風呂上り
風呂から上がったところで、とても喉が渇いた。多分、さっき食べてきたラーメンのせいだろう。しかし、時刻は深夜2時。明日は学校が休みとはいえ、自販機はここから少し遠い。100mほど先にある。だから行こうかどうか迷ったが、まあスケボーの練習にもなるかと思い、外へ出た。
5月の半ばだというのに、すでに日中の気温は25度に迫っており、夜もまだまだ暑かった。さすがに短パンとタンクトップでは寒すぎるかもと思ったが、湯上りということもあり、丁度、火照った体を、夜風が気持ちよく撫ぜてくれる。
靴箱の横に立てかけてあるスケボーを手に取る。靴ひもをしっかりと結び、まだ髪の毛が若干濡れていたが、気にせずヘッドフォンを耳にかけた。
スイッチを入れ、お気に入りの音楽を鳴らす。すぐに耳へ、ノリノリのロックが流れ込む。
タバコと財布をポケットに突っ込むと、ぼくはスケボー片手に、家を出た。
見上げると、三日月。街灯が規則正しく道路を照らし、走りやすそうな道路を、スポットライトのように照らしていた。ぼくは勢いよく走りだすと、スケボーを前に勢いよく滑らせ、そこに飛び乗った。丁度曲がサビを迎え、そのままアスファルトを勢いよく蹴った。
すぐにスピードが出て、つるつるとした走りやすい路面を、音もなく静かに滑る。これならすぐ、近くの自販機へ到着するな、と思ったとき、少し先の曲がり角から、誰か、4、5人がこちらに向かって手を振っているのが見えた。
時間帯が時間帯というのもあり、一瞬本気でびっくりした。しかしそれはよく見ると、同じクラスの女子数人であった。あまり交友関係が広くなく、普段は中学校の頃からの友達としかつるんでいないぼくにしてみれば、正直クラスの女子など、顔と名前が一致しない。
しかし、深夜2時だというのに、ヘッドフォン越しにも聞こえるほど、大声で何か話しかけてきている女子たち。無視するわけにもいかないだろう。ぼくはスケボーの上でぐっとしゃがみ込むと、後ろ足をスケボー毎、真横に持ってきた。
いわゆるパワースライドと呼ばれるトリックである。別名、急ブレーキ。
通常は車輪の並び通りに、縦で走っているスケボー。それを一気に横へ向けて、自分が弾き飛ばされないよう、後ろに体重をかけて、体を落とし込む。すると車輪が横を向き、一気にスピードが落ちるというわけだ。
なぜ、ぼくがこうしなければいけなかったのか。簡単な話だ。
この女子数人が、スケボーで走っているぼくの進行ルートを、何も考えずに塞いだせいである。なんだろう、ひき殺されたいのかなあ。
「ねえ、あんた2-Bの十計でしょ!「ほんとだ、十計じゃん!「え、こんな時間に何やってんの?「スケボーでしょ!「てか今のかっこいいじゃん!」
口々に叫ぶ女子。こういうタイプの、イケイケアゲアゲな人間があまり得意ではない。何なら名前も覚えていない。だから適当に挨拶をして、そのまま自販機へ行きたかったのだが、すぐに僕の周りを、女子5人が取り囲んだ。
みんな私服姿で、しかも結構派手。ミニスカートだったり、スリットの入ったデニムだったり、胸元の空いたワイシャツだったり、肩出しだったり、単純に胸が大きかったり。
こいつら、こんな時間にこんな格好とか、ほんと何考えてんだろう。
「ん、まあ、2-Bの十計だけど――」
「へーすごい、スケボー乗れんだね!「やるじゃん十計!「普段地味だったからわからなかったけど、結構かっこいいじゃん?「ほかにも何かしてよ!」
ああ、こういうノリが嫌いなんだよなあ。ぼく。
勘弁してほしい。さっさと開放してほしい。早く家に帰してくれ。
「あ、そうだ!」
と、一番露出の激しい女子が手を打った。確かこいつの名前は、式玉だったか。
「どうしたんだよ、式玉」
「いやー、聞いてよ。あたしらと遊んでた、美奈がどっかいっちゃってさー」