#4・唐突
レントが見とれて動けないでいると、
「 あの〜。レトン様?私何か失礼でも・・・ 」
「 あ、ゴホンッ。こちらこそよろしく。」
そう言って、右手を差し出した。
ともみは動揺した様で、視線がレントの顔と右手を行ったり来たりしている。
「 わ、私は平民ですよ?それに、先ほどまで畑の手伝いをしていてレント様の手を汚してしまいますので・・・ 」
平民の家には畑があって、自給自足が当たり前のようになっていた。
「 気にしないから、手を握ってくれないか? 」
「 はぅぅ・・・は、はい・・・ 」
真っ赤な顔でトモミは握手を交わした。
レントは離す瞬間に少しだけ力を入れてギュッと握ってから握手を終えた。
「 レント様。トモミさんの一族はこの宿に野菜の提供をして下っていて、是非ともレント様よりお言葉を差し上げたらいかがかと思いまして。」
「 なるほど・・・この時代に提供出来る野菜か・・・ 」
大戦後、地続きになった様々な国同士で技術の共有がなされ、生活品の質は向上していた。
宿屋で出す野菜となれば味はもちろん、種類も豊富で最高水準の物でなくてはならない。
「 ん〜・・・トモミさん! 」
「 ひゃ、ひゃい! 」
「 俺と一緒に働く気はありませんか? 」
いきなり名前を呼ばれた事と敬語を使われた事、そしてレントと共に働く事を言われたトモミは口をあんぐりさせて驚いていた。
「 ぼ、坊ちゃん!貴族の頂点であるあなたが、平民に対して敬語など・・・何を考えておいでですか!! 」
リンは額に青筋を立てながら言った。
王からレントは立派な貴族にするように言われ、礼儀作法や平民に対する態度などを教えて来たリンが怒るのも無理なかった。
「 何を言うリン?見惚れた人に敬語を使うのは貴族も平民も関係ない。何か問題でもあるか? 」
「 坊ちゃんが見惚れた・・・ご自分の立場が分かっておいでですか!? 」
レントとリンが言い合いをしている中、トモミはレントの顔を熱を帯びた目でじっと見ていた。
「 貴族がなんだ!王子がなんだ!俺はこの方に一目惚れした!この事実は変わらん! 」
レントが言い切るとリンは諦めたように、
「 そう、ですか・・・王に反対されてもですか? 」
「 反対するなら・・・王位継承の日に、そのまま牢に叩き込む! 」
「 そこまでの覚悟ですか・・・わたくしは見聞きしなかった事にしますから・・・ 」
そう言うと、ため息1つ吐いてリンは口を閉じた。
「 あ、あの!レント様と働くの、すごく嬉しいです!私からもお願いします。それで、一目惚れの事なんですが・・・少し考えさせて下さい!私は平民です!レント様の隣に立つには申し訳ないです! 」
「 自分の意見もハッキリ言えるか・・・それも王子である俺に。ますます気に入りました! 」
気に入った物は手に入れないと気が済まないレントの性格を知っているリンはまた1つため息を吐いた。
ハッキリと言葉にするほど難しい事はないですね
お楽しみください┏●