起
あれ?今気付いたけど話の舞台が冬だ!
気温がぐぐっと冷え込んだ十一月の月曜日。僕は熱で朦朧としながら病院巡りをしていた。家の近くの内科の小さい病院はしばらくお休みの張り紙が、少し遠くの病院は院長がぎっくり腰でお休み。
フラフラしながらブラブラですか? と、まともな思考も危うい時にやっとタクシーを掴まえた。歩道にいたのにクルマが全然通らなくてほこてん? とか思っていたけど、よかった。これで病院に行ける。タクシーの運転手さんなら詳しいはず。へい、たくしー。
「どこでもいいので開いている病院までおねがいします」
タクシーに乗り込んですぐに目的地を伝える。ああ、座るって楽だ。
「どこでも、ですか?」
「はい、この辺りの病院が全て全滅でして」
「そうですか、風邪ですか?」
「多分。インフルエンザではないですよ、ワクチン打ってますから」
あれ? いつの間にか出発してる?まぁ、いいや。
「大分、お辛そうですね。いい病院があるのでそこに向かいましょう」
「はい、おねがいします」
そして、僕は意識を失った。多分寝ていたと思うけど、時おり戻る意識のなかに光の玉が幾つも見えた。きっとネオンの光やクルマのライトだろう。まだ昼間だけど。
「お客様、着きましたよ」
あれ? いつの間に? タクシーは大きな建物の入り口に停車していた。えっと、お金いくらだろう、足りるかな?
「お代は既に頂いておりますよ。さあ、早く病院へ」
ありゃ? 記憶が飛んでる。それにしてもいい人だなぁ。肌がすごく白いし。すごく骨っぽい。痩せすぎだよ。
「ありがとうございました」
頭がフラフラ、何とかタクシーを降りると目の前に大きな病院があった。とりあえずタクシーの運転手さんにお辞儀でもと、振り返ると、もういなくなっていた。
うん、お客さんいるよね、病院だし。少し心残りが有りつつ病院の入り口に向かう。
自動ドアが開き、中に入る。寒気のせいで部屋が寒く感じる。外より寒いよ。早く診てもらわないと。
広いロビーに長いソファーのような椅子が幾つも並んでいる。結構混んでいるな、割と有名な病院なのかな。受け付けを探してフラフラと歩いて行く。
おや、前からおばあちゃんが歩いて来る。診察終わったのかな。いいなぁ僕も早く帰って寝たいよ。おっと。あれ? 今確かにおばあちゃんとぶつかったような?
振り返ると普通に歩くおばあちゃん。ああ、なるほど古武術の使い手だね。難波歩きかぁ。むっ、眼が霞んでおばあちゃんの足がよく見えないや、透けて見えるなんてさすが古武術だね。
「どうしましたか?」
突然後ろから声が掛けられた。振り向くと美人なナースさんだ。顔が白くて眼が黒くて髪は黒のロングか、どストライクだけど元気がなくて見るだけしか出来ないよ。
「あの、大丈夫ですか?」
大丈夫じゃないね、まるで血のような赤い唇が白い顔に浮いたように見える。ぷるぷるしてそう。
「あの、何を見ているんですか」
ふっ、目の前の美女さ、うん、大分体調がヤバイね、早く診てもらわないと。
「すいません、初めてなんですけど診てもらえますか?」
あれ? ナースさんの肌が赤くなってる。色っぽいなぁ、きっと僕はもっと赤いんだろう、熱で。
「そ、そうですか、では診察室にお入り下さい。この奥の二番の部屋です」
言い終わるとそそくさと去っていくナースさん。ああ、後ろ姿も魅力的。猫のお尻に匹敵するね。あいつはオスネコだけど。歩くとぷりぷりするからいつも目が離せないんだよ。
えーと、診察室にはこっちだね。お、新たなナースさんだ。おー、透け透けだ。いやエロくないよ、なんで服だけにしないのかな、全身透け透けって、だれとく?
この人は可愛い系だね。顔が見えないけど。何となく気配で?
うん、すごく気になる、ナース服の下が。透け透けだよ。男ならみんなね?
あれ? 消えた。まさか縮地? スゲー、仙術の使い手かぁ。だから透け透けで顔が分からないのか。
間近で見ても、もやってたから、仙術なんだね。にゃんにゃん?
えーと二番だっけ、あれ? ロビーにいた人たちは一体なに待ちなんだろう。お会計かな。あ、あった。
こん、かん、そん。
あれ? 普通にノックしたのに音が全部違う。なるほど、ついに耳まで熱にやられたか。しかし返事がないな、よし、もっと叩こう。
こん、かん、そん、せん、かん、こん、かん、おん、てん、とん、こん。
なんだか楽しくなってきた。よし、次は両手で行こうか。
がらっ!
あれ? 開いた。これはお入り下さいなのかな。まさか自動ドアとは。なんか恥ずかしい。
ホラーになってるかな?