かの初代女王アイリスが使う魔術は、精霊たちによって常に最善最高の状態で使われたと古い文献にありました! ナディア様ならきっと大丈夫です!」


 うーん、全く根拠のない推測ではあるけれど、確かに精霊たちが私の望まない形で魔術を暴走させるとは考えにくいかもしれない。


「……でも、どうやればいいのでしょうか?」


 私がやる気になったのがわかって、先生はぱあっと顔を輝かせた。


「まずは、呪文です! 魔術を行う為には事前呪文が必要なのです。これを精霊に祈りながら唱えてください!」


 アゾート先生は大きな紙をバッと広げた。

 そこにはこう書いてある。


『ウルルーヴェルザーシェ』

『アンドゥワナイグラングワ』

『イルナージェディアグラン』

『ミディアストロスグラーシェ』


 その読み仮名の下にはよくわからない記号のような文字。

 ……何これ!?


 私が絶句していると、先生から追加の説明が入る。


「この呪文の意味はこうです。

『精霊たちよ』

『力をお貸しください』

『我が魔力を対価に』

『理外の力を齎し給え』」


 あ、なんだ! 精霊語か!

 改めて文字で見てみると、何を言っているのか全然わからないね。


「なるほど、わかりました! 次はどうすればいいのですか?」

「……ええと、まずはこの呪文を暗記しなければいけません。読み上げるのではなく、言葉の意味を理解して発さなければ、精霊には届かないのです」

「でもこれは、精霊語ですよね? 私は精霊語がわかるので、たぶん大丈夫です」


 そう言うと、アゾート先生はぽかんと口を開けた。


「そ、そうか、ナディア様は精霊と会話ができる……ならば、呪文の意味だけわかればいいというわけですね! なんと素晴らしい! 発音を教える必要もないとは……! では、簡単な浄化魔術を行いましょうか。呪文はこれです」


 そう言って先生が呪文が書かれた教材を指す。


「事前呪文が完成して精霊に祈りが届くと、胸の中心から淡く光が出ます。これは、精霊に渡す自分の魔力です。これで精霊に魔力を渡す準備が完了したということです。それから特定の呪文を唱えると魔術は発動します」


 なるほどー! 要するに、精霊語で『魔力をあげるから力を貸して』って精霊に呼び掛けて、応えてくれたら体が光るから、それから精霊語でお願いをすればいいのね!


 ……魔術って、思ってたより大変だった!


 魔法なら、一言お願いするだけでいいのに。事前呪文がとにかく面倒だね。でも精霊は気まぐれだから、魔力をあげるって言っておかないと呪文だけを唱えても聞いてくれないのかもしれない。


 とりあえず、やってみよう。


 浄化の魔術なら暴走しても危険なことにはならないだろうし。


「わかりました! やってみます!」

「その意気です! まずは自分だけに魔術をかけるようイメージしてください。魔術はイメージが大切ですからね」


 自分に浄化の魔術、自分に浄化の魔術。


「行きます!」


 私は大きく息を吸い込んだ。


精霊たちよウルルーヴェルザーシェ

力をお貸しくださいアンドゥワナイグラングワ

我が魔力を対価にイルナージェディアグラン

理外の力を齎し給えミディアストロスグラーシェ


 呪文を唱え終わると、胸の中心が少し熱を持ったように温かくなって、さらに光が強くなったような気がする。わあ、これで準備完了ってこと?


《ナディアー!》

《魔力くれるのー?》

《やるやるー》

《なにやるのー?》


 すると、瞬く間にものすごい数の精霊たちが集まってきた。

 ……えっと、見たことないくらいの数が集まっているけれど、このまま魔術を発動して大丈夫だろうか?


 少し不安になってきて、私はたらりと冷や汗を流した。


「素晴らしいですナディア様! さあ、あとは浄化の呪文を唱えるだけですよ!!」


 アゾート先生が興奮している。ちょっと待ってくださいとは言いにくい。もう準備は出来ているみたいだし、これ、止めちゃダメな流れだよね?


 ……うーん、もうやるしかない!


浄化(ミオフィレイア)》!


 呪文を唱えると、ぶわりと清浄な風の膜が撫でるように体を通りすぎて行った。


 あっ!? 呪文を唱える時、自分を指定してイメージするのを忘れてた!


 それは自分どころか部屋中に行き渡り、メイドたちも「きゃあっ」と声を出して驚いている。しかも、部屋中を浄化した魔術はまだ終わりを見せない。部屋を一瞬で浄化した魔術は外に溢れ出してまだ継続している。魔力をとられている感じが終わらないのだ。


 ……まずい!


《もう終わり! みんな、止まって!》


 そう言うと、それ以上魔力をとられることはなくなった。けれど、止める前に結構魔力を取られた気がする。一体どこまで広がったのだろうか。


 アゾート先生もメイベルたちも驚いて座り込んでいる。


 えっと……私、やってしまったかもしれない。

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