8話
──俺は今、どこに居る?
何も感じない。何も見えない。俺は死んだのか?
《いんや、死んでねえよ。お前はまだ生きてる》
そうか。でもその言い草だと、そろそろ死にそうって感じだな。
《そりゃそうだろ。こっちの世界に来てちょっとの未進化種族なんかが上級竜の攻撃喰らって無事な訳ねえだろ。それが例え天使族でもな》
ははっ。確かにそうだな。
でも、進化の仕方が分からなかったんじゃ仕方なくないか? 進化出来てたらとっくにしてるっつうの。
《ま、確かに無理だわな。天使族の進化は難易度ナイトメアだぜ?》
へぇ、どんな感じなんだ?
《“神の加護を2つ以上所持している事”。これが天使族の進化条件だ》
無理すぎんだろ! 俺は輪廻神に転生させてもらったから加護があったけど、この世界じゃ加護って超珍しいんだろ!?
《そうだぜ?》
そうだぜ? じゃねえよ。ったく、なんでそんな難しい条件にしたんだよ。
《だって天使っつうのは本来神の使いだぜ? なら神の加護を持ってないとおかしいだろ。一つ持ちくらいなら才能があればなんとかなったりしてたからな》
そうかよ……。それで、何で俺は今こんな状態なんだ? 教えてくれるか? どっかの神サマ。
「ひひっ、あいつに聞いてた通りの奴だな」
近くで声が聞こえた。今までの、脳から聞こえるような声じゃない。
すぐそこに、神が居る。
「俺はロキ、狡知の神だ。早速だがお前に頼みがある。
聞いてくれるなら、加護をくれてやろう」
──はっ、選択肢なんて無いクセに。
「そりゃそうだ。こうなるまで待ってたんだからな」
神って奴は本当にいい性格してるよ。
それで、頼みってなんだ?
「お前が今居る街に、ある奴隷の少女が居る。
その少女を助け出し、面倒を見ろ」
どんな女の子なんだよ。特徴も分からんし。場所の詳細を寄越せ。
「かかっ。それは生き残ってからだぜ? どうだ、飲むか?」
飲んで進化しないと、俺は上級龍にぶっ殺されるんだろ。なら、飲むしかないだろ。
「よしっ! じゃあお前に加護を授ける。
……まぁ、それでも敵わねえと思うがな──」
は!? ちょ、まっ──
◇ ◇ ◇ ◇
──狡知神の加護を入手しました。
──進化条件を達成。
──種族進化を開始します。
そんなアナウンスと共に、俺は目を覚ます。
「……いってえなぁ」
見れば、どこもかしこも火の海だ。
体中痛いし、ローブはボロボロだし、仮面も半壊してる。
でも、五体満足で生きてる。
咄嗟に張れた重力バリアが効いたみたいだな。
アニメでやってたから出来ないか練習していつも失敗してたが、土壇場で何とか成功したらしい。
「……さて」
ちらりと辺りを見渡すと、リルが火の属性龍と、鎧の人が土の属性龍と戦っているのが見えた。
他の冒険者たちも各々で戦っており、助けを期待するのは無理だろう。
俺はローブからオールポーションを取り出し──一気にそれを飲み干す。
「さて、やろうか。上級龍」
猶予は3分。
オールポーションの強化が切れた瞬間が最後だ。
それまでに、終わらせる。
◇ ◇ ◇ ◇
「『ステータス』」
個体名:ルシア
性別:女
年齢:0
種族:半天使
Lv:1
HP :1800/1800(4320)
MP :9000/9000(21600)
筋力 :150(360)
魔力 :7500(18000)
体力 :600(1440)
速力 :400(960)
知力 :2500(6000)
ユニークスキル:天の翼Lv1 真眼(左) 重力魔法Lv5 言語マスター 神器召喚(new)
スキル:MP回復Lv5 火魔法Lv3(new)
加護:輪廻神の加護 狡知神の加護(new)
称号:異界からの転生者 苦難の道 災厄の所有者(new)
色々変わってるが、まあいい。
今の全力で、敵を倒すだけだ!
「『天の翼』!」
バサッ! と、俺の背に純白の翼が“生えた”。
半天使だからか片翼だが、どこか神聖な気配を感じる翼だ。
どうやら魔力で出来ているようで、服を着ているから出せないなんて事はなかった。
ユニークスキル:天の翼
天使族が本来持つ翼を顕現させるスキル。使用中はMPを消費する。
魔力、知力を1.2倍。魔法仕様に極大補正。空を飛ぶ事が出来るようになる。
──はっ。とんでもないスキルだ。
だがMPの消費が激しすぎて、通常状態じゃまともに使えないな。
しかもLvがあるって事は、どんどん倍率が上がってくんだろ?
俺は自分の重力を軽くして、片翼を広げ空へ飛び立つ。
「よお、トカゲ野郎。上から見下されるのにも飽きたから来てやったぞ?」
「グルルルァ!!!」
「良い挨拶だな。初めまして」
俺は龍が放ってきた火球を反らし、上空で圧縮、爆発させる。
そして──
「『神器召喚──』」
俺の新しい称号、“災厄の所有者”。
俺はそんな物と所有した覚えは無いが、これから呼び出す神器はきっと“そう言う類の物”だ。
俺は、不思議と湧き上がってくるその名を叫ぶ。
「──来い! 『レーヴァテイン』!!!」