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黒と金

 黒く深い夜の森。松明を手に進む一団があった。甲冑に身を包んだ騎士達と、彼らに囲まれた女性が奥へと進む。女性は、腕の中には包まれた【それ】を抱える。やがて、森を抜けた先にある大樹の根元に、それを置くと女は、騎士達と共に去っていった。

月に雲が掛かり、より一層と闇の深さが濃くなる。それに比例し、腹を空かせた魔物達がそれを喰らい、己の命の糧にする為、それらは大樹を囲み、歩を進める。


しかし、何処からとも無く、一つの影が現れた瞬間、無数にあった魔物の気配は、嘘のように消え去った。そんな周囲のことに、皆目の興味も示さない影は、捨てられたそれを拾い上げ、その包みを解いた。

 雲が晴れ、月明かりに照らされた衣の中に居たのは、赤ん坊だった──満足に乳も与えられないまま、捨てられたであろうか──泣く力すらなくす程に衰弱した赤子。

女は、赤子の頬に手を添えようと手を伸ばし、赤子は、女が触れようと伸ばした指を強くつかんだ。


『生きたい』


まだ産まれて間もない、物心すら知らない、今にも消えそうな小さな命は、それでも、そう願い、その手を離そうとしない。自身を握る手から伝わる意思を読み取った女は、赤ん坊を優しく抱きしめた。

「分かった。お前は今よりわしの子だ」


月明かりに照らされる金の産毛を生やした赤ん坊に女は、名前を与えた。


「お前の名は、【ラグナ】」




 山を登る影があった。背中を橙に色を変えた太陽に照らされて雲よりも高い場所へと行く。

 足が止まり、そして振り返る。

 銀と黒の衣服が、太陽の輝きで染められたような輝く金髪がそよ風に靡く。

 男は赤い瞳を細め、それでも太陽を真っすぐに捉える。


[またここに来たのか]


 頭に響くような不思議な声に、男は『ああ』、と短く答える。

 男は振り返る。西に沈み行く夕焼けは美しくも儚げに雲海を照らしていた。


「……五年ぶり、か」

[そうだな。お前がこれを見たのは、お前がまだ十の時だったな]

「そうだな。皆からすれば、たったその程度しか生きていないのに、随分と色んな事を見て、聞いて、感じて、知ったよ」


 男は自身の手を夕焼けに翳して答える。その眼差しは喜びと悲しみを混ぜて──。

 そして何処までも彼方を見つめていた。


「……なあ。独り言を、呟いて良いかな」

[独り言とは、勝手に喋るものだ。故にそれは独り言にあらず……だが良かろう。お前の物語を、(つづ)るがよい]

「ありがとう」


 そうして男は語る。

 懐かしき日々、数多の彩りに満ちた己の十五年の歳月を語る。

 喜び、怒り、悲しみ、楽しみの物語だ。

 出会いがあった。別れもあった。

善があった。悪もあった。

後悔があった。

友が居て、愛する者が居て、敬う者が居て、競う者が居て、目標が居た。


「始まりは、そうだな。きっと……七年前が俺の始まりだったんだと思う」


十五年から遡る事、七年──即ち、八年生きた日の記憶を語ろう。

宿命と運命という言葉を実感するにふさわしい男にとっての分岐点だ。


[うむ。さあ、お前の母にも聞こえるように語れ。今、こうして世界の命を強く輝かせ、世界を己の色に染める我が義弟よ]

「分かった」


 振り返るように語る。

 これから男が騙る物語は、己の未熟から生み出した愚による始まりの物語だ。


2019/4/24

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