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洗礼式がもたらしたもの


 全員の分のお茶が用意されると、メイドたちが退室して行った。何も言わなかったけれど、私を見て少し目を見開いたり、瞬きが多かったりした。


 え、やっぱり私? 私が何かおかしいの!?


 私は自分の姿を簡単に確認してみたけれど、特に変わった様子はない。……顔に何かついてるとかじゃないよね?


「さあ、何があったの? 話してちょうだい、ナディア」


 お養母様がそう言うけれど、私にも何がなんだかさっぱりだ。マリエラはなぜか私の膝の上に乗りたがって、楽しそうに私の髪で遊んでいる。


「ええと、わたくしにもよくわかりません。洗礼式を終えたら、いきなりお養父様や周囲の様子がおかしくなってしまったのです」


 そう言うと、お養父様は私をじろりと見た。どうやら言葉が足りないらしい。


「わたくし、洗礼式で祝詞を唱えて、聖水を飲んだら、その、少し不思議な体験をしまして。その時、倒れてしまったようなのです」

「まあ、倒れたって、大丈夫なの?」


 お養母様が心配そうに私を見た。


「はい、すぐお養父様が抱き起こしてくださって、わたくしはすぐ目を覚ましたようです」

「その不思議な体験とやらが重要なのだ」


 お養父様が厳しい目で私を見た。どうやら逃がしてはもらえないらしい。

 うぅ、言わないとダメか。


「……ええと、信じてもらえないかもしれないのですが、わたくし、精霊王にお会いしていたのです」


 そう言うと、全員が驚愕の目で私を見た。マリエラは可愛らしく首を傾げているけれど。


「どういうことかしら? 洗礼の間に精霊王が顕現されたということ?」

「いえ、わたくし、気がついたら森の中の泉のようなところにいたのです。意識だけがそこに行ったような不思議な感じでした。そこに精霊王が現れて、少しお話をして、魔力を解放していただいたのです」


 そう言うと、お養母様がハッと目を見開いて口元に手を当て、ぽそりと呟いた。


「……精霊王の泉……」


 お養母様が何を言ったのかは聞き取れなかったけれど、アリアナがキラキラした目をして私の方へ身を乗り出した。


「すごいわ、お姉様! 精霊王とお話ができるなんて、本当にご加護をお持ちなのね!」


 無邪気なアリアナがとても可愛らしくて、思わず笑みを向けた。


「みんな、そんなに普通に信じてくれるとは思いませんでした。精霊王は普段こんな風に呼んだりしないと言っていたので」

「だってそれは、ナディアですもの」

「そうよ、わたくし、お姉様がどんな変なことをしたって言われても信じるわ!」

「……」


 お養母様はどうしてそんなことを思うのかとばかりに頬に手を当てて首を傾げ、アリアナは少し失礼なことを自信満々に言い、お養父様は二人を肯定するように頷いた。


 ……あれ? 私、みんなに変な子だと思われてる?

 き、気のせいだよね、みんなは私を信じてくれているだけだよね。


「あ、精霊王によると、やっぱり私は初代女王の生まれ変わりのようです。魔力もその、同じくらいはあるのではと言っていました」


 少しぼかした言い方をしてしまった。

あんまり目立つのは遠慮したいけれど、家族には魔力が多いことは言っておいた方がいいよね?

 それに、多少目立ってしまうかもしれないけれど、ないよりは良かったはずだ。私はすでに公爵令嬢なんだから。


「……それは、そうでしょうね。そんなに溢れているのですもの」


 ……え? 溢れている?


「お、お養母様……溢れているとは?」

「まあナディア、あなた気づいていなかったの? 今、あなたは体から魔力が溢れていて、全身が淡く光っているわよ」


 ……えええええ!?


 私は自分の体を確認しようと下を向いた。膝の上に乗っているマリエラと目が合ったのでにこっと笑って頭を撫でてから自分の手を確認する。特に光っているわけではない。


「お養母様、どこが光っているのでしょう? わたくしにはわかりません」

「自分ではわからないのね。もう全身が、少し眩しいくらいに光っているわよ」


 ぎゃー! 何それ怖い! どうなってるの!?


「お、お養父様、わたくし、いつから」

「……聖水を飲むとすぐ、お前は強力な光に包まれた。そしてその光はすぐにお前の中に収まるように弱まっていったが、完全には消えないままお前は淡い光を纏いながら倒れていた」


 わあー!! それは驚くし心配するよ! 本当にごめんなさいお養父様!!


「……御者に確認したところ、その光は精霊殿全体を包み、一時激しく光っていたそうだ」


「…………」


 な、なんだかそれってとても目立ちませんかね。大騒ぎになりそうな。


 あっ! だからみんなざわついていたのか! 急に精霊殿全体が光って何が起こっているのかと思っていたら、全身を光らせた私が洗礼の間からやってきたんだもんね。そりゃあ質問責めにされるよね。


「本当に、ナディアとの養子縁組みを早めにしておいて良かったわね。ナディア、あなたはもう公爵家の人間なのだから手荒な真似をする輩はあまり出ないと思うけれど、気をつけなさい。これからはきっと今までよりもっと狙われることになるわ」


 私は驚いてお養母様を見た。少し目立ってしまったことは確かだけれど、どうしてそうなるのだろうか。

 理解できていない私の様子を見て、お養母様は真剣な顔をして続けた。


「今までは不確かな情報でしかなかったわ。もしかしたら初代女王の生まれ変わりの魔法使いかもしれないから、できれば手に入れたいというだけだったでしょうけれど、今日あなたの力がはっきりしたのよ。洗礼式で魔力が解放されると魔力量に応じて光を放つものですけれど、精霊殿全体を包むほどの光だなんて、聞いたことがないわ。魔力が多い人でも、せいぜい周囲の人の目が眩むくらいよ。あなたが膨大な魔力を持っていた初代女王の生まれ変わりだと、証明してしまったようなものよ」


「…………」


 うわあ、隠しておこうと思っていた魔力量、一瞬でバレてしまっていたようです……。


「それに、その光はすぐに体内に収まるものなのに、ナディアは今も光り続けているし……その後大勢に今の姿を見られているのでしょう?」

「……精霊殿長はナディアを精霊殿に置くべきだなどと宣った」

「まあ! ほらごらんなさい、すでに精霊殿長に目をつけられているじゃない!」

「精霊殿を出るまでにも、たくさんの者に声をかけられた」

「まあ、すでに大勢に目をつけられていると考えた方が良さそうね」


 なんだか大事になってしまったようだ。私は普通に洗礼式を受けただけなのに、どうしてこうなってしまったのか。

 けれど、今の私には目の前の問題の方が気にかかっていた。


「あの、わたくし、ずっと光ったままなのでしょうか」


 それは困る。日常生活に支障が出るだろう。来年は魔術学園にも行く予定なのに、私だったら常に光っている変な人とお友達になろうとは思わない。


「光っているお姉様は綺麗だけれど、ずっとこうだと目が疲れちゃうかもしれないわ」


 アリアナも少し困ったように言った。そうだよねぇ。


「そうねえ、たぶん、ナディアが魔力を抑えることができれば光も抑えられるんじゃないかと思うけれど……とりあえず、魔術のお勉強を急ぎましょうか。先生はすでに決まっているし、むしろ早く始めたいようでいつでも良いと言っていましたから。明日から来られるか伺ってみましょう。それで三日後までに治まるといいのですけれど」

「え? どうして三日後なのですか?」


 確かに早く治まった方がいいけれど、なぜ期限が三日後なのだろうか。


「あら、王族への挨拶会の日取り、伝えておいたでしょう? それが三日後ですから、そのままだとちょっと大変じゃないかしら」


 お養母様が困ったように頬に手を当てて首を傾げた。


 ……そ、そうでした。


 私、三日後までになんとかしないと、体から光を放ったまま登城して、王族に謁見しなければならないようです……。



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