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7話

 ギルド内は喧騒に包まれていた。どこから漏れたのか、竜の襲来は既に冒険者たちに知れ渡っているようだ。

 俺とリル、そして先程の職員さんが一階に戻ると、冒険者たちの視線がリル、そして俺へ注がれる。


「みな、既に知っているな。しかし情報が少ない。詳しい情報を持っている者は居るか?」


 一気に沈まりかえるギルド。どうやら、俺たちが持っている程度の情報しか知らないようだ。


「ふむ、そうか。なら──」


「はぁ……! はぁ……! ギルマスは居るかッッ!!」


 バンッ! とギルドの扉が乱暴に開かれ、血まみれの、満身創痍の男が入ってくる。


「ああ、ここに居るぞ」


「良かった……。敵は、竜の群れだ……。劣種から属性種までを確認した……数は、300以上──ぐっ」


「おい! 大丈夫か!?」


 倒れた男に、近くの冒険者が肩を貸す。


「……俺のパーティーを助けてくれ…………俺だけ、転移石で戻ってきたんだ……」


 そう言うと、男は意識を失った。


(龍、か)


「──これより緊急依頼を発行する! D以上の冒険者は強制参加、それ以下の冒険者は自由参加とするッ!」


 ざわめき出したギルド内を一喝するように、リルの声が響いた。


 俺の選択は──



  ◇  ◇  ◇  ◇



 ガスフォードの街の前に大きく広がる平原。

 そこで冒険者と街の兵士たちは竜たちを迎え撃とうとしていた。

 しかし兵士たちは住民の避難誘導があるため、殆どは冒険者たちで構成されている。


「見えたぞ!」


 冒険者の一人がそう叫ぶ。


 そして、段々と見えてくる敵の影。

 空を覆い尽くさんとばかりに広がる竜たちは、確かに300以上の数は居そうだ。


 それを見て彼らの顔を恐怖の陰が落ちる。


 この世界での竜種とは、魔物の頂点に君臨する一種として広く知られている。

 その種類は劣種から始まり、下級種、中級種、上級種、属性種、王種、古代種となる。


 下位の下級種でさえCランクのパーティーがやっと倒せる程度の強さを持つ。

 それが、300。

 しかも、属性種まで居るとなると、絶望しか沸いてこない。


 しかし、その中でも表情を崩さない者たちが居た。


「お前ら、何をビビっている? 逃げ出した者はギルドから追放だからな?」


 一人。元Sランク冒険者にして、ここガスフォード支部のギルドマスター。リル・ユグドラシア。

 彼女は翠の薄いドレスを着て、その手に大きな緑色の宝石が嵌め込まれた木の杖を持っていた。



「皆の者! 絶望するにはまだ早い! 今は兵士や冒険者などという諍いを切り捨て、共に戦うのだ!」


 一人。翼を広げた大鷲の紋章が入った鎧を纏う、大盾と剣を携えた騎士。

 前闘技大会優勝者にして、王都を守護する不死鳥騎士団の団長。リガルド・フェニクスである。


 偶然この街に滞在していた彼は数名の団員と共に、この戦線へ名乗り出たのである。


 ──その他、腕に自身のある冒険者や戦闘狂たちが竜の群れをギラギラとした目で見つめていた。


 そして──


「『深緑よ、我が障害を討ち滅ぼせ』──!」


 リルの放った精霊魔法を期に、彼らの攻撃が始まった。 



  ◇  ◇  ◇  ◇



(うわぁ……すご……)


 先程リルが杖を掲げたかと思うと、緑色の宝石が光を放って、地面から伸びた木の根が竜たちを串刺しにした。

 次に鎧を着た強そうな人が剣を振るうと青色の斬撃が飛んでいって、竜たちを切り裂いた。


 これ、案外楽に勝てるんじゃね?


「『プレス』!」


 俺は襲ってきたプテラノドンモドキを地面に叩きつけながら、そんな事を考えていた。


《そう上手くは行かないぜ?》


「え?」


 今、誰か俺に話しかけ──


「グオオオオオオオン!!!!!!」


 一際、大きな咆哮が響いた。 

 ここからでも見える、大きく赤い巨体。


「属性種だ……」


 誰かがそう呟いた。

 それと同時に、ドンドン、と地面が揺れる。

 まるでそれは、沢山のナニカがこちらに向かってきているような──


「地龍だ!」


 森から、地龍の群れが侵攻してきた。



  ◇  ◇  ◇  ◇



「クッソが!」


 俺は空から降り注いでくる火球を自分を近くの竜の死骸へ引き寄せる事で回避し、攻撃してきた竜へ『プレス』をかける。


「グゴァ!!!」


 空を飛ぶ飛竜に対し、俺の重力魔法は天敵と言っていい程強力な魔法だった。

 普段は空から悠々と攻撃を仕掛けてかる飛竜は『プレス』によって地面に叩き落とされると、なす術無く近くの冒険者たちによって殺されていくのだ。

 その為俺の周りには常に数人の冒険者たちが居て、「こいつが落としたの倒せばいいや」的な雰囲気が流れている。


 しかし中級竜程になって来ると、落としても直ぐに対応して倒せないと言う現象が起きる。


 今落とした竜も、直ぐに状況を把握に襲い来る冒険者を尾で薙ぎ払っていた。


「グルゥゥ……!!」


(あ、やば!)


 飛びかかって来た竜から先程と同じ手順で逃げる。


《おー危ねえ危ねえ。大丈夫か?》


(さっきから一々うるせえな! 気が散るから話しかけてくるな!)


 俺はMP回復のポーションをがぶ飲みすると、今度は攻撃してきた竜へと体を引き寄せ──


「捻じ切れろ」


 ピタ、と竜の首を掴みそう言った。

 瞬間──


 ボキボキボキッ!!


 竜の首がぐちゃぐちゃに捻じれた。

 これは対象に触れていないと使えないが、内部から相手を殺せる重力魔法。

 俺が今魔法耐性がある龍の鱗を無視してダメージを与えられる唯一の手段だ。


《うっひょ〜やるねえ。中級とは言え竜を一人で倒せるなら、その世界じゃまあまあそこそこ強い方だぜ?》


「はぁ、はぁ……うるせえ」


 先程から聞こえてくる、謎の声。

 この声が神的な何かだと言う事はもう分かったが、こいつは何をするでもなく野次を飛ばしてくるだけだ。

 今のだって苦難の道のステータスUPが働いてたから出来た事で、普通の俺じゃ出来やしない。


《でもよぉ……》


「グラアアアアアア!!!!」


《“上級種”にそれが通じるかなぁ?》


 瞬間、俺のありとあらゆる細胞がざわめき出し、頭の中に危険信号が鳴り響いた。


「!?」


 咄嗟に見上げた視界に──


「な──」


 極大の炎が、映った。


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