恋は想起の此方に、愛は忘却の彼方へ
記憶って曖昧で
偽りかどうかもわからなくて
想起して
忘却して
愛の理由も
恋の理由も
知りたくなんてない
私が目を覚ましたのはいつもの自分の部屋。
左腕に鋭い痛みを感じた。
誰かに強く掴まれたのか手の形に内出血していた。
昨日の夕方からの記憶がない。
頭が鈍く痛かった。
部屋を出て母に昨日私がどのように帰ってきたか訊ねた。
私はいつも通り帰ってきて夕飯も一緒に食べたという。
大学に行って友達に確認したら用事があるとかで急いで帰って行ったよと教えてくれた。
それから数日、あの日の夕方の記憶を探したが答えは見つからず忘れたことすらも忘れてしまった。
大学の食堂、友達とランチを食べているとき何かの話の時に彼氏は作らないのという話題になった。
ふと、なぜか焦燥感に苛まれた。
早く彼氏を作らないといけないそんな気持ちが芽生えてしまった。
食堂から講堂へ戻る途中、廊下の曲がり角で男性にぶつかった。
ぶつかった事をお互いに謝り、彼の顔を改めて見た。
息が上手くできない、胸が苦しい、イヤだ、イヤだイヤだイヤだ!
気がつくと医務室のベットで寝ていた。
付き添っていた友達に聞くと顔も青白くかなり辛そうだったから医務室に連れてきたとの事だった。
あの男になんかされたのと訊ねてきた。
思い返しても今日以外に会った記憶も無く、なにもされてないと伝えた。
彼女は、なら良いけどと納得のいかない顔で返事をしていた。
私の中の焦燥感や不安感を抑えきれなくなっていた。
どうしようもなくなった私は友達に良い人がいないか確認すると、急にそんなことを言い出した事をいぶかしみながら一人の男性が紹介してもらった。
私に気があるという方で悪い人じゃないし、聞いてみてよかったら紹介しようと思っていたとの事だった。
後日、私は彼に告白された。
その人に特別な感情は持てなかったが私は彼と付き合うことにした。
自分の心を苛む焦燥感や不安感から逃れるために。
ある晴れた日、青空の下。
付き合ってしばらくした私たちは大学の中庭でお昼を食べていた。
私の作ったお弁当を彼はおいしそうに食べていく、甘めに作った卵焼きを気に入ってくれたようだ。
ご飯粒をほっぺにつけた彼が誰かに重なって思わず笑ってしまった。
見慣れた自分の部屋の天井。
夜の寝る前は不安になる。
誰かに責められているようなそんな感覚に囚われた。
早く寝たい、でも寝てしまうと朝には覚えていない夢の喪失感がまた私を苛む。
そんな思考を巡らせていくと自分の意識が落ちていくのを感じる。
これは、夢だ。
誰かが居る。
他の人に邪魔されたくないからって最低でも1ヶ月は付き合ってることは秘密にしようって約束。
告白は私からした。
たまたま見かけた彼の優しさが、ふとした時の笑顔が素敵で、そんなに見かける機会なんてないのに不思議と彼の事を探していた。
好きになっていた、私にとっての初恋。
彼のことが愛おしくて周りに隠して何度も会って。
何度目かわからない帰り道。
浮かれた私は追いかけてほしくて横断歩道へと走った。
それが間違いでゆっくり彼の隣を歩けばよかった。
腕に強い痛み。
何かに引っ張られるように体勢を崩した。
代わりに彼が飛び出した。
そして彼を轢いていったトラック。
イヤだ、イヤだ、イヤだイヤだイヤだ!
彼を失うのが怖くて、見たくなくて。
私はその場から逃げ出した。
ハッと目を覚ました。
何か夢を見ていたと思う。
でも思い出せない。
溢れる涙ととても大切なものを失ったような喪失感だけがいつまでも続いた。
お願いします
こんな臆病な私を
こんな弱い私を
こんな卑怯な私を
どうか許さないで
涙を手で掬い月を映す
波たてば形を崩し
おさまれば元の姿に戻る
満ちているか
欠けているか
それは月が教えてくれる




