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5話:失敗を乗り越え

試作品の失敗から、ラグナは直ぐに原因解明に乗り出した。再び、書斎に篭って何故ああなったかを本を漁って調べた。


 そしてラグナは、一つ原因に繋がる知識にぶつかる。


「加速度……」


 ラグナは、本の中に記された知識を呟いて、頭の中でシミュレートする。

単位時間当たりの速度の変化率。今回の場合は、魔道具の惹きつけ合う力がそれに値する。まず、魔道具の腕輪を【A】として、次に槍を【B】と定めるとしよう。

順を追って、振り返ろう──今回、改めて僕が目標として作り出したのは、【どんなに離れていても、手元に武器が戻って来る魔道具】だった。


 ラグナは、磁力を応用した魔法でそれを実現させた。質量の関係・発動条件などの様々な問題を解消した。しかし、その中で威力加減を見落としていたのだ。

 あの実践の中で、魔道具は確かに自分の理想の通りの効果は発動していた。

 だが、槍(B)が着地点からセタンタ(A)に戻る行程の中で、両者の間には強力な磁力による引力が出来上がった。それによって生じた爆発力は、槍を腕輪まで持って行くという条件を満たす為に、途方も無い威力へと変貌する。海水を突き抜けて、セタンタに目掛けて垂直に飛んで行く。

そして、此処でもう一つの原因になる──加速が加わる。AとBとの間に発生したパワーに加えて、Bの移動中に発生した加速度は、その距離に比例して増大した。

 その結果が──あの悲惨な結果だ。

もし、スカハサがあの時に障壁を張っていなかったら、槍の勢いはラグナ達に留まらず、屋敷に激突して粉々に吹き飛ばしていたかもしれない。


(とんでもない失敗作だな……)


ラグナは、身体を椅子に深く腰掛ける。天井を見上げたまま、深く長い溜め息を吐き出した。自分の中では、完璧な物を作り上げたと思い込んでいた。しかし、蓋を開けてさらに隅々まで中を探ってみれば、決定的な欠陥があったのだ。自身を打ち砕かれた──落ち込んで当然だ。

それでも、こうして失敗と受け止められているのは、三人からラグナに対する心遣いのおかげだった。ラグナは、目を瞑り──頬を二度叩いて身体を起こす。


 気を取り直して、ラグナは問題作の解決を考える。


(力を弱めるべきか? いやでも、どのくらい……ただでさえ、力が弱ければ、戻ってこないし、中途半端だと逆にこちら側が引っ張られる可能性もある。それに、複雑な式を組み込むとなれば直ぐにかれてしまうのではないか? でも、それで根本的に解決するのかな……もっと、他にいい考えが、ある筈だ──────どんな?)


 考える。頭を回転させ、時に腕を組み、時に目を瞑り──そして、考える。しかし、答えは出てない。やがて再び溜め息を吐いて再び深く腰掛けた。

 

(無いのかもしれない……そうすれば、どうする?)


 師匠──スカハサから与えられた試練の期限は、おおよそ半分を切っている。新しい案を考えるにしても、その案が湯水のように頭から湧いてくる訳ではない。しかし、この機会を逃せば、自分の望みをかなえる機会は二度と訪れないかもしれない。


 諦めない為にも、ラグナは再び考える──唸り声を出すラグナの耳に扉を叩く音が聞こえた。


「どうぞ」

「失礼いたします」


 その言葉の後に入ってきたのは、フェレグスだった。


「フェレグス、どうかしたの?」

「いえ、ラグナ様の心の癒しになればと思い、ハーブティーとお茶菓子をお持ちしました」

「ホント? 助かるな……ありがと」


 フェレグスが、台車と共に部屋の中に入って来る。ラグナの傍らで素早く丁寧に淹れる。そして、淹れたてのハーブティーと、クッキーをラグナの前に差し出した。


「どうぞ」

「いただきます」


 ラグナは、そう言って直ぐにカップに口をつける。味わうようにゆっくりと飲み、カップから口を離して小さくと息をこぼした。


「落ち着きましたかな?」

「うん。少しスッキリしたかもしれない」

「茶葉をいくつか混ぜ合わせてみました。お口に合いなによりです」

「そうなのか……でも、やっぱり美味しいな」


 そう言って、ラグナはもう一度カップに口を付ける。ラグナの脳裏に蘇るのは、こうしてお茶を飲むようになった時の過去だった。

ティータイムを取るようになったのは、スカハサの真似事が発端だった。その真似は、フェレグスの作る食べ物の美味しさに合わさって、真似事から習慣へと変化した事を思い出す。


(思い返すと──僕はいつも三人の影響を受けてたな)


 スカハサの影響を受けて、セタンタの影響を受けて、フェレグスの影響を受けて──決して、厳しい日常だが、決して不自由の無い生活だとラグナは、改めて感じ入る。それは、ラグナの心への活力となった。


「……良しッ、もう一回考えてみよう」

「ご健闘をお祈りします」

「ううん、フェレグスのお茶のおかげだよ。ありがとう」


 フェレグスは、微笑み。一礼して去って行った。それを見届けて、ラグナは再び、一から魔道具の構造を考える。


(まず、どうするかだな……)


 武器としての魔道具──その大本は変わらない。だが、どういった武器を作るかが肝になる。ハーブティーを飲み干し、クッキーを食べたラグナは、再び考える。

 

改めて、作った魔道具について、ラグナは振り返る。

 作ろうとした武器は【投げても手元に戻ってくる武器】だった。槍を始め、武器には、投げて使う物が複数ある。武器を投げても、それが戻ってくるのなら継続して戦えるのではないか? ラグナはそう考えて、この一対の魔道具(試作品)を生み出した。


(だけど、これは手元に引き戻す為の力が必要になる)


 武器そのものの重量を持ち上げる力と、いかなる距離からでも戻ってくる為の力──それらが合わさった瞬間、前日のあのとんでもない失敗に繋がってしまったわけだ。


(なら、強力な飛び道具を作るのはどうだろうか?)


 ラグナは、改めてそう考える。飛び道具前提とすればいけるかもしれない。ラグナは直ぐに形状を考える。しかし、直ぐに思い悩んだ。


(飛び道具にしても弓矢じゃ、魔道具らしさがない。それに取り回しが難しい……もっと、形容をコンパクトに出来ないか?)


 普段使っている飛び道具である弓矢を思い浮かべて、これではないとラグナは考える。そうして考えて──。


(……そもそも、形に拘るのが駄目なんじゃないのか?)


 ラグナはそこに至り、試作品を思い出す。槍の矛先を模した魔道具。投げる武器=槍と思い浮かべていた節がラグナにはあった。

 なら、いっそ新しい形を考えてみよう。弓矢より手軽な形状で、強力な武器としての魔道具──ラグナは再び、自室に製作に取り掛かった。



 それから二週間後──つまり、スカハサが定めた期日の数日前にラグナは、新たな魔道具を彼女の元に持参した。

スカハサの部屋で、弟子と師が対面する──ラグナの目には自信が宿っていた。


「では、見せてみろ」

「はい。これが、僕が作った魔道具です」


 ラグナは、机の上に、魔道具を置いた──金属で出来た黒光りのそれは、窓から射す日の光を反射する。


「これは…………」


 それは、決して大きな物ではない。片手に持つ事を前提にしている。だが、用いた部品は多い──だが、仕組みは単純なものだ。

 スカハサは手に持ち、観察し、仕組みを動かし──ラグナに問いかける。古今、今までの武器とは違う形状をしている。奇妙な形だと──スカハサは感じていた。

 それは──小さな【(かぎ)】の様に見える。 しかし、引っ掛けるフックは、存在しない。そして、曲がり具合もどちらかといえば、湾曲したものではなく、直角の様に曲がっていた。特に複雑な構造をしているのは、真ん中と、鉤の短い部分だ──部品が多く入っているのか、その部分は、全体的に大きく太い。長い部分は、細く筒状になっていた。


「…………」


 スカハサは、全体の感触を味わった後──持ち方を試してみる。最初に長い部分を持った。だが、しっくり来ない。直ぐに別の持ち方を模索する。そして、短い部分を持ち、長い部分が前方へと向く事で、持ち方がしっくり来ることが分かった。

そして、人差し指がかぎの付け根から生えた、部品に掛かる事で、この魔道具の正しい持ち方がこれであると解釈した。最後に、スカハサは人差し指でその部品を動かした。


 カチンッ────小さな、金属の音が静かな部屋に響いた。

 スカハサの視線が、魔道具から、ラグナへと移る。


「…………ラグナ、これは何だ?」

「魔石を武器として、扱う魔道具──僕はこれを【銃】と名付けました」

「銃──見たところ、魔石は組み込まれていないようだが、中に仕組まれているのか?」

「いえ、これ単体には魔石は取り付けては、ありません」

「では、どのように使う?」

「まずは、銃の中央を開き、専用の弾を装填します」

 

ラグナはスカハサに対し、実演を通じて、説明する。

鍵を外すと銃の中央が動き、中が露出する。

ラグナは、ポケットから【弾】と証した物体を取り出した。

それは、魔石のはめ込まれた小さな物体。スカハサの中では、自分が持つ口紅に似ていると思った。ラグナはそれを、魔道具の中に装填して、ラグナは銃を元の形状に戻した。


「弾は、魔石を用いて作ってあります──僕が付与したのは【衝撃を受けると魔法が発動する】というものです」

「………なるほどな」


 スカハサは、この魔道具がどういうものかを理解した。


「お前が作ったのは、【簡略化させた魔法を放つ魔道具】と言う事だな」

「はい。僕はこれを【魔導銃】と名付けました」

「……本当に、とんでもない物を作ったな」


 呆れたように、感心したように、スカハサはそう零した。

 スカハサは、ラグナが諦めるか、挫折すると思っていたし、そう望んでいた……しかし、そんな思いを押し退けて、ラグナは自らの腕で失敗を乗り越えて新たな魔道具を、生み出した。


「だが、これは本当に使えるのか?」

「使えます」

「随分な自信だな……よかろう。見せてみろ」

「はい」


 スカハサとラグナは、中庭へと出る。前回と同じく、そこではセタンタが待っていて、屋敷の中からフェレグスがこっそりと様子を見守っていた。


「今度は失敗作じゃねえだろうな?」

「大丈夫だよ、何度も試した」


 セタンタの言葉に、ラグナは笑って返す。その様子に、セタンタも笑みを浮かべ、魔道具を受け取ろうとする。しかし、ラグナは首を横に振る。


「今は自分専用として作ったのしかないんだ。だから、今回は僕がやるよ」

「……そうか、ならお手並み、拝見させてもらうぜ?」

「まあ見ててよ」


 ラグナが前に出る。セタンタとスカハサはそれを後ろから見守る。ラグナの前方には、幼い頃に訓練用にとセタンタが打ち込んだ木偶人形があった。それに向けて、ラグナは魔導銃を両手で持ち構える。


「……始めよ」


 スカハサの言葉と同時に、ラグナは引き金を引いた。反動がラグナの両腕に伝わり上へと持ち上げる。銃口からは、炎弾が放たれ、木偶人形にあたり、右腕にあたる部分を破壊した。


「へえ……」

「……」


 それを見守るセタンタからは関心したような声を挙げる。スカハサは、眼を細めてそれを見守る。


「ッ……」


 よろけた体勢を整えて、ラグナは再び魔導銃を構えて引き金を引いた。再び炎弾が放たれ、木偶人形に直撃する。引き金を引くたびに炎弾が放たれ、木偶人形にぶつかる──或いは、横を掠めて背後の壁に激突する。

 やがて、ラグナが引き金を引いても、カチンッカチンッと言う音しかならなくなる。ラグナは直ぐにポケットに入れていた弾を取り出して魔導銃の中身を交換する。そして、再び引き金を引くと今度は飛礫の弾が銃口から飛び出した。


「良い」


 そこで、スカハサが静止の言葉を告げる。緊張からか何時の間にか、ラグナの呼吸は乱れており、肩を上下させていた。そんなラグナの様子を見て、スカハサは空を見上げる。


 やがて、諦めたように溜め息を吐くと再びラグナに視線を移した。


「ラグナ──見事だ」

「……、ありがとう、ございます」


 ラグナの耳に入った言葉は短い物だったが、それはラグナが欲しかった言葉だった。


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