第九話 入江出口と都築マサル
ここはーー《ホロスカ遺跡》なる、都築が初めて経験する《迷宮》だ。
初めてなのは間違いないのに。
遺跡の門が都築に反応した。
「な、なんだって言うんだ?! あ゛??」
都築の眉間に、しわが深く刻まれる。
ただ。
その状況は、ガーナとアデル。
もちろん、ミウも想像していなかったのは、徒然と言えよう。
--マサル・ツヅキニ、伝言ガアリマス。
三人は、一斉に都築を見た。
その視線に。
「俺が知るわけないだろうが! 馬鹿ども‼」
都築は、大きなため息を吐き、苛立った声を出した。
「いやいや。別に? 疑っているわけじゃないんだよぉ~~??」
ガーナが顔を歪ませて、都築を見上げていた。
完全に疑っている顔だ。
「……男は、みんな嘘つきだ」
アデルは表情を変えることなく、言い捨てる始末。
「待って! 待って!」
その仲介をミウがする。
「マサルは僕が呼んだんだ! 確かに、召喚したんだからね!」
ガーナとアデルが見合う。
「「態と呼ばれたふりをしているとか」」
声が同調し、ミウに言い返される。
ミウも口元に、指を置き、都築を見上げた。
薄目で。
「おい。待てよ、張本人! お前、このポンコツ!」
激昂する都築を他所に。
声は、淡々と続けた。
--パスワードヲ言イマス。繰リ返シテ下サイ。
--パスワードヲ言イマス。繰リ返シテ下サイ。
「あ゛? なんで言わなきゃいけねぇんだョ!」
腕を組み、噛みつく都築は、地面に唾を吐き捨てた。
「言わないと、ダメなアレだな」
「そうだね。多分」
ガーナと、アデルが言う。
「何がだよ!」
「「開かないってことだよ」」
うぐぐ。
都築は、唇を突き出し。
がっくり、と項垂れた。
「分あ~~った! 言ぁいいんだな?!」
--パスワードヲ言イマス。繰リ返シテ下サイ。
--パスワードヲ言イマス。繰リ返シテ下サイ。
「早く言えョ」
--『イ』
「い!」
--『リ』
「り!」
--『エ』
「え!」
ここまで来て。
都築は思い出す。
どうしてだか、あのスタッフの男を。
--『デ』
「……デ」
胸がざわめくのが分かる。
彼の名前は、都築の中に刻まれ。
都築の中に殿堂入りしている。
--……『
「《入江出口》」
金色の羽根が降り注ぐ。
上を見上げた都築の視界に、伸ばされた手が映り。
思わず。
いや、咄嗟に。
腕を伸ばしていた。
すると、その指先に。
柔らかい、そう指先が触れた。
「?! ま、さか、んな馬鹿な話があって、たま、っか……ョ」
そこには、殿堂入りした彼が居た。
憎たらしい、当時の勝気な表情で。
ただ、容姿は。
当時のまま。
「『おうおう! 大きく育っちまったもんだなァ! クソ餓鬼が‼』」
憎まれ口を叩く彼は。
間違いなく。
入江出口だと、都築は確信した。
「おっさんは、小さくなったんじゃねぇの??」
ただ、その再会に。
都築の顔が、この異世界に来て。
初めて涙腺が緩み、頬が朱に染まった。
「『馬鹿言ってんじゃねェよ! クソ餓鬼が!』」
ガーナとアデル、ミウが。
その表情に、見惚けていた。
たん。
入江が地面に降り立った。
身長は都築の方が高い。
190センチの長身だからだ。
入江もそれなりに。
175センチはあるものの、都築にして見れば小さい。
「ここまで俺を追いかけて来たのかョ? ストーカー??」
入江を見下ろし、鼻先で笑う都築の表情は、元に戻っている。
三人は、がっかりした様子だ。
「『生言ってっと、日本に帰れねェかんな?』」
「あ゛? 脅しかョ! 汚ねぇのなぁ~~!」
「『いいから聞け。クソ餓鬼が』」
入江の眼光が都築を射抜き。
都築も、睨み返した。
「あ゛?!」