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4話:魔道具製作

※話しの内容としては元々あった4話と5話を合体させました。

魔道具を作ってみよ。

 スカハサからの試練を受けて一週間が経過していた。


ラグナは、始めの四日間を使って書斎に引きこもった。魔道具に関する知識を得る為に端から書物を読み漁った。本に記された魔道具に関する歴史を読み、どのような魔道具があったのか? どのように使われていたのか? それらを頭に叩き込み、魔道具の基礎を脳に刻み付けた。


知識を得る中でラグナが知り驚いたのは、魔道具と魔石の関係性だった。

魔道具の仕組みとして、魔石には付与によって魔法が組み込まれる。魔道具の形は、魔石に付与した魔法に合わせて安全と効率のよさを追求した物に過ぎないと言う事だった。


驚くべき事も知ったが、ラグナの知的好奇心は止まらない。

ラグナはさらに、一日を使って魔道具そのものを借り受け解明した知識として基礎を覚えた。ラグナは、次に身体に基礎を身に付ける為に魔道具を解体する事にした。

スカハサから譲り受けた魔道具──最初に【見た魔石を光源とする魔道具】を解体したラグナは、分解と組み立てを繰り返し行った。


最後の三日間──ラグナは部屋に篭って、魔道具の模倣品を造りだした。魔道具は殆どが勤続できている。金属に干渉する為に上位属性魔法である【金属性】の魔法を行使し、金属を生み出し、形状を操る事で再現した。


こうして一週間──ラグナは魔道具に関する知識と技量を心身に叩き込んだ。


「さてと──」


 準備は万端──そう判断したラグナは、いよいよ本格的な魔道具の製作に取り掛かろうとする。

 ラグナのテーブルには、魔道具の模倣品が置かれている。部品一つ一つの形状を忠実に再現したので、本物同様の性能を持っている。

 

この魔道具を作るのに三日──費やした時間をラグナは恐ろしく長く感じた。

 その理由としては、魔道具は部品の形と大きさに僅かな齟齬があるだけで、稼動しないということだ。複数の細かなパーツが噛み合い連動して動く魔道具の構造は、一つでも欠陥があればそこから全体に問題が及んでしまう。


(食事と鍛錬以外の時間以外、この魔道具の模倣と向き合う日々だった──)


ラグナは、三日前の事なのに酷く懐かしく感じた。苦心して作り上げた魔道具を手に取りながら少しだけ微笑む。


(ただ、これはあくまでも真似した物だ……)


 しかし、ラグナは一変して睨むような眼差しを模倣品に向ける。彼の脳裏の過ぎるのは『魔道具を作れ』という師匠の言葉だ。


(確かに作ったと言えば作ったと言えるけど……真似たというのが正しいよな)


 あくまでも、目の前にあるものを練習と割り切り、ラグナは改めてどんな魔道具を作るか考える。

 ラグナは【何かを真似る】【何かを再現する】ではなく、【新しい何かを作る】事に執着していた。無謀ともいえるが、師匠達に認めてもらいたいという感情の方が大きい──ラグナは、もう一度書斎に向かい、どのような魔道具を元に新たな物を作るか考える。


「……これだ」


 そして、ラグナは一つの結論に至る。それは、古い時代の魔道具に関する書物──そこに記されているのは、兵器として存在した魔道具の存在についてだ。

 自分が産まれるずっと昔の時代では、人間と亜人種が激しく争った時代があるという。その中で生まれた戦う道具としての魔道具のあり方は、現代へと進むに連れて姿を消し、生活を豊かにする為の魔道具が台頭して行く。


 無論、ラグナは兵器などと言う仰々しい物を作るつもりは無い。あくまでも作るのは、便利な道具としての範疇を超えない魔道具。武器を作ろうと考えた。

 次にどのような武器を作るか? ラグナは考える。そして日頃のセタンタとの鍛錬を思い出して、それに適した物を作る事に決める。


(仕組みも知識も作り方も理解した。大丈夫だ、やれる)


 自分にそう言い聞かせ、ラグナは魔道具の製作に乗り出した。その様子をスカハサは、フェレグスを介して見守った。


 それから二週間後──ラグナは、ついに一つの魔道具を作り上げた。


「何とも、奇妙な形だな」


 ラグナが作ったと言う試作品を受け取ったスカハサの感想は、この一言だった。

 それは、贅沢にも魔石を二つ使った魔道具──と武器だった。片方は腕輪の形状をしており、もう片方は槍の刃でその中に魔石が嵌められている。


「それで、これはどういう魔道具なんだ?」

「はい。武器としての魔道具を作ってみました」

「ほぉ……どのような武器だ?」

「はい。刀身に嵌め込まれた魔石は、腕輪の魔石と共鳴して自動でこちらに飛んで戻ってくるという仕組みです」

「……【成る程手放しても持ち主の手元に戻ってくる武器】と言うことだな」


 スカハサの結論にラグナは首肯した。

 ラグナが作り出した魔道具は、雷属性の魔法【磁力】を応用した魔道具だ。

雷の本質である電気の流れから生じる、【S極】と【N極】の互いに引かれ合う関係を利用している

 腕輪に生じるのがS極ならば、刀身に生じるのはN極──双方に強力な磁場を発生させる事で、武器が手元に自動で戻ってくるという仕組みだ。


「雷を付与するとは、また思い切った事をするな」

「作るうえでほかの属性も試してみたのですが、雷属性が最も効率が良かったので──」

「確かに──しかし、随分と苦労した物だな」


 にやりと笑い、ラグナを見下ろすスカハサ。それに対してラグナは気恥ずかしさから目を逸らす──そんならラグナの手や顔には僅かながら手当ての跡がある。

 製作中、ラグナは二つほど大きな失敗を犯していた。


 一つ目、二つの魔道具に魔法を付与した際──ラグナは【互いの距離が一定離れると発動する】ように付与した。しかし、その距離が一定とあやふやだった為に、付与が完了した瞬間に魔法が発動した。結果、魔石同士が勢い良くぶつかり、粉々に砕け散った。

 ついでに、その際に発生した磁力が、周囲の貴金属製品を引き付けて、周囲の物体が飛んでくると言う緊急事態を引き起こした。

 

 二つ目は、ラグナが実験のために自らに装着したときに起きた。きちんと稼動するかを試す為に魔石を手身近なものにくくりつける事で、実証する。

それも順調にこなして行った。だが、その中で、事故がおきた。部屋にあるもので、一番大きなもの──ラグナが使うベッドに装着して、試みた。ラグナとベッドの質量では、ベッドの方が圧倒的に上だった。

結果、逆に僕が魔道具に引っ張られる形でベッドの側面に、ラグナは、顔や手足を勢い良く激突させる。それが、ラグナが手足に絆創膏を貼る理由だ。


苦難はあった。しかし、ラグナはそれに見合った作品を作り出したと自負している。そんな眼差しでスカハサを見つめた。


「では、実際に見せてもらおうか」

「はい、師匠──」


 外に出たラグナ達──ラグナの作品を見届けようと、フェレグスも、窓からその様子を見ていた。


「ごめんセタンタ、お待たせ」

「かまわねえよ……で? 何で俺を呼び出したんだ?」


 先に外で待っていたセタンタが怪訝な表情でラグナを見下ろす。ラグナは、セタンタに魔道具の刀身を取り付けた槍を手渡して事の詳細を話した。


「なるほど……それで、俺にコイツを投げろってか?」

「そういうこと」

「何だよ、思ったのと地味な作業だな……まあ良いか。んじゃ、行くぜ!」


 セタンタは腕輪を取り付けて、くるくると槍を回転させてから構える。そして──


「うおりゃあああ!!」


 気合いの掛け声と共にセタンタは、海の方に目掛けて槍を全力で投げた。槍は、太陽目掛けて飛んで行く。ラグナ達がギリギリ目で捉えることが出来る距離まで飛び、やがて限界まで達すると、そのまま下へと落ちて行き海に着水した。


「……」

「…………」

「………………」


 三人は言葉を発さずに、経過を見守る。窓から様子を見るセタンタも、微動だにしない。


「……何にも起き無いな」


 やがて、セタンタは、槍が落ちた方角を眺めながら呟く。スカハサは、隣にいるラグナに顔を向け、ラグナは首を傾げる。


「どうするのだ、ラグナ?」

「えっと…………あ、そうだ。セタンタ、腕輪の魔石に一度触れてくれるかい?」

「あ? 何でだ?」

「それが魔道具の発動条件だから」

「成る程な、んじゃ早速──」


 ラグナは最初に生じた問題を解決する為に、魔道具の発動条件を距離が離れるのではなく、魔石に触れる事を条件にした。それを思い出したラグナの指示に従い、セタンタは魔石に手を伸ばす。


「むっ、いかんな……」

「え?」


 スカハサが呟いたのは、セタンタが魔石に触れた瞬間だった。 直後、はるか彼方にて水柱が上がった。そして、セタンタ目掛けて何かが飛来する。

 ラグナは驚き、セタンタは身構え、スカハサは二人の前に出て魔法を使う。


 次の瞬間、飛来した何かは、スカハサが生み出した障壁に激突し、粉々に砕け散った。


「なッ、あ……」

「何だぁ今の……」


 上手く声を出す事ができないラグナと驚くセタンタはスカハサの前に出る。砕けた破片を見て、それが鉄辺や木片である事を理解し、やがて二人は自分達に襲い掛かったのが、槍だった事を知る。


「な、何で……」


 驚愕と落胆が交じり合った声がラグナの口から零れる。自分自身は反応できず、スカハサ達は反応した。もしもスカハサが、自分達を守らなかったら間違いなく死んでいたという事実が、ラグナの肩にのしかかる。


「……ラグナ」


 スカハサの声にラグナの方が跳ねる。怒られても仕方ないことをした……ラグナは、試練の失敗を受け入れる覚悟をした。頭を垂れ、目を瞑るラグナ──


 しかし、スカハサはそんなラグナの頭を優しくなでた。


「ッ、師匠──何で」

「誰にだって失敗はある。まだ試練は終わってないんだ……これを、ばねに続けてみろ」


 それだけ言い残すと、スカハサは屋敷の中に戻ってしまう。


「いやあ、焦った焦った」


 呆然とスカハサの背中を見送ったラグナの後ろから、セタンタが背中を叩く。


「セタンタ、僕は……」

「あ? 何、辛気臭い顔してんだ?」

「でも、あれは下手すれば死ぬかもしれなかった……」

「生きてるんだから良いんだよ。まあ、自分の得物に殺されるなんて、武に生きる者としては死んでも死に切れない話かもしれないけどな」


 そういってカラカラと笑うセタンタは、そのままバシバシとラグナの背中を叩きt付ける。


「師匠が言ってたろ? 失敗は誰にだってある。そこから学んで、今度は成功品作れよ」


 最後にラグナの頭を乱暴に撫でると、セタンタも屋敷の中に戻っていく。ラグナは窓を見た。フェレグスは微笑んで一度頷くと奥へと消えていった。


「……ッ!」


 ラグナは俯いて涙を流した。

悔しさもある。惨めさや情けなさもあるが……何よりも三人の温かさがラグナの心にしみた。



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