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4話

「……おい、なんだアイツ」


 昼間の冒険者ギルド。

 段々と人がまばらになってきた頃合いに、ソレは現れた。


 冒険者たちがソレを見て思った事は、一重に“異様”。


 体を覆い隠すのは光を呑み込まんと言わんばかりの漆黒のローブ。一見魔術師かと思ったが、杖などを装備しているようには見えない。

 そして一番目立つのは、やはりその“仮面”だろう。

 顔全体を隠すその仮面には視界確保の為の穴もなく、ただ真っ白な仮面であった。


 素性の知れないその人物に対して分かる事は、長い深蒼髪とローブの下からでも主張する乳房からして女だと言うことのみ。


 そして、不気味な人物だが、どこか神聖な雰囲気を感じる。


「おい姉ちゃん、ちょっとツラ貸せや」


 少し目を離すと、謎の仮面は柄の悪い男三人組に絡まれていた。

 奴らは他の街からやってきた傭兵崩れの冒険者で、素行不良が目立っていたグループだ。


「邪魔だ」


「あぁん!? てめえ俺が誰だか分かってんのかぁ!!」


「知らん、ブサイク。お……私はお前に構ってる暇は無いんだ。退け」


「てめえ! 舐めてんの……かっ!」


 すると、冒険者の内の一人が仮面に向かって殴りが掛かっていた。


 仮面は回避行動を取ろうとしていない。

 今までと同じ、直立不動の姿勢だ。

 

(危ねえ!!)


 それを見ていた冒険者が助けに入ろうとすると──


「『プレス』」


「ぐぅぅ!!?」


 不意にガグンッ! と、殴り掛かっていた男が姿勢を崩す。


「ぐっ! てめえ、何を……!」


「いきなり四つん這いになってどうした? 謝る気になったか?」


「何をしやがった!!」


「死ねええ!」


 すると、それを見ていた二人の男が抜剣し、仮面に斬りかかった!


 仮面はまたもや、回避しようとしない。


「『プレス』」


 先程と同じ流れで、二人の男も四つん這いになる。

 その姿はまるで、何か重い物を乗せられているかのようであった。


「ぐはぁ!」


「おい、さっきまでの威勢はどうした? 三人掛かりでこれか?」


 仮面はそう言うと、最初の男の後頭部に足を乗せた。


「引っ込んでいろ、雑魚。

 弱い癖に威張り散らし、無駄に酸素を浪費する……お前らには椅子程度の価値も無い」


 バギィィ!!!


 床が耐えられなくなったのか、男たちの周囲の床が何かに押し潰されたように凹む。

 それと同時に、男たちは意識を失った。……死んではいないようだ。


「判決を下そう。

 お前らはこのまま目が覚めるまで冒険者たちの目でその無様な姿を見られ、今後もこの事で弄られ続けるの刑だ」


 彼女はそう言うと、ギルドの受け付けへと歩いていき──


「床の弁償代はリルにツケておいてくれ」


 ギルドマスターの名を出した。



  ◇  ◇  ◇  ◇



 ──数時間前。


「ううぅ……酷い……」


 俺は昨日リルから紹介された宿屋に泊まっていた。

 とてもフカフカのベッドで、速攻寝に入って──熟睡していた所を叩き起こされた。

 鍵もちゃんと締めてたのに、なんでだ……。


「起きないからだ」


「でもベットを傾けて床に落とすのはないだろっ!」


 起きろと言う声にあと五分〜と返していたら、いきなり傾いてゴンだ。


「クソぉ……良くもこんな美少女に……」


「確かにお前の姿は整っているが……ナルシストなのか?」


「自分で自分を可愛いと言って何か悪い! この“ルシア”は俺と神で創り上げた究極の美少女だぞ! 世界一可愛いに決まってる!!」


「そうかそうか、見た目に似合わずうるさい奴だ。しかし“俺”とは……珍しいな」


「ああ、元は男だからな」

 

「……そうか。だがその体で一人称が“俺”と言うのは似合わないぞ?」


「確かに……じゃあ、これからは“私”で行こうかな。

 て言うか、なんでリルはここに居るんだ? ギルドマスターなんだろ?」


「ああ、これでも多忙な身でな。今日は依頼とお前に役立つ物を持ってきてやったぞ」


 そう言ってリルがベッドに置いたのは、黒いローブと白い仮面だ。


「これは?」


「お前の装備だ。いかにも村人Aなその服では冒険者として恥ずかしいだろう。仮面はお前の顔を隠す為の物だ」


「顔を……隠すだって!?」


 なん……だと……。

 せっかくの美少女なのに……。


「隠さねば、また面倒事に巻き込まれるぞ?」


「ぐうぅ……」


「このローブは“夜のローブ”。

 耐熱耐寒と、夜になると少しの補正が入る」


 おお! 強そう!


「これは“増長の仮面”。

 使用者の精神を安定させると共に、精神を増長させる。それと内側から外を透視出来る。えーっと……まじっくみらーだと思ってくれれば良い」


 おお、なんか凄そう。


「良いのか? こんなに良くして貰って」


 クソ野郎からの救出、冒険者登録、この宿の代金、そしてこの装備。

 俺はリルに様々な面で補助されている。

 リルが居なかったらとっくに野垂れ死んでいただろう。


「昨日も言ったが、これは“貸し”だ。

 お前に見込み有りと判断したからこうしてるまでだ。冒険者としての活動で還元しろ」


「わかった! お……私頑張る!」


「ふっ、良い意気込みだ。ほれ、私が着させてやろう」


 リルはそう言いローブを持って近づいてくる。

 体と体がくっつきそうになる程近づくと、リルがローブを俺の体の後を通して前に持ってくる。その時── 


 ぽよんっ。

 リルの結構大きいお胸様と、俺のそこそこ大きいお胸が接触事故を起こしてしまった。


(んんんんんん!!!??????)


 未知の感覚に脳がフリーズする。顔が真っ赤になっているのが分かる。


「よし、次はこのイキリ……増長の仮面だな」


 リルが何を喋っているのかよく聞こえない。

 でも、仮面を被せられた感覚があった。


(お、おぉ……これが仮面の効果か……)


 仮面を付けると、良く寝た日の朝のような清々しい気分になった。


「うむ、様になっているぞ」


「そっか、ありがとう。それで、依頼って何だ?」


「冒険者の主な仕事だな。内容は多岐にわたるが、今回の依頼は初心者用の討伐依頼だ」


「ああ、よくあるやつか。討伐の証明ってどうすればいいんだ?」


「ギルドカードが証明する。その他有用な部位を持ってくると換金出来るが、魔物の種類によっては容易に持ち運び出来ない。

 だから『アイテムBOX』と言うスキルを持っているとかなり有利だ」


 『アイテムBOX』。『鑑定』と並ぶ超メジャースキルだ。

 まあ、俺はどっちも持ってないんだが。


「今回の依頼はコボルト3頭の討伐。ルシア、お前は森に行きコボルト──この絵の魔物を3頭殺してこい。

 終わったらギルドへ帰り、依頼書を出せば依頼達成だ。門の出入りはギルドカードを出せば金を取られんから安心しろ」


 渡された依頼書には──


 依頼名 コボルト3頭の討伐

 依頼者 冒険者ギルドガスフォード支部


 内容 ヴォーブ大森林でのコボルトの討伐。

 報酬 大銅貨3枚。買い取り部位 爪


 と言う内容が下部に書かれており、それより上は直立した犬が描かれていた。

 これがコボルトなんだろう。


「よし! じゃあ俺行ってくるよ!」


「“私”」


「私行ってくるよ!」


「ああ、頑張れ」


 俺は依頼書を持つと、宿を飛び出した。

 待ってろよ、コボルト! 



その名もイキリ仮面

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