9話
その“災厄”は、とても退屈だった。
かつて神界を滅ぼしかけた自分に神々は畏怖を抱き、武器だと言うのに腫れ物のように扱ってくる。
さらに神々は自身の神器を既に所有しており、誰も自分を使ってくれない。
──最も、自分に対する適合率が神々は極端に低かったので、使われるなどこちらから願い下げだったが。
「よう、レーヴァテイン。暇してるか?」
そんな災厄に、1柱の神が馴れ馴れしく話しかけてきた。
狡知の神、ロキだ。いつもの如くどこかチャラそうな見た目のその神は、銀色の手鏡を持っていた。
「実はさぁ〜、お前を使えそうな奴を見つけたんだわ」
ロキの持つ鏡を覗くと、そこには黒いローブと白い仮面と言う、いかにも怪しい人物が居た。
災厄はその人物を見ると──
「すごい……凄い凄い凄い凄い凄い!!!! ねえロキ、この子だれ!? 早く私を連れて行きない、未来のマスターが待ってる!」
とても嬉しそうに、嗤った。
◇ ◇ ◇ ◇
「──来い、『レーヴァテイン』!!!」
掲げた右手に、白く燃える美しい炎が集まる。
「『形態変化・デスサイズ』」
そう言って白い炎を握ると、炎の勢いが膨れ上がり、大きな鎌を形取った。
柄の部分だけで二メートルの、大鎌である。
俺はそれを片手で軽々と持ち、柄先を龍へ向ける。
「こいつで今から、お前の首を落とす」
──残り、2分30秒。
◇ ◇ ◇ ◇
冒険者たちは、空中で行われているその戦いから目が離せずにいた。
上級竜のブレスを喰らい死んだかと思われた仮面が、突如純白の片翼を広げ、空へ舞い上がったのである。
その身から感じる威圧感は先程のものとは別格であり、これが仮面の本気なのだと感じた。
次に仮面はその手から神々しい白炎を生み出し、大きな鎌を作った。柄、刃までもが白い大鎌である。
そして両者数秒睨み合ったかと思うと、息を合わせたかのように両者は火球を生み出し相手に撃ち出した。
それは、両者の中間地点で接触し、爆発と共に相殺された。
上級竜と同威力の火球など、Aランク冒険者ですら苦労して生み出すと言われているのに──
仮面と竜は幾つもの火球を撃ち合っていた。
その度に暴風と衝撃が地上を襲い、中級以下の竜は吹き飛ばされる。
「グルルルラアアア!!!!!」
業を煮やしたのか、竜が仮面に襲い掛かった。
仮面はそれを避けもせず、鎌を構え向かっていった──
◇ ◇ ◇ ◇
竜がこちらに向かってくる。
先程の火球合戦では、火球の勢いを重力魔法で底上げしてやっと相殺だった。
(強すぎるだ、ろッ!)
大きく振りかぶっての、爪攻撃。
それを空中制御で避け、奴の懐へ潜り込む。
「ッッッラァ!」
そして腹を斬りつける──が、浅い。
残り1分40秒。
「これならどうだよ──ッ!」
俺は切った勢いのまま右脚へ飛んでいき──
「捻じ切れろ!」
ボギィィィ!!
「チッ! 骨だけか!」
「グラアアアア!!!!」
脚を折られた事に怒ったのか、竜が無茶苦茶に暴れる。
俺は一旦距離を取ると、どうしたものかと考える。
「グゥ、グルルルアアアア!!!!」
俺を見つけた竜の口に、先程とは比べ物にならない程の魔力が集束する。あれはきっと、ドラゴンブレスというやつなのだろう。
魔力はどんどん濃くなっていき、赤い渦となって燃え盛っている。
「『プレス』!」
俺はプレスで口を閉ざさせ、口内でそれを爆発させた。
ドオオオンンン!!! と言う爆発音が竜の口から聞こえた。
「こっちも行くぞ!」
俺は炎を生み出すと、重力でそれを圧縮する。
圧縮した火球の上からさらに炎を生み出し、それを圧縮。
それを続けていく事でどんどん魔力は濃くなり、威力は計り知れないものになる。
制御が難しすぎて普通なら絶対使えないがな。
俺は少しトんでいる竜へ、生み出した5つの火球を飛ばす。
ドゴオオオオオオンン!!!!!
この戦場で一番大きな音が鳴り響いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ……はぁ……嘘だろ?」
俺は上級竜を見て、力無くそう呟いた。
……無傷、ではない。
腹は焦げているし、翼膜も少し破れている。片目だって潰している。
しかし──
「グルルルアアァァァァ!!!!」
奴はそれを気にする事も無く、力強く咆哮した。
残り、1分10秒。
……ああ、ロキの言ってた事は本当だな。
勝てるビジョンが、全く見えて来ない。
既に魔力も三分の一を切って、魔法を使えばオールポーションのタイムリミットより先に魔力切れを起こすだろう。
《何をそんなトカゲ如きに苦戦しているの?》
……レーヴァテインか。俺はもう武器が喋ったくらいじゃ驚かないぞ。
「いや、仕方ないだろ。こちとらレベル1なんだぞ」
《ふっ、確かにそうね。貴女はまだ弱い。そこのトカゲにはまだ敵わない》
「じゃあ、仕方なくないか? どうにかすきをみて逃げ──」
《でも、私の力を使えば、あのトカゲ如き瞬殺出来るわよ?》
「何?」
《私の力が形態変化だけだと思っているの? これでも、神界を滅ぼしかけた災厄の神器。
貴女はまだ全ての能力を使えないけど、“白炎”は使えるでしょ?》
神器を手にした瞬間に、不思議と使い方は分かっていた。
……確かに俺はその“白炎”とやらを使える。……使えるが。
「怖いんだよ、その炎。今の俺でも絶対に制御出来ない。
出した瞬間に暴走して焼き尽くされる未来が見える」
《ふふっ、それは私と契約してないからよ。契約すれば、自分の神器の攻撃では契約者は傷つかなくなる。炎の制御は私がするわ》
「グラアアアアアア!!!!!」
チッ、時間は無いか!
「分かった! 契約してやるよ、レーヴァテイン!」
《じゃあ、私の後に。
──終末の炎よ》
「終末の炎よ」
空中制御で竜の攻撃を回避する。
残り50秒。
《天界を焼き尽くし、神々を焼き尽くし、尚も消えぬ白き炎よ》
「天界を焼き尽くし、神々を焼き尽くし、尚も消えぬ白き炎よ。──ぐっ!」
避けた先に居た中級竜たちが放ったブレスを反らす。
《九つの封印の解き放ち、我に絶対なる勝利を与えよ!》
それに気を取られ、奴がブレスを溜めている事に気づけなかった。
「ガアアアアアア!!!!」
膨大な魔力の奔流。
まるで太陽が落ちてきたかのように、視界が炎で埋まる。
《早く!》
「──! 九つの封印を解き放ち、我に絶対なる勝利を与えよ!!」
既にブレスは、目前に迫っていた。
《──ええ、貴女に勝利を捧げるわ。マスター》
瞬間、迫っていた炎を、白く美しい炎が呑み込んだ。
「レーヴァテイン!」
《ええ、マスター!》
俺は白い炎を、先程の要領で圧縮する。
さらに残りの魔力全てを注ぎ込み、白炎を生み出す。
もっと、もっとだ──!
残り10秒。俺の魔力も一割を切った。
しかし──
「……これで死ねよ」
俺の傍らには、白き太陽が顕現していた。
上級竜のブレスなんて比較にもならない。正真正銘、今出せる本気の技。
名付けるならば──
「──明けの明星」
俺はレーヴァテインに魔法のコントロールを任せると、翼を消し地面へと落下していった──。
消えゆく意識の片隅で、白き太陽が途轍もない大爆発を起こしたのを感じた。
経験値を入手しました!
レベルアップしました!
これにて書いていた分は終了となります。
やはり何かを書くというのはとても楽しいですね。これからも更新はして行きます。
ステータスについてですが、割と適当にその場の勢いで決めているため、適当に見流してくれると嬉しいです。
重力魔法についても、“異世界だから”で納得してもらえると幸いです。