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1話:学びの日々

【クリード島】は、四方を海と、スカハサの力によって生み出された霧によって囲まれた、絶海の孤島だ。当然、霧を生み出した張本人である彼女の許しが無ければ、出る事も入る事もできない。


 この島の大半は、魔物達が生息する森で占められており、森には、大人しいものから、凶暴なものまで、様々な魔物が生息している。

そして、その森を抜けたから東側に存在する、海に面した崖の上に、スカハサの屋敷が建てられていた。その屋敷でスカハサは、一人の従者と二人の弟子と共に、静かに暮らしている。


 そして、スカハサの書斎に、彼女の末弟子であるラグナが入り浸るようになったのは、彼が六歳からだった。様々な書物が保管されたその巨大な一室で、ラグナは一人、山のように積んだ書物のひとつを読み耽る。


「………………」


黙々と本のページを捲るラグナ。難解な文字を、一つ一つ丁寧に、目で追いかける。

最初に、ラグナが本を読む切っ掛けになったのは、ラグナが三歳の頃まで、スカハサが彼を寝かしつける為に読んでいた、おとぎ話がきっかけだった。

強力な魔物を知恵と勇気をもって倒す英雄譚──当時のラグナにとっては、心を躍らせるものだった。

だが、今のラグナにとって、そんな絵空事の物語よりも、現実で役に立つ、魔法に関する知識が記された、魔法書の方が役に立った。


魔法とは──遥か昔、人間が生み出した、大気中を漂う【魔素】と呼ばれる粒子を駆使する事で、自然現象を操る神秘の術だ。そして、魔法についての知識が記されたものを総じて、魔法書と呼ばれている。


『良いかラグナ。魔法と言うのは便利だが、万能ではない──使える身体、それを理解する知識、それを扱う技術をしっかり磨くことを忘れるな』

「やっぱり、この三つが、魔法で重要なんだな」


 魔法書に記された基礎の部分を読みながら、ラグナは、師匠であるスカハサの言葉を思い出す。

魔法は、呼吸によって体内に取り込んだ魔素を、一斉に放出する事で、発動する。

そして、それには、三つの要素が必要になる。

魔素を魔法と言う現象にまで持ち込む知識──即ち、【技術】。

魔素を溜め込み、魔素を魔素の放出に対して必要な肉体──即ち、【体力】。

そして、発動させた魔法を制御し、安定させる力──即ち【精神力】。


無論、ラグナは師匠の言葉を、疑っていたわけではない。ただ、自ら、勉学に励む事で、より早く、より高みに上りたいという一心で、彼は地道に努力を重ねる。魔法書を読み終え、天井を見上げるラグナの心にあるのは、それだけだ。


「……本ばかり読んでいても、魔法そのものは上手くはならないか」


 呟くラグナは、スカハサから教わった魔法の練習をする。

 掌に生み出した火の玉を操り、机に飾られた蝋燭台の蝋に火を灯して火の玉を消す。

次に用意していた器の上に、手をかざす。空中に生み出した水球を器に落とす。

手を薙ぐとそこから風が生まれて蝋燭の火を消す。

人差し指を窓際に置かれた鉢に向ける。すると中の土から飛礫が生まれて浮き上がる。。

 

それを何度も繰り返して──最後に器一杯分の水を作り、それを飲み干して、練習を終える。


「ふぅ……師匠との授業の時間の方が、身に付くものは多いな」


 休憩しながら、ラグナは天井を見上げる。


 ラグナに物心と言うものが着いたのは、彼が三歳の頃からだった。当時の彼は、その歳には非常に珍しく静かで大人しく、スカハサ達の背中を、邪魔にならない様に少し遠くから見つめる子供だった。だが、スカハサは、そんなラグナの眼に宿る強い好奇心を見抜いていた。だから、彼女はラグナに対し、早い段階で【教育】を始める事にした。

三歳のラグナには、フェレグスによる教育が行われた。最初は文字の読み書き、次に、足し算と引き算による、簡単な計算……。幼いラグナにとっては、新しいを知る勉学は、楽しいものだった。

そしてスカハサが、ラグナに魔法を教え始めたのは、彼が四歳になった頃だった。未知なる力、不思議な力──四歳だった当時、スカハサがラグナに見せた派手な魔法は、幼い彼の心を鷲掴みにした。

 

『師匠の様な、凄い魔法の使い手になる』

 

 純粋無垢な少年が、親代わりである彼女の強大な力に憧れるのは、当然の理だった。

 ラグナにとって、スカハサは厳しい人であり、それ以上に優しい人だ。魔法の勉強は、実践を中心にしている為、鍛錬そのものは激しいものになる。それでも、ラグナは憧れを胸に彼女の教えを、忠実に守りながら鍛錬を積み続けた。そして、それは今も続いている。

 瞑目し、再び目を開けたラグナは自分の掌へと視線を移す。


「……」


 掌に電流が生じる。それはやがて掌全体を駆け巡り、激しい音と共に紫色の輝きが彼を照らす。【紫電(ライトニング)】と呼ばれる上位の魔法がラグナの掌に宿る。手の上の雷光が弱くならない様に──かといって自身の範疇を超えて暴走しないよう制御する。


ラグナは、書物とスカハサから教わった知識を思い出す。魔法には、大まかに二通り存在する。

 一つは、魔素を体に馴染ませることで、身体能力を向上させる【強化魔法】。

そして、もう一つが、魔法と言う概念の半分以上を占める【属性魔法】。またの名は。【攻撃魔法】と呼ばれている魔法概念だ。

 【火・水・土・風】を基盤とした四つの属性から始まり、その上位に位置する属性として、【爆・凍・鋼・雷】が存在する。当然、上位の属性魔法の使用には、体内の魔素を多く消費し、上記の三つの要素もより高度なものを身につけておかなくてはいけない。

スカハサの鍛錬と、ラグナの学習──そして努力の末に、彼が体得し、今のラグナが使える魔法の中で、一番のものがこれだった。

 

「……、……」


 ラグナの手から雷光が消える。そして表情は、苦々しいものだった。

 努力を重ね──この魔法を身に付けたのは、他ならぬラグナ自身の手によるものだ。だが、ラグナが目標とするスカハサの魔法には、足元にも及ばない。

 スカハサが、ラグナに魔法を教える際、魔法とはどのようなものなのかを見せる時に使った魔法──青空に暗雲生み出し、そこから大海に向けて巨大な雷を落としたあの光景を、ラグナは覚えている。


「全然駄目だな、僕は……」


 自分が目指している場所と、今の自分がいる場所──理想と現実には、果てしない差があった。どんなに頑張っても、どんなに成果を上げて、師匠に褒められても、その差が縮まったなどと、ラグナは思えなかった。

 

「何がいけないんだ?」


何が足りないんだ? 自身と理想の間にある差を埋めようとするが、考えても考えても、ラグナは答えを見出すことが出来ずにいた。

自分の不甲斐なさに怒りがこみ上げ、開いていた手を強く握りしめ、噛みしめた奥歯から、歯ぎしりの音が鳴った。


 そんなラグナの背後に居る人物はニヤリと笑い、ラグナへと手を伸ばす。


「ッ──!」


 ラグナが気付いた時には、遅かった。振り返った彼の眼前まで迫る黒い影。男の手が迫り、ラグナの頭に乗る。


「なぁに、考えてんだよ、ラグナ……『周囲に気を配れ』って、言ってんだろうが」

「何だよ、セタンタ……」


 【セタンタ】──そう呼ばれた若い男の手を、ラグナは少し乱暴に払いのける。払われた手をひらひらと動かしながら、セタンタは肩を竦める。


「ここは、セタンタが大っ嫌いな、勉強をするところだよ?」

「ハッハッハ! 哀愁漂わせてる弟弟子の様子を見に来たんだよ」


 不機嫌なラグナに対して、からかうように、愉快に笑った。

 黒の中に紫が混じったスカハサの髪とは違い、セタンタの髪は黒一色で短く跳ねた短髪。そして、その髪からは、真っすぐに、そして尖った様な狼の耳が生えていた。

セタンタは、人間であるラグナと違い、【亜人種】と呼ばれる稀有な存在だった。亜人種とは、人間と酷似した人型の生き物の総称であり、彼はその中で、高い身体能力と、優れた嗅覚と聴覚を兼ね備えた、【獣人種(ワービースト)】と呼ばれる種族だった。

人間と亜人種には、種族的な確執があるが、ラグナとセタンタは、普段なら兄弟のように仲の良い間柄だ。


「で? 何考えてたんだ?」

「セタンタには、関係ないよ」

「んな事はないだろ、俺は一応、お前の兄貴分なんだぜ? 言えば、楽になるかもしれないぜ?」

「…………言って、楽になれたら、苦労なんてしないよ」


 ラグナは、セタンタには聞こえない様に、小さな声でそう返した。セタンタの耳が小さく動き、彼は苦笑いを浮かべ、肩を竦めた。


「ま、良いや。実はな、ラグナ。お前の悩みを聞きに来ただけじゃねえんだ」

「じゃあ、何?」

「明日お前、フェレグスと講義だったよな? あれ、中止になった」

「……何で?」

「師匠の指示だ。代わりに、俺との摸擬戦になる……準備しとけよ?」

「何でいきなり」

「さあてな……とにかく、伝えたぜ。俺には、このかび臭い匂いはキツイんでな」

「あ、ちょっ……セタンタ!」


 ラグナの言葉を無視して、セタンタはさっさと書斎を出て行ってしまった。取り残されたラグナは、扉の音を聞いて、溜め息を吐きながら、椅子に座る。


「師匠、何でいきなり……」


 この場に居ないスカハサから、答えが返って来る筈などない──それを理解しながら、ラグナの口からは困惑の声が零れる。

 外を見ると、空はほんのりと橙を帯びていた。


********


 翌日──ラグナは、動きやすい服の上に、革鎧を着こんだ状態で、中庭に出る。


「お? 来やがったな」


 先に来ていたセタンタは、昨日と同じ服に加えて、手首や腰には重しを付けている。年齢差と体格差のある両者の間に設けられたハンデだ。その手には、普通の大きさと子供用の木剣が握られている。当然、子供用はラグナの物で、ラグナはそれを投げ渡される。


「……セタンタは、師匠が何を考えているのか知ってるの?」

「俺が知る訳ねえだろ。ただ、俺も、お前が何時までもそんな顔してるのは、見てられねえからな。師匠の言葉に乗っただけだ」

「そう……」


 ラグナが木剣を構えると、セタンタはニヤリと笑い、剣先をラグナに向ける。


「来な」


 その言葉と同時に、ラグナは地面を蹴る。直線にではなく、ジグザグに動きながら距離を詰める事で、セタンタをけん制する。


「甘ぇ!」


 だが、その動きは、セタンタに対して、特に効果を発揮することは無かった。ラグナが繰り出した一撃を、難なく防ぐセタンタ。そのまま、片手でラグナの一撃を押し返す。


「ッ!」

「その動きは、誰が教えたんだ?」

「…………」


 ラグナの目つきが鋭くなる。セタンタは兄弟子であると同時に、ラグナにとっては武術の師でもある。ラグナにとってあこがれの一人でもあるが──同時にスカハサと同じく、いくら努力を重ねても遠く及ばない存在の一人だ。


「どうした。これは摸擬とは言っても戦いだぜ? 相手は待ってはくれねえ──ぞ!」


 今度は、セタンタが動く。ラグナと同じ、そして段違いに速い動きがラグナをかく乱させる。残像すら残す程の速さでセタンタはラグナに肉薄し、背後へと回り込む。


「くッ!」


 殺気に反応して、ギリギリでラグナは、防御に間に合う。しかし、重い一撃が剣に撃ち込まれたラグナの身体は、後ろへと下がる。

 苦しげな表情を浮かべ──次に歯を食い縛り、後ろへ下がり掛けた足を踏ん張り、前へと出る。


「おお?」


 おどけた声を上げ、そして、向かってくる弟弟子に不敵な笑みを見せるセタンタ。そんな彼に対して、ラグナは剣を構え──蹴りを放つ。腹、正確には脇腹への蹴りは、セタンタの腕が入り込むことで防がれる。


「得物だけじゃなくて、身体も使う。分かって来たみたいじゃねえか、ラグナ」


 弟弟子の成長に対して、喜々したように声を上げるセタンタ。反面、褒められたラグナは、苦い表情で今度こそ後ろへと下がる。


(扱えるようになるまで練習して、ようやく出来るようになったのに……)


 剣を構えたまま、蹴りを放つ。難しい事ではない──だが、その蹴りが相手の急所、或いは、急所でなくても、相手にダメージを与える程の威力で放つのには、相応の鍛錬が必要だ。そして、自分でもそれが実戦に使える程まで向上させた技をあっさりと防がれた事に、ラグナは、悔しさから強く歯を噛みしめる。


ラグナが、セタンタから武芸を教わり始めたのは、魔法を教わり始めた時期から二年後の六歳の頃──。

最初にセタンタは、ラグナの体作りから始まる。走る事と跳ぶ事。登る事と降りる事。易々とそれをこなすセタンタの背を負いながら、必死に彼を追いかける日々──体が出来上がり始めると、体術が加わる。そして、七歳の頃から、そこに剣術と弓術が加わった。

必死に、ラグナはセタンタに追いつこうと努力を積み重ねた。そして、スカハサと同じく、未だに彼の背中は遠く、影すら捉えられない。


(何が足りないんだ……僕には……)

「……戦いに、考え事を持ち込むんじゃねえ!」

「ハッ──ぐッ!」


 自分とセタンタとの間になる差──思考にふけるラグナに対して、若干の怒りを含んだセタンタの一撃が、叩き込まれる。咄嗟に構えた剣を強く叩きラグナは、尻もちをついた。


「どうした、まだこんなもんじゃねえだろ? 何時もみたいに身体強化を使えよ。実力差は、知恵を使って埋めるのが、人間ってもんだろうが!」

「こんッのォ!」


 挑発に対して、らしくなくムキになったラグナは、立ち上がると同時に、身体強化を全身に付与する。強化された瞬発力で縦横無尽に駆け抜ける。対するセタンタは、担いだ剣をだらりと下げて、棒立ちの状態になる。

 翻弄──そして、一点の死角からラグナはセタンタに、襲い掛かった。だが、その一撃は、彼を掠めることも出来ずに躱され、セタンタは、空いている手でラグナの服を無造作につかむと、地面へと叩きつけた。


「ぐはッ!」


 片手一本で、受け身を取る時間すら与えずに、ラグナは地面へと強く叩きつけられた。肺から息が無理やり絞り出される。激しくせき込むラグナに、セタンタは剣を突き付けた。


「ったく、馬鹿野郎が……戦闘中にまで、考え事を持ち込みやがって」

「……、……」


 

 落胆が溜め息となってセタンタの口から漏れる。ラグナはそれに苦しげな表情のまま、睨みつける。だが、やがて、その視線は、諦めへと変わり、目を閉じた。

ラグナ自身も、普段なら悪態の一つでも言うが、自分の不甲斐なさを自覚して、何も言わなかった。

 そして、剣の代わりに差し出された手を掴み、ラグナは体を起こす。そして、セタンタは剣を地面に刺すとラグナの隣に座った。


「……さあ、吐き出せよ。ラグナ」

「……」

「…………はぁ~、らしくねえな。ここの所のお前は……特に今日なんざ、考え事まで持ち込みやがって。何がテメェをそうさせる」

「……時々、思うんだ。僕は、ここにいる資格があるのかと」


 どれだけ教授を受けても、努力を積み重ねても──尊敬し、憧れる二人の足下にすら及ばない。ラグナの中にある影が、彼の口から這い出て来る。


「いや、そんなの俺が決めるもんじゃねえだろ?」


 対するセタンタの答えは、酷く軽薄なものだった。だが、彼を良く知るラグナは、それに苦笑いを浮かべる。


「良いよな、セタンタは……悩みが無さそうで」

「そりゃな、考えたって、答えが出なけりゃ分からねえし……大体、考えてみろよ? 俺が、頭抱えて、唸ってたら、気持ち悪いだろ?」

「…………プッ、ク……確かに」


 普段からさっぱりとしたセタンタしか見ていないラグナは、頭を抱えて悩み事をしている彼を想像して笑い出す。


「何だよ、ちゃんと笑えるじゃねえか……」

「え…………」


 笑う。セタンタに指摘されるまで、ラグナは愛想よく振舞ってはいても、笑う事がここ最近、無かった事に気が付いた。それに気が付いただけでも、ラグナは、自分の中のものが少し晴れた気がした。


「おら、言っちまえ言っちまえ。そうすりゃ、スッキリするぞ?」


 セタンタに促される形で、ラグナは口を開いた。


「……ねえ、セタンタの両親って、どんな人だったの?」

「ああ? 何だよいきなり」

「良いから」

「……ん~~? まあ、普通だな」

「その、普通が何のさ」

「って言っても、俺もあんまり覚えてねえからな。多分、師匠達との時間の方が長いし、亜人ってのは、総じてに長生きだからな」

「そっか……」

「何だよ、お前、自分の親の事が気になってるのか?」


 セタンタは、先程の問いかけで、ラグナの心中にある悩みの一部を見破った。この部分は、長年、兄弟分として培った二人の絆とも言える信頼が窺える。今のラグナ自身も、内心を見抜かれた事に対して、特段大きな反応をセタンタに示すことは無く、顔を俯かせる。


「……どうなんだろ、そう思う自分もいるし、思ってない自分もいて、良く分からないんだ」

「ふぅ~~~ん…………」


 ラグナの言葉に、セタンタは腕を組んで考える。だが、自分自身で先程、答えを言っているので、それ以上の答えを出すことが出来ず、彼は直ぐに考えるのを止める。


「こんな事、師匠に言ったら、怒るだろうな」

「……そんなに言うなら、直接、師匠に頼んでみたらどうだよ?」

「何を?」

「両親に会ってみたいって」

「……はあ」

(それが言えたら苦労なんてしていない)


 ラグナの溜め息は、その言葉を表す様に、重く、深いものだった。だが、セタンタはそんなラグナの頭を乱暴に撫でまわす。


「やってみりゃわかる。駄目って言われたら、その時に考えろ……諦めるなら、諦める。諦めきれないなら──我がまま言ってみろよ」

「子供じゃないか」

「いや、お前子供だろ……」

「アイタッ」


 ニヤリと笑ったセタンタが、ラグナの額を指で小突いた。


「お前は、まだまだ嘴の黄色いヒヨッコだよ。だが、そんなの当たり前だ……テメェはまだ、八年しか生きてない若造なんだ。下手に背伸びしようとする必要は……俺は無いと思うがな」

「背伸び…………子供、か」

「おう」


 ラグナは再び考え込む。そんな弟弟子の姿をセタンタは苦笑して立ち上がる。


「まあ、考えてみろや」

「……ああ」

「さて、頭の中はすっきりしたか?」

「……少しは」

「なら、良い。さあ、だったら、続きだ……今度は、さっきよりましな戦い方しろよ?」

「……」


 ラグナとセタンタは再び構える。攻めるラグナと、それをいなすセタンタ。攻撃を防ぎながらセタンタは、ラグナの眼を見る。先程まで、影を帯びていた目にほんの少し輝きを取り戻しているのを見て、彼は口に優し気な笑みを浮かべる。そして、それは直ぐに好戦的な笑みで塗りつぶされ、ラグナへの反撃に乗り出した。


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