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11話:少女救出

降りた拍子に床がきしみを挙げて、少女が小さな悲鳴を上げた。

 特に、罠などはないと言うのを確認して、少女を見る──師匠が着ているドレスとは異なる意匠をした青のドレスを着る女の子。黒い服よりも鮮やかなその服装は、自分よりも目立つ印象を与える。

 後は、やはり黒い髪だろうか──師匠の黒い髪と似ているが、色の濃さは、目の前の少女が強いと感じる。何と言えばいいのか──師匠ほどではないが、僕はこの色をとても綺麗だと思う。

 

危険も無いと分かったので、彼女に近づこうとするが──


「だ、誰? 来ないでッ!」


 突如、発せられた拒絶の言葉に、正直驚いた。同時に、焦る……僕はあいつらの仲間じゃないから、あの言葉で外に居る見張りが気付くかもしれない。

 気付かれるとまずいので宥めようとするが、女の子はと言うと手足を縛られているにも拘らず、身体を丸めて僕のほうを──きっと睨んでいるのだろうな。

 

「落ち着いて、大丈夫だから」

「こ、来ないで……やだぁ」

「参ったな……」


 想像以上におびえている。宥めないと、きっと助けられない。無理矢理近づいて、悲鳴なんて上げられたら絶対に気付かれる。ここから、この女の子の誤解を解かないといけない。

 いけないのだが──


「えっと、あの……うぅん…………………」


……。

…………。

………………。

……どうしよう困った、何て声を掛けていいのか全く分からない。

 

 そもそも、同年代の女の事はどう話をすればいいのだろう? そこの所を全く考えてなかった。暗くて何も見えない中じゃ、僕の事も、怪しい奴って感じて当たり前だものな。


「…………」

「ッ……、……」

 

 沈黙……ただ、女の子のしゃっくりだけが、聞こえる。どうすればいいんだろう? 無理矢理連れ去るというのも手だが、悲鳴なんて上げられたら絶対に気付かれる。

 そのリスクは絶対に避けないといけない──相手の実力が分からないのに、相手をするのは、度し難い馬鹿のやることだって、セタンタも言っていた。

 だけど、どうすればいいんだ?


「ぁ、ぁの……貴方、誰、なの?」


 困っていると、今度は女の子から声を掛けられた。意外と思いながらも僕は、渡りに船だと安堵して彼女に合わせることにする。


「ラグナ」

「ラ、グナ? し、知ら、ない……誰?」

「え? うぅん…………誰なんだろう?」


 自分が誰か分からないわけではない……ただ、彼女にとって、僕という存在は何になるのだろうか? 助けるつもりなのはそうだけど──それについては、何と答えに出すべきなのか? そう考えると、答えづらかった。


「えぇっとぉ──怪しい人じゃない、よ?」

「…………」


 あれ、間違えたかな?

黙ってしまった少女の反応から、自分が間違った答えを導き出してしまったのかと、


だが、自分の不安とは他所に、女の子は何故かクスクスと小さく笑う。


「変な事、言ったかな?」

「変よ……だって、こんな時に怪しくないなんて、言わないよ?」

「……それもそうか」


 確かに、言われてみて気付いたけど──普通、怪しい人物っていうのは、自分から怪しい何ていわない。自分の事を怪しくないって言うのが普通だよな。師匠の書斎にある物語にもそんな一面あったな。

 あれ? 僕、今、そんな馬鹿な発言したのか……ちょっと、いや、かなり恥ずかしいな。


「本当に、あの人たちとは関係ないの?」

「全然……えっと、君に近づくけど、平気?」


 確認を取り……少し経った後に、少女はゆっくりと首を縦に振った。どうやら、外の奴らの仲間ではない事を理解してもらえたようで、一安心する。そのまま、少女に近づいて──一瞬、何処から外せばいいのか考えてから、少女の束縛を解き放った。


 まずは、彼女の目隠しになっているボロ布を解き、次に、後ろに回って、少女の手足を縛るロープを短剣で切った。

 自由になった少女と再び顔を合わせる。その拍子に少女と目が合った──その瞬間に、強い衝撃のようなものが駆け巡った。

 黒い髪が目まで垂れ掛かり隠れているのだろう、その隙間から見えた蒼い双眸──自室の窓から見える蒼海のような深くて広く、濃い蒼の瞳──引き込まれるように、僕は彼女の眼に釘付けになった。


「ぁ……あの、あんまり、見ちゃ、やだ」

「ッ! ご、ごめん……」


 少女の絞り出すような声に我に返って慌てて距離を置く。そうだよな、いきなりあった奴に眼を見つめられるなんて怖いよな。

 自分でもこんなことしてる場合じゃあないと反省する。


(ただ、まあ……綺麗だったな)


 海と同じ色の目に、尊敬する師匠と同じだが、異なる黒い髪──師匠とは、違う。それは認識しているが、これはこれで良いものだと、思う。

 

「立てる?」

「うん」

 

 差し出した手を、少女が握り返してゆっくりと立ち上がる。こうして立ち上がると、僕のほうが背は高い。背が高い……ちょっとした優越感が芽生える。


「ぁぁ~……そういえば、君の名前は何ていうの?」

「ア、アリステラ」

「良い名前だね」

「ぁ、ぁりがとぅ」

「それで、君はどうして捕まったの?」

「お、お父様と一緒に、街に観光に来たんだけど、はぐれちゃって……知らない人が、お父様を知ってるって言うから、着いていったの。そしたら」

「ここに捕まっちゃったのか」


 思い出して怖いのか、アリステラはまた身体を震わせながらも首を縦に振った。この子結構、頭悪いのかもしれないっと、正直思った。

 昨日の夜──フェレグスとは、万が一離れ離れになってしまった場合について取り決めを行った。その時に、最初にこう釘を刺された。


『知らない人の言う事を、絶対に聞いたり、信じたりしないこと』だと──。


「何で着いて行っちゃったのさ」

「だ、だって……お父様の事知ってるって言うから」

「知らない人だったんでしょ?」

「ッ、ウゥ……、……」


 また泣き始めてしまった。何でだ? 僕は変なこと言ってしまったのか?


「もう、やだぁ、おうちに、帰りたい……」

「…………はぁ」


 自分から首を突っ込んだけど、この子すぐに泣いてばっかりで、自分でどうにか状況をどうにかしようって言う意思はないのか? 大体──彼女の父親もそうだ。この子に対して、もしもの時を考えた苦言も何もしなかったのか?

 自分で首を突っ込んでしまった事だが、正直──この子は見ているとげんなりする。セタンタの言葉を借りるなら『面倒くさい』だ。


「お母様、と、お兄様に、会い、たい」

「…………」

(母と兄か…………仕方ない)


 師匠もセタンタも中途半端は許さない。僕だってやると決めたのなら最後までやり通さないと。帰ったら、怒られてしまう。いや、言いつけを破って勝手に行動しているのだから、もう怒られるのは当然か。

 自業自得だが、どうせ怒られるのなら、最後までやり遂げよう。


「とりあえず、ここから出ようか」

「でも、どう、やって?」

「あそこ」


 嗚咽混じりの声で少女が僕に聞き返してくるので、僕は自分が入って来た天井の穴を指差す。ここからの脱出は、簡単だ。女の子を担いで開いた穴から身体強化を使って跳躍する。ここは前回、あの変な男達から自分が逃げ隠れしたときと同じだ。そこから、女の子を連れて、表に出て、一度フェレグスに合流する予定だ。


「でも、私、上れない」

「そんなの、僕が担げば良いだろ?」


 一人で動くよりも身体強化も強いものになるが、不可能ではない。


「ぇ、でも、それって……」

「何? 他に何かあるの?」

「ぅぅ…………なん、でもない」


何かを言いかけて止める少女……どうして、いいたい事を言わないのか?


「じゃあ、気付かれないうちにてここから出て──」


ガチャリ────と音が聞こえた。

その音は、扉を開ける音だ。今、僕が居る小屋には扉は一つしかない。そして、それは、見張りが一人ついていて、僕はその扉を利用できなかった。だから、屋根の上に新しい出入り口を作ることで、中に侵入したわけだが──まあ、つまり、そういうことなんだな。


(なんてタイミングが悪いんだ)


 これだったら、さっさと無理矢理にでも連れ出せばよかったと、自分の行動の徹底の佐奈を心底後悔した。

 開いた扉の先には、彼女を連れ去った男が呆然とした顔でそこに立っていた。


「な、何だテメェ!」


 見知らぬ侵入者に対して、男が驚きの声を挙げる──それに反応したのか、見張りの男と、初めて見る三人目の顔が扉の奥から此方を覗き込んでいた。


(まずいな……二人から三人に増えてる)


 ただでさえ大人が二人で、実力を測れてないのに、さらに一人増えている。強いか弱いか分からないという点を踏まえて、荒事にするのは避けていたのに、厄介な事になった。


「ふむ……確か、女の子が一人と伺っていたのですが、思わぬねずみも釣れたようですね」


 三人目が僕のほうをじろじろと見てくる……気持ち悪い視線だ。感触であらわすならネバネバとした感じがする。


「悪くない……その手の趣味の者達には、高値で売れそうですね」

「……」


 何の話をしているのかは分からなかったが、背中に何故か、気持ち悪い寒気が走った。ろくな事ではない……勘がそれを告げる。


「娘も……黒髪が残念ですが、良く調教すれば……まあ問題ないでしょう」

「足元見ないでくださいよ、旦那」

「勿論、ただ、くれぐれも逃がさないでください。逃げられた荷物に払う金はありませんので」

「分かってますぁ……おい!」


 男達が入って来る。二人、三人──合計四人に増える。外に隠れていたのか? どっちにしろ、この状況で戦うのは無謀すぎる。


「なあ、アリステラ。ちょっと強引になるけど、我慢してくれよ?」

「え? きゃ!」


 距離を詰められる前に、後ろ庇っていたアリステラを抱えて、身体強化を発動させる。そのまま、天井の穴に目掛けて、跳び上がった。そのまま、屋根の上に着地する。

 穴から下を見ると、驚愕の表情を浮かべながら憎憎しげに此方を見上げる、男達が居る。


「くっそ、何やってんだお前ら! 早く上ってとっ捕まえろ!!」


 男達の声が響くのを無視して、アリステラを抱えたまま、屋根伝いを走る。走りながら、後ろを見ると屋根の上によじ登ってきた男の仲間たちが此方を見つけて、追いかけてきているのが見えた。

 身体強化のおかげで、簡単には追いつかないとは言え、追いつかれるのは時間の問題かもしれない。どこかに隠れないとな。


「ね、ねえ……あの、助けてくれて、あ、ありがとう」

「何が?」


 あそこから脱出できたけど、追いかけられているのだから、まだ安全とは程遠い。大体──


「僕、この先に何かあるのか分からないんだけど、君は分かるの?」

「え? わ、私も知らない……」


 そうなんだよね、最初に居た表側のほうに戻れればいいんだけど、この地域って結構広いんだよね。ここ脱出しようにも、土地勘なんてないし──追いかけられてるから、道を選ぶのにも余裕なんてあんまり無い。そして、彼女を抱えている分に身体強化も上乗せしているので、正直、安心して逃げられるのには限界がある。


 このまま脱出できれば、良いけれど──隠れるって言う手段を使う必要もある。とにかく、まずは、あいつらを引き剥がさないといけない。


「このまま走るから、舌とかかまないでよ」


 アリステラを抱えたまま僕は、屋根から屋根に飛び移る。後ろでは、屋根伝いの凹凸や間隔に苦労しながら、僕らを追いかける男達が映った。


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