爺ちゃんの宝箱
僕はじいちゃんの部屋の片付けを行っていた。
見つけたのは古びた煎餅の缶詰。
少し錆びているその缶詰を持ち上げてみると中に何かが入っているようだった。
「腐った煎餅とかはやめてよ・・・」
近くの机に缶詰を置き、恐る恐る開ける。
中には丸まった紙や古ぼけたメンコやビー玉、鉄製の独楽のようなものが入っていた。
「なんだろう?」
丸まった紙に手を伸ばし、広げてみる。
そこにはクレヨンを握りしめて描かれたような、なんだかわからない線や点が描かれていた。
「懐かしいような気もするけど」
丸まった紙の下には折り畳まれた紙もあった。
ゆっくりとその紙を広げていった。
【じぃさゃんへ いつもありかとう しょうた】
そんな文字と笑顔のような絵が描かれていた。
「これって俺が書いたヤツだったんだ。ちがさになってるし、かに濁点を忘れてんじゃん。恥ずかしい」
じいちゃん、こんなの取っておいたんだ。
あ、そういえばコレってじいちゃんが内緒にしていた宝箱じゃなかったっけ。
ふと、昔の記憶を思い出した。
俺は両親が共働きということもあり、じいちゃんに面倒を見てもらっていた。
じいちゃんは穏やかでいつも笑顔で優しかった。
かけっこもお絵かきもメンコやベーゴマといった昔の遊びも教えてもらって一緒に遊んだ。
「このメンコもベーゴマもビー玉もじいちゃんと一緒に遊んだものだ」
俺がじいちゃんの部屋に遊びにいった時に棚の上にこの缶詰を置いているのを見た。
じいちゃんにそれが何か訊くと宝箱といって微笑んでいた。
見せてとせがむと大きくなってもこの箱を覚えていたら見せてあげるよと言われた。
俺はこの箱を開けるまですっかりと忘れていた。
最近に至っては煙たがって近くに寄ることも嫌がっていた。
「なんで、今更になって涙が出てくんだよ」
穏やかな顔を見ても煙が昇ってもつつがなく式が進んでいっても涙なんて出やしなかったのに。
何で今更になって涙が出てくるんだよ。
もっと一緒に話せばよかった。
もっと一緒にすごせばよかった。
昔はあんなに好きだったのに、なんであんなに毛嫌いしちゃったんだろう。
本当にわからなかったんだ。
いつかどんなに会いたくても会えなくなる日がくるなんて。
居ることは当たり前で穏やかな笑顔で迎えてくれなくなるなんて。
じいちゃんの宝箱は俺にとっても宝箱で。
中の宝物は失って初めて気づいて。
もう二度と手に入らなくて。
きらきらと。
ぴかぴかと。
いつまでも輝いている。
「パパ!それって何?」
「コレはパパの宝箱だよ」
「宝箱!わたし、見たい!」
「うーん、そうだな。大きくなってまだ見たいって思っていたら見せてあげるよ」
「えー、約束だよ」
「ああ、約束だ」
「あ!わたし、パパの絵を描いたんだった」
「見せてくれる?」
「うん!こっちこっち!」
錆びた煎餅の缶詰を棚の上に戻して娘の後を追う。
今度は宝物を失わないように気をつけながら。




