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幻冬日記  作者: サーモン横山
3/3


「起きてください、早く、手遅れになる前に」


 ナースさんが僕の体を揺すって起こしに掛かる。ふふっ、分かってないね、こういう時はチューなのだよ。でもなんか新婚夫婦みたいだね。この状況。


「馬鹿な事言ってないで早く起きてここから立ち去りなさい!」


 あれ? なんか怒ってる? よっこいしょー。まだフラフラです。ナースさんの顔が見える。美人は怒ってる顔も綺麗なのか。真っ赤になってる。


「もう! あなたはまだここに来てはいけないのに。早く起きて元の世界に帰りなさい!」


 ナースさんがプリプリ怒ってる。本当に心配してくれてる。嬉しく思うけど退院かな?


「今なら誰にも気付かれずに出れます。迎えの方も来てますから、早くここから逃げなさい」


 ん? つまり脱走ですか? ここまで必死なのは何故? うーん……分かった!


 この病院は医療事故が多いんだね。


 なるほど、だから早く逃げろか。ナースさんは女神様だね。お医者さんは好い人に感じたんだけどね。骨だけど。ここはナースさんと手を取り合って逃げる展開だね。ビバ、ロマンス。


「迎えが来てます!」


 あれ? ナースさんが真っ赤に怒ってる。ん? 迎え? 誰だろう。


「ポン!」


 お前か、タヌキ。久しぶりだね。元気だった? 迎えってお前なの?


 ああ、なるほど、これは夢か。なら流れに乗らないと。


「ナースさん、ぶっちゃけあなたが好みです」


 夢なら後悔しないようにしないとね。


「また会えたら押し倒します。結婚してください」


 よし。言ってみたい台詞が言えた。ビバ、夢。


「うっ、ば、馬鹿な事言ってないで早く!」


 あれ? 夢だからか。普通怒るよね。あの台詞。


「ポン、ポン!」


 ん? 急げって? 分かったよ。スリッパは履かせてよ。うん、最後はウィンクだね。


 あれ? ナースさんが悶えてる。うん? 分かったよ、タヌキ。歩くから。


 タヌキと一緒に病院を歩く。照明が殆ど点いてなくて暗いけど、タヌキが先導してくれるから、なんとかなってる。でもふりふりしている尻尾がすごい誘惑してくる。目が釘付けだよ。


 もふもふ、もふもふ、触ったら怒るかな。


 もふもふ、もふもふ、太いよね。


 気が付くと病院の玄関ロビーに着いていた。尻尾の魔力はすごい。あっ、透け透けナースさんが現れた。うん、目の前に急にね。うん、今日も透け透けだね。服、なんで透けないのかな、夢なら……駄目だ、女性の下着なんて見たことないよ。想像出来ないから見れないのかな。


 じー。


 あっ! 透け透けナースさんが逃げた! 流石にガン見はダメか。タヌキ、お前の尻尾で癒しておくれ。え? ダメなの。ちぇー。


 タヌキと一緒に病院の外に出る。僕の服は何故か病院に来たときのものになってる。さっきまでパジャマだったのに。


 病院の玄関前の道路にタクシーが止まっている。あれは来たときのタクシーかな、なんともご都合主義な夢だね。


「ポン!」


 このタクシーに乗るの? でもタヌキは乗れるのかな。ゲージに入れないと駄目だと思うよ?


「ポン! ポン!」


 分かったよ、乗るから。説得してみるよ。タクシーのドアに近付くとドアが開いた。体を屈めて中に入る。


「すいません、いいですか?」


「ええ、いえ、こちらこそすいません、間違えてここに連れてきてしまって、間に合って良かったですよ」


 おや、医療事故で有名なんだね。やっぱり。


「そうなんですか。今回は連れがいますけど大丈夫ですか?」


 タヌキっぽい人ということで、いけるかな?


「ええ、勿論です。さあ、早く行きましょう。気付かれたみたいですから」


 タヌキ、いけたよ。さあ、乗り込んで、あれ? なんでタヌキは助手席なの? 後ろで、もふもふさせてくれないの?


 ううっ、神は死んだ。傷心のショックが強すぎて、幻覚が見えるよ。タクシーの窓越しにゾンビ映画みたいな光景が見える。腕が無かったり足が無かったりする人みたいなものが走ってこっちに向かってくる、あっ、骨だけもいるね。


 骨子と壺子は元気かな。退院したから無事だよね。


 おおー、今度は巨大な骸骨だ、あっ、こけた。うん、でかいと大変だよね。骨がばらばらだけどあれまた組み立てるのかな。


 映画を見るような時間がどれだけ続いたのか、はっきりとは覚えていない。まだ体調ヤバイから。いつの間にかまた寝ていたみたい。窓の向こうの景色はよく知るものに変わっていた。


「このまま病院に送りますから寝てていいですよ」


 相変わらず骨のように白く固そうな肌のタクシーの運転手さんが言ってくれる。ではお言葉に甘えて。ぐう。




 次に目が覚めた時、私は病院のベットの上で点滴を受けていた。熱のせいで記憶がはっきりとしない。何故ここにいるのか。とりあえずナースコールをしてみよう。


 ナースコールで飛んできたナースによると私は病院の前に倒れていたそうだ。おそらく力尽きて倒れていたのだろうと、凄く怒られた。そこまで酷ければ救急車を呼べと。


 そしてかなり病状が悪かったらしい。これまた怒られた。だから今は大人しく寝ている。遠くから聞こえるニュースを子守唄にして。


「先日逮捕された猟奇殺人事件の犯人は巨大な壺に死体を入れていたとのことです。被害者は何れも若い女性で……」


 随分と物騒な話だな。おっ、変えたか、まぁ当然か。


「この病院では、以前から行方不明の患者が何人も出ており、今回発覚したのは、難病で亡くなった少女の遺体を隠し、生きているように見せかけて補助金を不正に得ていたとの内部からの……」


 まともなニュースはないのか。まぁいい。寝るだけだ。




 夢の中でタヌキが踊っている。尻尾がふりふり、喜ぶように。



いかがでしたでしょうか。ホラーっぽく感じていただければ幸いです。

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