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18話

「ぶひっ、君の主はもう終わりだ。あ、あの結界は、前勇者が作り上げた物だからなぁ!」


 男が水晶からドーム状の結界を発動させると、買い主が持つ白い鎌が消えた。


「……え?」


「ひっ、あの結界は魔封じの結界。中に居ると、どんな魔法も使えなくなるんだ!」


 魔法が、使えない?


 ──買い主は前、確かこんな事を言ってた。


『何で俺はこうも偏ってるかなぁ。魔法系のステータスが無ければ弱すぎだろ』


 それはただの一人言だった。

 ぼーっとしてる時とか、寝起きとか、買い主はたまに自分の事を俺って言う。


「……魔法が、使えない」


 買い主が蹴られた。

 買い主が殴られた。

 掴まれ、投げられ、奴隷のように嬲られてる。


「……やめ、てぇ……!」


 許せない。

 ──あの人に危害を加える奴らが。


 許せない。

 ──無力な、自分が。


 何でこんなに、私は弱いの?

 ステータスは全部500。ずっと奴隷で、ずっと何かに“縛られて”きた。


 ずっと感じていた、不自由さ。

 それが無くなれば、あの人を助ける事が出来るの?




《──そうだ》


 気づけば、世界が停止してた。

 誰も動かない世界の中で、その声だけが鮮明に聞こえてくる。


《お前を縛っているのは鎖だ。その鎖からその身を解き放てば、お前はお前の主を助け出す事が出来る》


 ──ジャラ


 いつの間にか、私は銀色の鎖で手足を拘束されていた。

 ……違う。この鎖はきっと、ずっと前からあったんだ。


「あの人──主を助けたい」


《その結果、お前は更なる苦難の道へ進んで行くぞ?》


「それでも良い」


《お前を狙って、沢山の敵がやって来るだろう》


「主が守ってくれる」


《いつか主が死んだ時、お前は一人のまま生きていく事になる》


「後の事なんか知らない! 私は“今”ッ! 主を助けたい!」



 ユニークスキル:反逆

 強い思いによって発動。

 自らを縛る身分、障害、それら全てを打ち破り、反逆の狼煙を上げる。

 


 バリィィィン!!!!


《そうか。なら、これからお前はただの少女ではなく、フェンリルとしてお前は生きる事になる》


「──違う」


《ぬ?》


 声のする方向を見る。


「私はヴィナ。主の奴隷。それ以外の何者でもない」


 視界の先には、神々しい銀色の狼が居た。


《フフフっ、そうか。ではヴィナよ、その力で主を助けるのだ》


「言われなくても、そのつもり──!」


 まずは、あの水晶から!



  ◇  ◇  ◇  ◇



「主……大丈夫!?」


「ヴィナ……?」


 一陣の風が吹いたと思ったら兵士たちが吹き飛ばされ、ヴィナが俺の体を起こしてくれていた。


 それが、今の現状である。


「大、丈夫だ……心配しなくていい」


 俺は乱れた服を軽く直す。どうやら結界も解除されてるようだ。


「『プレス』」


 ビキッ──!


 俺が発動したプレスは地面に亀裂を入れ、豚野郎たちをカエルのように這いつくばらせた。


「ぶひぃぃぃ!!!」

「く、そぉ!!!」

「あだだだだだだ!!!」


 忽ち阿鼻叫喚に包まれる野営地。

 だが──


「なに……?」


 その中で一人。あの側近だけが、余りプレスの影響を受けていないようだった。


「くくっ、お前の事は調べがついているんだよ! Dランク冒険者ぁ!」


 そう言って唾を飛ばしてくる側近。


「ヴィナ、待て」


 今にも飛び出して側近を引き裂きそうだったヴィナの頭を撫でて落ち着かせる。


「調べたぞぉ? 先日ガスフォードの街であった竜進行において、門付近に現れた上級竜を一人で倒し街を救った英雄なんだってなぁ!」


 ああ、そんな事も言われたっけな。


「しかしその実、上級竜は冒険者たちとの戦いで瀕死だったのを横取りし、手柄を自分の物にしていたとな!」


 ……は?


「そして更に俺は調べた! お前……いや、天使族は、“人が殺せない”のだろう!?

 ある冒険者パーティーが言っていたぞ! 盗賊に襲われた時、殺せるだけの実力がありながら殺さなかったとなぁ! 

 お前はガスフォードの街で3人の冒険者を瀕死に追い込んだが、その特性があるからトドメを刺さなかったんだろううう!?」


 …………そう、か。


「だから、お前はここまで強引な手に出たんだな」


「そうだ! もしお前がここを見つけても、魔封じの結界がある。外なら、魔物に襲われて死んだように見せる事も出来る!

 お前は俺らを“殺せない”! だが、俺らはお前を殺せる!」


 ──確かに俺は、この世界に来てから人を殺した事はない。

 何故なら、少し前まで俺はただの男子高校生だったから。


 気づいたらあの空間に居て、交通事故で死んだと神に言われた。そりゃもう動揺したさ、泣いたさ。だってもう家族に会えないんだから。


 だから、次の生は悔いのないようにと、悩んで悩んで転生した。

 神に謀られて指名手配犯と同じ見た目になってしまったが、それでも俺は“俺”として、その一線を超えないようにしてきた。逃げてきた。


 ……その結果が、これか。


 俺の、甘さ。

 人を殺すのが怖かった。いずれその時が来る事は分かってて、必死に目を逸らして他人に任せてきた。


 全部、“俺”が引き起こした自業自得。


「……何故、お前や兵士たちはあんな奴の悪事に加担する?」


「そりゃ、アレが次期当主だからに決まってるだろう! 早い頃から仕えれば、最終的にはあいつを操り俺がこの街を牛耳る事が出来る! 

 だからスラムからゴミ共を掻き集め兵士としての駒を用意した! 少しお溢れをくれてやれば、あいつらは素直に言う事を聞くからなぁ」


 ……そうか。ここに居るのは、どうしようもないクズばっかりだな。

 ──いや、ヴィナだけは違うか。


「判決を、下そう──」


 全ては、“俺”の甘さが引き起こした自体。

 なら、少しの間“俺”には眠っていてもらおうか。


 ──“私”はルシア。天使族で、ヴィナの主。

 宣告者として、どうしようもないクズのお前らを私が裁いてやろう。







「──死刑だ」







 ──経験値を入手しました!

 ──レベルアップしました!



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