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6話:旅立ち

朝──ラグナは目が覚めると、寝巻きから早々に旅装束へと着替えている。

上着はお気に入りの黒いコートで、その下には白地のシャツを着込む。ダークヴラウンの長ズボンを穿き、その腰には兄弟子から渡された護身用の剣を差す。最後に長旅を考慮して、厚めに作られた革靴を履いて靴紐を縛る。


「ん~?」


そして、身鏡の前で改めて服や髪型に変なところが無いかを確認する。

この日は、ラグナがスカハサの試練を乗り越えて得た外出の日だ。


「──良し」


 準備は万端──ラグナは意気揚々と部屋を出る。扉を開けるとフェレグスが立っていた。


「おはようございます、ラグナ様」

「フェレグス──うん、おはよう」

「その格好は……なるほど、外出用のお召し物ですな」

「そうだよ。どうかな?」

「とても似合っております」

「ありがとう」


 フェレグスの言葉にラグナは、笑みを見せる。しかし、フェレグスはやや困ったような表情のまま微笑む。


「しかし、些か身支度をするのが早すぎませんかな?」


 まだ朝食も食べていない──それにも関わらずラグナは、いつでも外にいけるようなに身支度を整えてしまっている。フェレグスは、朝食の為ラグナの目覚めを起こしにきたのだが、当の本人は、既に目覚めている上に、今にも外に行こうとしている格好なので困惑してしまっていた。

 

「まずは朝食を食べましょう。剣やコートを外して食堂にて主達が待っておりますよ」

「あぁぁ……そうだったね。何だか気が早くなっちゃった」

「いえ、楽しみにしているという事は良く分かりましたからな」


 はにかんで笑うラグナはベッドの上にコートと剣を置くと、フェレグスと共に食堂へと向かった。


 朝食後──改めてラグナは、身支度を整えて玄関から外へと出る。外には、見送りの為にスカハサとセタンタが待っていた。


「あれ? フェレグスは?」

「何、直ぐにやってくるさ……」

「お待たせいたしました」


 ラグナが後ろを振り返る。普段の燕尾服ではなく、深緑のたび装束に身を包んだフェレグスがやってきた。いつもと全く違う服装のせいか、雰囲気も全く違って感じてしまい、ラグナは一瞬、誰だ──と思ってしまった。


「おうおう、一丁前な格好しやがって」

「どうかな、セタンタ?」

「ああ、はいはい、似合ってる似合ってる」

「適当だなぁ……」

「服なんざ、動きやすさと頑丈ささえあれば良いんだ。俺にそんなの聞いたって意味ねえぞ」

「そうかなあ……どうですか、師匠?」

「うむ、可愛いぞ」

「…………はあ」


 スカハサの言葉を聞いたラグナは、落胆したようにガクリと肩を落としてしまう。見ていたフェレグスもやれやれと言った表情で首を横に振る


「む? 何か変な事を言ったか?」

「師匠……僕、男なんです」

「ふむ、そうだな」

「男だったら、可愛いよりも、格好良いって呼ばれたかったです」

「ああ、成る程。それはすまぬな……格好良いぞラグナ」

「もう遅いですよ」


 不機嫌な表情でラグナは顔を背けてしまう。そんな様子にスカハサは苦笑いしてラグナを抱きしめる。


「な、なんですか?」

「いや……やはり、格好良いよりも可愛いなと思ってしまってな」

「また……そうやってからかう」

「からかってなどいないさ。お前はどんな事があっても、わしの可愛い弟子だ」

「…………」


 ラグナは、抱きしめられ、頭をなでられる──しかし、抵抗しようとは思わなかった。これから暫くはスカハサ達と会う事が出来ないからだ。自分もそれは寂しいと感じている。だから、暫くは自分も彼女の温もりを感じていよう。

 ラグナはそのまま、スカハサの好きなようにさせた。


……

…………

………………


「……おぉ~い、師匠~? ラグナァ~? 何時までやってるんですかねえ~?」


 どれ位時間が経っただろうか、呆れてみていたセタンタの言葉にスカハサは漸くラグナを解放した。


「なんだ、セタンタ? お前もやってほしいのか?」

「冗談。あのままだったら、何時までたってもラグナ達が旅立てねえじゃんか」

「流石にそこまでは………………せん、筈だ」

「自信持って言ってくださいよ」


 げんなりと肩を落とすセタンタ。ラグナはというとスカハサの温もりのせいか、頬を少し赤く染めている。そんなラグナの背中をセタンタは一度、叩いて正気に戻す。


「セタンタ」

「ラグナ、両親──見つけられるといいな。俺は、親とかはもう何処にも居ないから、テメェの心情全てを察する事は無理だ」

「…………」

「でもな。ここがお前の家だ……ちゃんと、帰って来いよ」

「……ああ、分かってるよ。まだ、セタンタに一本も取れてないんだからな」

「は! 抜かすぜ」


 拳と拳をぶつけて、二人は暫しの別れを告げる。


「では、始めるとするかな……」


 スカハサが前に出る。ラグナ達はその背中を見守る。

 彼女は手を前にかざし、魔法を行使する──膨大な魔法の予兆からか、空気が振動を始める。そしてスカハサの周囲に黒い靄が生じる。それは徐々に密度を濃くしていく。


「フェレグス、あれは何?」

「あれは、魔法における属性の頂点の一つ──闇属性魔法です」

「……あれが──」


 闇──属性において【原初】とも呼ばれ、【光】と対になる最強の属性だ。ラグナは、驚愕と好奇の眼差しでスカハサが操る闇魔法を見つめる。

 生まれた黒い靄は、スカハサの手の前で密集し、一つの塊となる。そして、その中心に、見たことも無い景色を映し出した。

 そこでスカハサは一息ついて、ラグナ達に振り返る。


「驚いたかラグナ。これは闇魔法──【次元開通ワームホール】と呼ばれる魔法だ。簡単に言えば、今目の前に広がる場所と別の場所をそのままつなげてしまう魔法だ」

「……」

「フッ、呆気にとられるのも無理は無いか」


スカハサとの魔法の学習の際、スカハサはラグナに、闇属性の素質がある事を話した。しかし、ラグナはこれまで一度も闇魔法について触れる機会は無かった。

 何故、スカハサは素質がありながらも、教えてくれなかったのかはラグナには分からない。だが、目の前に映る光景は凄まじいものだった。


「怖いか?」

「いえ、ただその…………凄いとしか、言葉が出てきません」

「だが、この魔法は──いや、それは、お前の見聞きで知らねばならないな。お前に渡しておく物がある」


 首を横に振り、スカハサは発想とした言葉を頭から消す。そして、ラグナに薄汚れた布を手渡した。

 ラグナはそれを広げる。汚れの具合からそれなりの年期の入った物だ。だが、撫でると手触りは良く、かなり上質な素材で作られた物だと言うのが分かる。そして、生地の隅には何か紋章のような物が編み込まれている。


「師匠──これは、なんですか?」

「森でお前を拾ったとき、お前のみを包んでいたお包みだ」


 それを聞き、ラグナは再び布を──物心つかない頃に自分を包んでいたお包みを見つめる。


「人間は、行為の立場にいる者達は、その家を表すために【家紋】という物を作るのだそうだが……お前を捨てた者達もそういう立場だったのだろうな」

「あの、どうしてこれを?」

「それがあれば、お前も探しやすいだろう? まぁ、お前がああ言わなければ、どこかで捨てていただろうがな」

「…………」


 ラグナは何も言わずに、それを懐の中にしまった。


「……何があるかはわしにも分からぬ。ただ、身体だけには、気をつけて行けよ」

「大丈夫ですよ、フェレグスもいますから」

「…………そうか、そうだな」


 スカハサの手がラグナの頬に添えられる。旅立ってしまう──戻ってくると分かっていても、それを見送るのは辛いものだ。それでも、スカハサはラグナに対して毅然とした面持ちを向ける。

 ラグナの手が、自身の頬を触れるスカハサの手に重なる。優しく温かい手だ──そして、暫くの間、この温もりを感じる事が出来ない事と思い出し、ラグナの心中に切ない感情が宿る。

 やがて、ラグナの手が離れ、次にスカハサの手が離れる


「うむ……行って来い、ラグナ」

「はい。行って来ます、師匠」


 スカハサに送り出され、ラグナは次元開通の中へと入る。その後をフェレグスが続く。


「フェレグス、ラグナを任せたぞ」

「御意」


 スカハサ達に一礼し、フェレグスは次元開通の中へと消えていった。二人を送り出すと、スカハサは魔法を消してしまう。


「行っちまいましたね」

「そうだな……さて、見守るとするかな」

「ハハッ、やっぱ心配なんだな」

「当然だろ。セタンタ、その片手間でお前もみっちり鍛え直してやる。覚悟して置け」

「ゲッ!?」




次元開通を抜けたラグナは、目の前の景色を改めて見渡す。

敷き詰められた石で作られた地面に建物──空は青いが建物のせいでじめじめとしている。


「えっと……此処は?」

「私が良く訪れる街の外れになります。異門は人目につく場所では使う事はできませんので──」

「……まあ、そうだよね」


 ラグナは始めてみた自身の反応を思い出し、しみじみと頷いた。


「ラグナ様、くれぐれも、くれぐれも、私の傍を離れませんように」

「分かってるよ、フェレグスも心配性だな」

「無論でございます。ラグナ様にもしものことがあれば、主様に申し訳が立ちませんからな……では、参りましょう。このような場所で老人と子供が歩いているのは、カモと勘違いされますからな」

「カモ?」


 フェレグスの言葉に首を傾げるが、それについて説明する事はなかった。

暗い道をフェレグスに先導されながら進んでいく──暫く歩いていくと、徐々に人の声が聞こえて来る。それも一人二人ではなく、何人も──何十人もいる声だ。そして、それは足を進める度に鮮明に聞こえてくる。


「うわぁ……」


 小道を抜け出したその先にあった光景に、ラグナは感激の声を挙げる。

人がいる──大勢の人がいる。大人から子供、老人から幼子まで大勢の人が居る。見たことが無い気色が広がっている。

 始めてみる大勢の人に、ラグナは眼を輝かせた。


「驚かれましたかな、ラグナ様」

「うん、凄いな……人って、こんなにたくさん居たんだ」

「人が多いので、はぐれない様に注意しながら参りましょう」

「大丈夫、分かってるって」


 そう言って進むラグナ───その足取りは、心の中にある楽しみを表すように軽やかだった。


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