#19・終結
お楽しみください┏●
少しでも空気を変えようと、レントは持ってきたお茶を少し飲んで一息ついた。
「ふぅ・・・それで、なんでユキを連れてきたんだ?」
気配を消したとか言っている間に、目的を聞き忘れていた。
リリーはチラリとユキを見て、
「この子が新しい主人を見てみたいと言って。ご迷惑でしたか?」
「大丈夫だ。頼んでた母さんの件は?」
「滞りなく済みました。」
リリーは初任務を終えた事を少し誇らしげにする様にドヤ顔を一瞬作った。
「よくやった。それじゃあ次は・・・俺の手伝いをしてくれ。貴族の腐った者を洗ってくれ。手段は任せる。命を消しても構わない。」
「了解しました。新しい法に従わぬ者を消して参ります。」
リリーは一礼して、ユキを連れて窓から去っていった。
コンコンと窓を叩く音がした。
リリーだろうと窓を開けると目の前が真っ暗になってしまった。
レントは手足を縛られ、身動きが取れなくなっていた。
(捕まったか・・・面倒な事になったな・・・)
「目が覚めたか?次期国王も縛れば、同じだなぁ〜」
目深くフードを被り裏声のような、男女の区別がつかない声で誘拐犯は言うと、レントの口に1つのパンを近ずけた。
「食べろ。お前に死なれると困る。」
「水でもないのか?パンだけかよ?」
レントは吐き捨てるように言った。
誘拐犯は特に何も言わず、パンをその場に置いて部屋を出ていった。
水を手にして、戻って来ると、
「早く食え。忙しいんだ。」
そう言うと部屋を出て、帰ってくることはなかった。
何日過ぎたのだろうか。
レントは日々、パンと水だけ持ってくる誘拐犯に疑問を抱くようになっていた。
持ってきた時に意を決して、聞いみる事にした。
「貴様は何の目的で俺を生かしている?何者だ?」
「貴様を生かしているのは、絶望させる為だ。我々はこの国を・・・消す。」
ゴトンと何かがレントに投げられた。
何度か見かけた事のある、王宮の料理長の変わり果てた姿だった。
「我々の計画は変わらない。腐った者を消す・・・」
そう言うとフードを外して顔を出した。
「誰かと思えば・・・意外だな。」
「貴様に会う前からの計画だった。貴様はただ気付かぬだけだった。」
裏声ではない、顔も見えている。
「どうして俺をこんな所に?」
「貴様が居ては計画に支障をきたす。全てが終われば貴様もスグに送る。我々に取って貴様は計算外の強さを持っている様だ。」
そう言うと、部屋を出て次のパンと水を持ってくるまで戻ってこなかった。
持ってきても、一言も話さず何日、何ヶ月。
時間の感覚も忘れ、ただ生かされているだけのレント。
パンと水だけを楽しみにして、逃げる事を許さない、手足の縄。
「言葉を交わすのは久しいな。気分はどうだ?」
「気分・・・だと?そうだな。ステーキでも食べたい気分だ。」
「それだけの元気はあるか。悪いが、この国にはもう無い。あるのは貴様と我々の命だけだな。」
言葉の裏にレント以外の貴族、王族は消したと言っている。
「残るは俺1人か・・・よく薄汚い奴隷達だけでここまでやってこれたな。」
「気付いていたか。抜け目のない男だ。我々は貴族共に落とされた。復習もこれで終わる。」
その言葉を最後にレントの意識は亡くなった。
私欲の為に生きてきたのは、貴族だけではなかった。
レントを含む王族も、法に従う平民も。
奴隷達に取っては私欲の為に生きている、腐った者に見えていた。
見方を変えれば気付けたかもしれない。
客観視が出来ない、王族や貴族だからこその。
安全圏に居る者としての、おごり。
たったそれだけで、立場が違う者からの、恨みの念。
その心が生んだ強者としての差別。
圧倒的な数の不利を覆す、純粋な殺意。
殺意を持てば悪か・・・
差別感を与えれば悪か・・・
私欲の為に生きれば悪か・・・
始まったのは、王子の楽しい物語では無く
落とされた者達が、復讐し、全てを壊し、破滅させる物語。
・嫉み・蔑み・不当・怒り
純粋な心から来る絶望感
壊れた心から来る殺気
溢れ出して止まることの無いもの
全てを変えるのは果たして何か・・・
破壊する事に魅了された殺意か。
大義名分に酔って繰り返される殺意か。
自らを正当化させたおごりか。
他者を見下して優越するおごりか。
世界を変えるのはたった1つ
客観視だ
私欲の為に生まれた心など、醜い物だ
心に囚われた哀れな暗部
奴隷として私欲を満たす為に使われ
手を汚し心を砕いた者達
絶対的強者として生まれた王子
王族として全てを与えられ自らの判断で他者の命を奪い取った
哀れなピエロの一族
一概として言えないのは
正義か悪か
正当化した殺意は悪すら芽生えず
自己満足と化した正義は悪と等しい
今一度問われる
世界を変えるのは何か・・・
その答えを探し模索する者が1人・・・
世界の全てを見据える概念・・・
楽しげに聞こえる声を雷を持って消し去る者・・・
それはまた次の物語が始まるきっかけとなる
何か・・・
細かい部分を全く書かず
脳内補完するにはまだまだ文章不足ですが
それでこそ、読者の方がじっくり考えて
みんなで作る作品と解釈しています。
妄想の世界で広がり続ける王子の物語
作品として未完成の破滅の物語
それぞれが作品と呼べるか分からない有象無象は
新たな物語を生み出し、人それぞれの世界を作ります。
次作もまた、妄想の1つ。
宜しければ、更なる世界をみんなで作りましょう
ここまで読んで下さりありがとうございました
_○/|_ 土下座