第七十話 都築マサル退場前、後。
「マサル、大丈夫かしら」
荒い息を吐きながら、彼を心配するのはアデル。
「大丈夫に決まってんじゃあねェかよ」
そんな彼女に、牙をむけるのは愛だ。
「ああ! あの役立たずなら、きっと!」
バシュ!
「大丈夫だっつ~~のォおお‼」
バ
シ
ュ
ッ
ッ
‼
戦えるのは愛と出口の、入江姉弟だけになっている。
アデルにガーナ。
彼女たちは罠にかかり閉じ込められてしまっていた。
矢を放った出口の顔にも、疲労の色を滲ませている。
マサルを《遺跡》から出したのは、そう案を出したの愛。
『どうせさーこいつ邪魔じゃん? wwwwなら、出しておいた方が後々、運が良けりゃあ助けを呼んでくるんじゃねェか?? wwwwなんてな。死なれるよか、よっぽどいいよ』
愛も、苦笑交じりにギャグを交えつつ。
今、このグループでのマサルの立ち位置は曖昧だ。
剣⇒× 元々、持ってない。
盾⇒× 元々、持ってない。
魔法⇒× 元々、使えない。
治癒⇒× 元々、使えない。
人脈⇒◎ なんか、ある。
この人脈に、愛は期待した。
ただ。彼を出せるのは。
あくまでもーーここからである。
そっからの行動も、運も。
マサル自身のもので、愛は、それにもかけていた。
ただ。
その案には。
『いや! そりゃあダメだ! ダメだ! ダメったら! ダメだ! 姉さん!』
出口は声を荒げて、愛に反対した。
頑固にも、愛の豊満な胸に手を上げ、後ろに下げていった。
ドンッ。
ドドンッッ!
『はァ!? あんだよ! ざけんじゃねェよォ‼』
ただ。
この姉弟の喧嘩会場には。
『……--あの。俺、いるんだけど?』
邪魔だの、と言われてしまったマサルがまだいたわけで。
少し。
涙目だった。
この時点では。
ガーナは罠にかかっていて、アデルと出口の攻防戦。
愛はマサルの前に構えていた。
マサルは、その後ろから見守っていたに過ぎず。
『邪魔』という言葉に、ぐぅの音も出すことは出来なかった。
『その邪魔で出したマサルが出された瞬間ッ! 喰われたらどうすんだよ! あ゛ァ゛‼』
『それぐれェは! それぐれェでッッ! 自分でなんとかしろってんだよォ゛! 馬鹿野郎‼』
喧嘩は胸ぐらを掴みかかる展開に、発展してしまった。
『姉弟喧嘩をやる暇はあるなら! 手を貸しなさい!』
あまりに酷いことに、アデルも声を荒げてしまう。
『『もう少し待てってんだよッッッッ‼‼』』
声を合わせて吠える二人に。
ブチ!
『待てないのよッッッッ‼』
さすがのアデルもキレた。
その剣幕に、萎縮した二人。
そこに、ショックをうけていたマサルが、復活するのだった。
『お、俺。助けを……呼んで来るよ!』
『っば! 馬鹿か? お前は馬鹿なのか?? いや、元々、馬鹿だが、ちょっと待ーー』
『俺ね。出口サン、決めたんですよ』
真っ直ぐにマサルは出口の顔を見上げて、見据えた。
そして。
ビ!
親指を立てて、にこやかに。
『だから。笑って送り出してよ』
『っつ! ったく、よォおお‼』
弓を肩に担ぎ、愛の身体を弾くと。
出口はマサルを抱きかかえた。
『一人前にいいやがって! 戻って来なかったら承知しねェぞ! マサル‼』
『っく、る゛じぃ゛~~』
『あ、っと。悪ィな』
自己解決したような出口に、
『とっとっと。出し捨てようぜ!』
愛が口端をつり上げた。
そして。
《遺跡》から出口を出したのは、魔力も干からびていたアデルであり。
転送魔術が不完全となってしまう。
そのことは。
本人含めて、気づいていない。
「あいつは馬鹿なんだ。誰も放っておけなくなるんだぜ! 俺含めてな。それがあいつにとって、ここにいるメンバーにゃないwwww 才能ってやつだよ!」
彼が頭を打って。
緊迫した状況を、まるっきり忘れていることも。




