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16話


 私たちは呼吸をする。食事をする。睡眠をする。

 だが、私たちのスキルに『呼吸』や『食事』『睡眠』などは無い。


 その理由には諸説ある。

 それが当たり前すぎるからだ、とか、昔はあったが全てを表示すると面倒くさいので神によって消された、など。


 しかし、私は思うのだ。

 剣術のスキルが無くとも、私は剣を持ち、振るう事が出来る。

 料理のスキルが無くなくとも、料理が出来る。

 鍛冶のスキルが無くとも、鍛冶が出来る。


 ──つまり、我々はまだスキルに至る程呼吸や睡眠、食事を鍛えていないのでないか?

 しかし、全ては座上の空論だ。

 有史以来そのようなスキルを持った人物は確認出来ていない。

 もしこれを読んでいる君がこのようなスキルを持っていた場合、是非私の所へ来てほしい。その時は歓迎しよう。


 『スキルについて』 エドワード・スミス著



  ◇  ◇  ◇  ◇



「ふーん」


 中々に面白い考察だった。

 このエドワード・スミスと言う人物が書いた本を読むのはこれで二回目だが、なんだかファンになってしまいそうだ。


 ちらりと横を見ると、『どの眼が最強? 〜歴代魔眼ランキング〜』と書かれた本の表紙が見えた。


「ヴィナ、それ前のユニーク魔法のやつと同じ作者だよな?」


「……うん」


「だろうな……。ちなみにどんな魔眼があるんだ?」


「……『障壁眼』、魔力を込めた分の強度を持つ透明な壁を作る。……あっ」


「……どうした?」


「……『転移眼』に殺された」


「そうか……」


 内容、大体同じなんだな……。


 そうだ。その本に真眼は載ってるだろうか。前の本に重力魔法は載ってなかったからなぁ。

 現在、俺たちは一昨日と同じベンチで読書に勤しんでいた。

 昨日は一応ヴィナに外出をしないようにしてもらって、俺はギルドで依頼をこなしていた。


「……買い主の本も、読みたい……」


 ダメ……? と、上目遣いで聞いてくるヴィナ。


「良いよ。丁度読み終わった所だ。私もそっちの本読んで良いか?」


「……うん」


 俺は『歴代魔眼ランキング』を読み始め──


 ──タッタッタッタッタッ

 ──ガシャガシャガシャガシャガシャ


「おい、なんの真似だ?」


 ようと思った所、何故か兵士に囲まれた。

 昨日御輿を担いでいた兵士と同じ鎧を着ている事から、こいつらが昨日の豚野郎の所から来たことが分かった。


「冒険者殿、ご同行願いたい」


「……舐めてるのか?」


 何か“願いたい”だ。

 力ずくで連行する気満々じゃないか。


「はぁ……」


 周りを囲む兵士たちに軽いプレスを掛ける。


「…………屋敷へ来ていただこう、冒険者殿」


 おお、いつものより軽かったとはいえ「ぐっ!」とか「うっ!」とか言わなかったのは凄い。しかし──


「冒険者殿冒険者殿と──私の名前すら知らないのか?」


「…………」


 マジか。流石に素性くらい調べているものだと思ってたぞ。

 って言うかギルドじゃ結構宣告者言われてるんだがな。


「論外だ。せめて相手の事くらい調べてから来い豚野郎──と言っておいてくれ」


 俺は兵士たちを吹き飛ばす。


「さ、帰ろうか」




 俺は甘かった。

 もっとボコボコにして、あの豚野郎がヴィナの事を諦めるくらいの力を見せておくべきだった。

 後悔しても、もう遅い。

 

 全て、俺の“甘さ”が引き起こした自体だ──



  ◇  ◇  ◇  ◇



「──と、言う事なんですよ」


「うーん……それは困ったねぇ……」


 翌日。

 冒険者ギルドギルフォー支部、ギルド長室。

 俺は、ギルドマスターでありリルの知り合いであり転移者である、斉藤さんへ豚野郎の事を相談しに来ていた。


「ギルフォー伯爵家の現当主であるビント様はとても良い御方なんだが、その一人息子であるリズント様は次期当主になると言われていて、その立場を使ってやりたい放題なのさ」


「例えば?」


「気に入った女の子を屋敷へ連れ込んだり、気に入らない態度を取った民を不敬罪に仕立て上げたり──まあ、とにかく酷いのさ。

 ただ、その後に被害者にはビント様が直々に謝りに行き、膨大な慰謝料を払っている」


 取り敢えず、あの豚野郎が最低なクソ野郎だと言う事は分かった。

 そして、父親はまとも……いや、あんなのを野放しにしてる時点でダメか。


「リズント様は一度欲しがった物はなんとしてでも自分の物にしようとする。

 今はヴィナちゃんだね。

 十分に気をつけて外に出歩かないようにするか、早急にこの街を発つといい」


「分かった……この街自体は好きなんですけどね」


 よし。明日中に準備を整え、明後日にはここを発とう。

 急ぎすぎかもしれないが、ヴィナを守るためだ。


「ありがとう、斉藤さん。この近くに良い街はない?」


「そうだねえ。ルシア君がガスフォードから来て戻らないとなると……残る選択肢は、このまま辺境まで行ってしまう感じになるのかな?」


 辺境、か。中々良い響きだ。

 俺は再度斉藤さんへ礼を言うと、宿へ戻った。



  ◇  ◇  ◇  ◇



「すいませんねぇ、お客様。今、馬車を出さないようと領主様からお触れが出てるんですわ」


「ここもか……」


 翌日。

 ヴィナと話し合い辺境へ行く事に決めた俺は街の馬車屋を巡っていたのだが──


「あの豚野郎……本気でヴィナを捕まえにきてるな」


 何軒も巡って、返された言葉は「馬車を出すなとお触れが出てる」だ。


「チッ」


 しかも、俺の後を兵士が尾行している。

 ……ガシャガシャいってうるさいから丸わかりなんだが……。


「面倒くさいなぁ!」


 俺は裏路地に入り、『フライ』で自重を軽くし○○オ的な壁キックで屋根の上に出た。


「どこへ行った!?」

「奥へ行ったんだろう、追え!」


 俺を見失って慌てる兵士たちがよく見える。


「はぁ……どうしたものか──」




「──って言う感じなんだ」


「……大、変?」


「結構な。一番手っ取り早いのは、豚野郎を直接ボコす事だが、そんな事したら罪人になる」


 ああ、面倒くさい。


「……わたしの、せい?」


 読んでいた本をぎゅっと抱きしめ、不安そうに見上げてくるヴィナ。


「そんな事は無いさ。全部あの豚野郎が悪い」


 しかし、こうなると困った。

 徒歩で辺境まで行くなんて無理だし、馬車は出ない。


 ……買うか? いや、俺に御者は出来ない。ヴィナも同様だろう。

 いや、待て。他の冒険者ならどうだ?


「私はギルドに行ってくる。少し待っててくれ、ヴィナ」


「……行ってらっしゃい……買い主」



  ◇  ◇  ◇  ◇



「おぉ! そこに居るのは宣告者の姉さんじゃねえですか!」


 ギルドへ行くと、酒場エリアの方から声をかけられた。

 そちらを見ると、馬車に乗っていた『鉄心』のメンバーの内の一人が俺に向かって手を降っていた。


「おう宣告者、飲むか?」


「いや、遠慮しよう」


 酒場の大きな丸テーブルに座っている人数は6人。

 これが鉄心のフルメンバーなのだろう。


「紹介するぜお前ら。この人はルシア。ガスフォード出身のDランク冒険者にして、『宣告者』の二つ名で呼ばれてる」


 そう言ったリーダーの後に、初顔の3人が続く。


「お噂は聞いてますよ、宣告者。なんでも街付近へやってきた上級竜を一人で倒したとか」

「天使族って本当ですかっ!? 天使族はもう何十年も現れてないんですよ! 村や住処ってあるんですか!?」

「ルシアはん。旅路ではうちのパーティーを助けてくれてありがとうございます。何かあったら力になりますんで」

 

 そう言ってくる3人は、中々に個性的だが──今はそれどころじゃないのでスルーしよう。 


「お前ら、馬車を持っているか?」


 おれは鉄心へと、そう切り出した。



  ◇  ◇  ◇  ◇



 結果から言えば、馬車の当ては見つからなかった。

 鉄心は馬車を持っていたが、今は修理中で、あの3人は相乗り馬車に乗って迷惑にならない人数でガスフォードへ用事を済ませに来ていたらしい。

 その最中に竜の進行に巻き込まれたらしい。


 他の冒険者へもアプローチをかけてみたが、こんな身なりで、しかも冒険者3人を半殺しにしたとされる宣告者は恐れられていて、話もしてくれなかった。

 馬車持ちの冒険者で話を聞いてくれる人も居たが、何やら今辺境の魔物が活発化しており、行きたくないそうだ。


「どうするかなぁ……」


 宿へ戻る帰り道、肩を落としながら歩いていると──


 プーッ! プーッ! プーッ!!!


 あの時聞いた、耳障りなラッパの音が聞こえてきた。

 

「来るかっ!?」


 見れば、兵士たちの鎧にあったものと同じ紋様が描かれた豪華な馬車がこちらに向かって爆走してきている。

 御者席に乗るのは、豚野郎の側近と思われるあの男。


 しかし、馬車は俺の予想とは裏腹に、俺に何をしてくる訳でもなく通り過ぎて行った。

 ──側近の男がこちらを見てニヤリと笑ったのは、勘違いだと思いたい。


「何だったんだ……?」


 嵐のように過ぎ去っていった馬車。その方向を見て、俺は頭上にはてなを浮かべる。


「まあいいか。ヴィナに本でも買ってから帰ろう」


 俺は少し、寄り道をした。

 ……してしまった。



  ◇  ◇  ◇  ◇



「ヴィ、ナ……?」


 コトン。

 俺の手からお土産として買ってきた本が零れ落ちる。


「ヴィナ! どこだ!?」


 俺の視界に映るのは、先程までの質素だが小綺麗な部屋ではない。

 戸棚は倒され、ベッドは乱れ、窓ガラスは割れている。

 明らかに、争った形跡がある。 


「クソがっ!」


 あいつ、やりやがった!

 今までは兵士を送り込んで来ていただけだったが、ここに来て強行手段を取りやがった。


「あっ……お客様……」


「……おい、ここに兵士が来たよな……?」


 ロビーに向かうと、受け付けの女性は申し訳なさそうに顔を伏せていた。


「すいません……“終わったら”、ビント様が──」


「“終わったら”だと!? ふざけるな!」


「ひっ!」


 ……チッ、ここでこいつに怒鳴っても何も変わらないか……。


 直にあの馬車を追うべきだ。だが、どこに居る?


 俺は『天の翼』と『フライ』を併用し、空へ舞い上がった。

 街の中心には、領主宅。そこから道が伸びて、外壁にほど近い場所にギルドはある。

 となると、あの馬車が向かって行った方向は──


「外、か」


 俺は、翼を広げ空を駆けた。

 夜のギルフォーに、白い光を放つ片翼の天使が現れたと、後々噂になったらしい──



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