#11・隠密
「ここが私の家です。狭いですけど、どうぞ上がってください・・・」
図書館で会った女性に案内されるまま歩いて湖の近くにある一軒家に辿り着いた。
「立派な家だな・・・そういえば、初対面の男を家に入れて大丈夫なのか?」
「王子様こそ、名前も知らない女の家に上がっていいんですか?私は衛兵さん達に怒られそうで、ちょっぴり怖いです・・・」
キョロキョロと辺りを見ながら、女性は玄関を開けた。
レントは全くの無警戒で家に入り、促されるままテーブルに腰掛けた。
「落ち着いた所で、君の名前を教えてくれないか?」
「ひゃ、ひゃい!マリーといいます・・・」
「マリーか。家名は無いのか?」
「申し訳ありません。両親はしがない漁師ですので。」
ヤマト王国では主に農業が多い。
地続きになった事により、海が少しずつ無くなり、陸地が増えたからだった。
平民が家名を持つか否かは、その時の家長の稼ぎによる。
「なるほどなぁ・・・魚か。今度、宿で使ってみる。マリーは何か俺に聞きたいことはあるか?」
「私の名前を王子様が・・・・・・き、聞いたい事ですか?では・・・交際している方はいらっしゃいましゅか!」
名前を呼ばれた事と、マリーの頭では恥ずかしいと思う質問で、顔を赤くして噛みながら言った。
「今のところ、そのような女性は居ないな。」
レントは「何か文句あるか?」とビシッと力が入った目をしながら言った。
2人の間に少しの沈黙が訪れた・・・
2人の会話を窓から黒いフードを被った者がジッと見ていた。
王宮でリョウタに報告をしていた従者と同じ王直属の暗部「黒騎士隊」だ。
「様子はどうだ?」
音もなく現れた黒フードに、見ていた黒フードは、
「怪しいものはおりません。隊長の他には・・・」
「余計な事は言わんでいい。」
黒フード隊長は、ヒジで脇腹を小突いて家の中に目を向けた。
「あの娘だけのようです。両親は漁師で、家を空けております。」
「ほぉ。監視はここで交代だ。本隊と合流して、貴族の粗探しに戻れ。」
「了解です。粗探しって・・・言い方変えませんか?」
ポツリと呟くと、黒フードは音も無くその場を去った。
残った黒フード隊長は、音を立てないよう特殊な技術を使って、窓ガラスの1部を割った。
そこから、無臭の催眠ガスを噴射してマリーの家の中へ充満させていった。
「申し訳ありません王子。ですが、あなたの為です・・・ウフフッ・・・」
柔らかく、妖艶な笑みを浮かべながら隊長黒フードは玄関から家の中に入った。
初対面で家はキツイですね(笑)
お楽しみください┏●