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7話:それは、賑やかな未知の世界

初めて見る外──人の町と言うのは、とにかく目新しいものが沢山ある。大勢の人、見たこと無い物、色んな新しいそれらが、自分の眼前に広がっている。

フェレグスは、僕を機に気を使ってくれているのか、付かず離れずの距離を保って付いて来ているので、僕も離れすぎない様に注意しながら歩く。

途中、前を歩いていた人たちが横へと移動する──広くなった道の真ん中を移動してきたのは、四足の生き物を複数使って動く大きな箱だ。ぶつかると大変なので、僕も他の人達に倣って脇に逸れる。


「フェレグス、あれは何?」


「あれは、馬車といいます──馬と言う生き物を操り、人や荷物を乗せた車と言う部分を、遠くへと運ばせるものです。主に貴族と言う上流の階級に居る者達が使っております」

「へぇ~……でも、あれ凄い揺れてるよ? 大丈夫なの?」

「あれは、人ではなく荷を運ぶものですので、人のことは配慮しておりません。人を乗せるものも、そもそも馬車そのものが揺れに対応できていないので、尻が痛くなりますな」

「へぇ~……じゃあ、あれは何?」


 次に僕が指差したのは、一角にある豪奢な建物のてっぺんに飾られた鳥の様ような置物──不安定な足場に取り付けられ風に揺られて動いており、とても危なっかしい。


「あれは、風見鶏です。人間が、風の吹く方角を知るために生み出したものです」

「それって、何か意味あるの?」

「あくまでも、副次的なものですね。大本の意味としては、悪避けと言うのが強い意味外がありましょうな」

「悪避け?」

「邪悪なものを追い払うという事です」

「ふぅん……じゃあ、あれって魔道具なの?」

「いいえ、ただの飾り物です」

「じゃあ、意味なさそうだね」

「ラグナ様、お気持ちは分かりますが、あまり大声では言わないほうがいいですぞ?」

「そうなの? 分かった──」


今の言葉はどういうことなのだろうか? 後で聞いてみよう──


「それにしても、人って沢山いるんだね……僕もいつかあれくらい大きくなるのかな」


 指をさすと失礼なので視線を向ける。前から歩いて来た剣を携えたセタンタ位の身長の人が、仲間達と話しながら僕達とすれ違う。

「そうですね……人の寿命は大よそ百年ほどです。亜人種と比べれば成長は早いので、後十年もすれば、ラグナ様もあの者ほどになるでしょうな」

「良し──でも、セタンタの方が強そうだから、やっぱり、セタンタ位の大きさになりたいな」

「性格までは、どうか同じにならないでください」

「ならないよ。きっと…………多分……」

 

 セタンタの強さは、尊敬している。でも、あの自由過ぎる性格で、師匠が時々苦い顔をしているのを何度か見た事がある。師匠を困らせたくはない。だから、多分──あの性格にはならない様に努力はしている。それでも、絶対とは限らないけど──


「しかし、私もこの街には何度か足を運んでいますが、この街で冒険者を見るのは珍しいですね」

「冒険者? それって、さっきの人達の事?」

「はい、本来なら、魔物の生息域の近辺に拠点を構え、魔物の討伐や薬草採集・発見された神代の遺跡や魔物の巣窟の探索などの依頼をこなす事で生計を立てる者です。中には、それ等よりも戦争などで集計を立てる者もいます」

「……つまり、この街は、そういう冒険者って人達とは縁が無い場所って言う事?」

「皆無と言う訳ではございません。冒険者を統括する【ギルド】は基本的に安全な中央に存在しております。しかし、この街は、国と国の境では、魔物の災害などはありません」

「…………息抜き、とか?」

「まあ、そう考えるのが、妥当でしょうな……」


 冒険者──呼び方から考えると色んな所を旅する職業なのかな? そう考えると、何だか夢のある職業だな。将来は、色んなところに行ってみたいって思ってたし──でも、多分、フェレグスが許してくれうるかな。何だか、野蛮で駄目って言われそう。


「で、フェレグス──国と国の境って言ってたけど、僕はまだ、そう言うのに着いて詳しく教わってないよ?」


 フェレグスの座学は、基本的に字の読み書きと計算だった。一応塵に着いての勉強もあったけど、それは、遥か昔の──人間が台頭する前の、神代の話だ。一応、現在の地理に着いても覚えているが、国そのものが多すぎて、何処が何処かまでは分からない。


「私としたことが、失礼いたしました……ついでに、この人間の国の地理に着いてもご教授いたしましょう」

「ええ~、此処まで来て勉強は、僕も嫌だよ」

「勉強と呼ぶほどの内容ではありませんよ……まず、我々が暮らすクリード島は、主様の魔法によって外とは隔絶されており、今回の異門の様に魔法を使わなければ、出入りが出来ない事は今日、学びましたな?」

「……うん」


 そう言ってる割には、フェレグスの口調は完全に教師モードに入っている。こうなったら止まらないというのは、四歳の頃から勉強を見て貰っている僕は重々理解している。


「現在、大陸と呼ばれる者は、大まかに二つ──人間の中で見つかっています。一つは、今回の話しには無関係なので省略して、我々が今立っているこの大陸は、〈ケルデニア大陸〉と呼ばれております」

「うん、そこも習った……確か大陸は、魔境と呼ばれる巨大な森林地帯を境目に南側全体が人間達の暮らす領域だったよね」

「その通りでございます。そして、人間達は国境と言うものを作り、支配領域を確定しました。時には手を組み、時には争い、繁栄と衰退を行き来し続け、現在は東西にそれぞれ巨大な国家とそれに連なる国として、今の人間の国々が産まれました」

「だから、僕達が居るのは、その何処かの国の、その別の国との国境近くにある街って事であってる?」

「その通りです。我々が居るのは人間の領域の中央で国境を守る刻々。東の王国〈ロムルス王国〉に忠誠を誓う〈グリンブル公国〉になります」

「えっと……国が国に忠誠を誓っているの?」


 何だか変な話だな……人が人に忠誠を誓うのは分かる。でも、土地が土地に対して忠誠を誓うなんて変な話では無いのだろうか? そこに芽吹く命はとにかく──土地には医師は無いのだから。

 

「人間には、階級制度と呼ばれるものがあります。ざっくりと言いますと、平民・貴族・王族などの最上位に位置する身分の三段階があります。王国とは、王が支配する区になります。そして、公国は貴族の中でも最上の位にある家が支配する国になるのです」

「──ああ、成程ね。つまり、そのロムルス王国の王様と、このグリンブル公国を治める貴族の人は、主従関係って事なんだね」

「その通りでございます」


 肯定するフェレグスの笑顔。確かにフェレグスが喩えた通りだと、僕自身も納得する。


「じゃあ、その王国にある街は此処よりも大きくて、人も多いんだよね」

「はい──大半は、王都に暮らす市民や商売をしている者と、王家に仕える貴族達になります」

「さっき、フェレグスが此処に居るのは珍しいって言ってた冒険者は?」

「冒険者の場合は、王国より北側にある別の公国に多く在住しています──北部には、魔物達の生息域である<魔境>がありますからな」

「そうなんだ……」


 魔境か……確か、セタンタが生まれ育った場所があるんだよね。機会が合ったら、行ってみたいな。それに魔物が居るっているのなら、島の魔物とどっちが強いんだろう? 試してみたいな…………。


「ラグナ様、危ない事を考えましたな?」

「そんなことないよー」

「駄目ですぞ、私の一存で、ラグナ様をわざわざ危険な所に連れて行くことは出来ませんからな……」

「ちぇ~……」


 フェレグスにくぎを刺されてしまった。バレてしまったのなら仕方ない、諦めよう……今回だけだけど。


「一通り町並回ってみたけど、この後はどうするの? やっぱり、この国と主従にある王国に行くの?」

「いえ……主からは、此処から西、国境を越えてエイルヘリア神聖皇国へと入ります。ただし、道中は長いので、今日は、この街の宿屋に一泊しましょう」

「宿屋?」

「旅をする者や、諸々の事情で眠る場所が近くに居ないものが、お金と言うものを払って部屋を借りるお店の事です」

「成る程、分かった」


 歩き回って、色んなものを見ているうちにすっかり、陽が傾いてしまっていた。それだけ夢中になってた証拠だろう。

 そのまま、フェレグスと共に、宿屋と呼ばれる場所に入る。


「二人用の部屋を夕と朝の食事込みで一泊お願いします」

「では、銀貨が七枚になります」


 フェレグスがお姉さんと話をしているのを隣で見る。フェレグスが、何かを要求されて、小さな銀の塊をお姉さんに渡した。これが、お金と言うものなのだろうか?


(後で、フェレグスから教えて貰おう──これから向かうっていう、神聖皇国についても)



「ふぅ~……ご馳走様ぁ」

「国境近くの街となると人々の行き交いも多いですからな……食事も手抜きは、無かったので安心しました。ラグナ様のお口に合い何よりです」


 宿屋の人が用意してくれた食事を食べ終え、僕とフェレグスは一つの部屋で椅子に座り体を休める。 


 確か、パスタって言ってたっけ? 細くて長い物がお皿一杯に盛り付けられていて、その上に挽き肉と潰した野菜を混ぜて出来た、とろみのある液体が掛かっていた。

 どう食べればいいのか分からずに、フェレグスの食べ方を見様見真似してけど──あれは、美味しかった。

普段は、フェレグスが作ってくれるフワフワのパンや、パンに合わせたスープ、そしてサラダに肉を加工した料理と色んな料理が出て来るけど、あれは、一品だけで食べる料理だったのかな。

 確かに、そう考えると面白い食べ物だとは、思う。


「でも、フェレグスの作ってくれる料理の方がおいしいかな」

「それは…………勿体ないお言葉です」


 そう言って、顔を下げるフェレグス──耳が少し赤くなっていて、照れているのが分かる。でも、僕は純粋にそう思ったから、言ったまでで──嘘は言っていない。だから、訂正はしない。

 人気も無いし、今はフェレグスと僕しかいない──外もすっかり暗くなっているけど、それでも窓の外から見える、大人の人達の行き交いと、喧騒が聞こえて来る。


「ねえ、フェレグス──さっきのお金って、どうしても必要なものなの?」

「はい。人間の社会は、この貨幣と言うものを用いた交換で成り立っています」


 そう言って、見せてくれるのは、四つの金属の塊──それぞれが、銅・銀・金・白金で出来ている。


「価値としては、銅が最も低く、銀は銅の十倍の価値を、金が百倍、白金が千倍となっております。たいていの人間からすれば、金貨と白金貨は縁がありませんな」

「これに、やりとりの価値を決めさせているって言う事?」

「その通りです」

「……でも、これって、もしも金属性の魔法が扱える人だったら、金や白金を集めて量産したら、その、大変なんじゃないの?」

「ラグナ様の懸念は、尤もな事です──しかし、これらを良くご覧ください。どう思われますか?」

「うん……色んな、印? みたいなのがあって、ごちゃごちゃしている風に見える」

「このように貨幣として生み出されたこれには、一流の職人達が携わっております。幾ら腕の立つ魔法師でも、これら一枚一枚を魔法で生み出すには、膨大な魔素と労力が必要になります。おそらく、一枚できるまでもなく、集中力が切れるか、【魔力切れ】を起こして倒れるでしょう」

「うっ……魔力切れは嫌だなぁ」


 自分の体内から魔素が無くなって魔法が使えない状態を魔力切れと言う──この時は倦怠感に、頭痛まで起こって大変なのだ。魔法を身に付け始めた頃、調子に乗って使って、そうなった経験がある。あれは、もうごめんだ……。


「ラグナ様には、そうですな──銀貨を四枚と銅貨を十枚、渡しておきます。もしもの事もありますので」

「でも、僕はまだ、使った事が無いよ?」

「……大人が示した貨幣の枚数以上の貨幣を渡せば、高官は成立します。大丈夫です、余程、性根が腐っていなければ、大人も良からぬことはしません」

「ふぅ~ん……」


 とりあえず、渡された貨幣は懐の中にしまい込む──


「後は……そうだ。神聖皇国って所はどんな所だろう?」

「古い歴史のある、大国家です。ですが──」

「ですが?」

「…………いえ、今日はもう寝ましょうラグナ様」

「ええ! そんな、気になるよ」

「明日は、早くに出発しなくてはいけませんからな……それに、夜更かしをすると体の成長に悪影響を及ぼします。セタンタの様な背の高さは望めないかもしれませんぞ?」

「むぅ……分かったよ」


 そう言われたら、大人しく眠るしかないじゃないか……何を言い掛けたのか気になるけど、フェレグスが言わないのなら仕方ない。そう割り切って、ベッドの中にもぐる。


(……屋敷にある物より少し硬い)

「では、おやすみなさいませ、ラグナ様」

「うん、おやすみ、フェレグス…………」


 フェレグスが部屋の明かりを消す。窓の外から人々の声が聞こえるけど、それは些細なものだ。

 フェレグスが早々に隣のベッドで寝息を立てる中──ふと、懐にしまっていた師匠からの預かり物を取り出して見る。

赤ん坊の頃の僕をくるんでいた布。僕を生んだ本当の両親達への唯一の手掛かり──


「…………」


 本当の両親に会いたくて、会ってみたくて、師匠に無理を言った──試練も認めて貰えた。そこまでは良い。

 なのに、何でだろう?

今、凄く不思議だ。この布を見ても、触っても、匂いを嗅いだみても────何にも感じないのだから。


(……僕は本当に、両親に、会いたいのかな? もしそうだったのなら、僕は何の為に?)

 

 自分の中に、新しく出来たもやもやとした感覚……その正体が分からないまま、僕は眠りについた。


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