第六十七話 マサルの知らないところで②
「私は大人になりましたかねーネク…ス、トさん」
「ネクストでもいいよ。いい辛いってんなら、まぁ。うん、出口でもいいし」
「いいえいいえ。そこは大丈夫ですー」
《御霊特急》で肩を並べていた。
そして、前を一点に見据えていた。
ただ。
お互いが、お互いにーー同じように、風景を見ているわけでもない。
「身長は伸びたんじゃねェの? っぷ、ふふふ! つぅ~~か! 俺が縮んじまったっか!」
ひーひー~~ッッ! と凛が身体を揺らして笑う。
「私は、奥さんが逝ってしまってからの、成長だから……」
「……ぁ、あ゛~~……悪ィな、烈~~」
「いいえいいえ。いいんです、私のいい方がアレでしたねーははは」
「よしよし。じゃあ、その話題は置いてこう、置いてこうwwww」
「はい。そうですねーネクストー」
そして。
車内が静まり返ってしまう。
話さなければならないことは、沢山あったが。
それは。
あまり、口に出したくもない。
出してしまえばーー溢れて、零れてなくなってしまいそうに思えてしまうからだ。
少なくとも、烈自身はーーだが。
「あー~~あー~~! 辛気臭ェ! 辛気臭ェッッ‼」
そこに煙草を咥えた保がやって来た。
頬を膨らませながら、両腕を広げると、小さな身体の凛の身体を抱きかかえると。
彼が座っていたところに腰を据え。
自身の膝の上に、凛を下した。
沢山、座る場所があるのに関わらずに、だ。
「……お~~い。お~~いィ?? なんなの、あんたは」
「あんたってのあんだァ゛? あァ゛?! 手前の親父様だぞォ゛!」
「……で。烈、話しは至極、簡単だと思うぜ?」
「……そ。ですかねー?」と烈が、視線を反らした。
その選択肢があることは、烈自身ーー分かってはいた。
いるのだが。
いてもだ。
どうしても。
決行し難いことには変わりない。
「私の、息子……なんです、よー?」
血の繋がり自体。
烈と、マサルにはない。
そのことをマサルは知らない。
知らせてはいない。
血縁があるのはーー弟のユズルだった。
そして。
その子供である、紫陽花。
伝えたくもないが。
それは。
戸籍上の【養子】が物語っている。
それを見たことがあれば、マサルは知っているだろうが、いつもの日常が変わりないうちは、知らないんだと、胸を撫で下ろしている。
マサルが隠し事が出来ないことは、烈も知っているからだ。
「孫のハー君が、寝ぼけてねー『行かなきゃ』っていい出してさー」
「ああ。聞いてたぜェ」
「……--盗聴はー犯罪だよー? 江頭さん」
「ぶァ~~か! んなのしなくたって、聞こえるんだよ! ぶァ~~かァ‼」
「父さん。ちょっと、黙ってくんない?」
「! なんだよ! 親父様に、なんっつ~~いい草だよ‼」
「な。黙れっつってんだよ」
凛の強い口調に。
「っざけんじゃねェよ! クソ餓鬼の分際で、生意気いってんじゃねェよ!」
強張った声で、保もいい返す。
(話し……進まないー困ったなーこの親子はー~~)
それに烈は、苦笑するほかない。
ただ。
この親子のいい合いに。
(いいなーマサルは、物分かりがいい子過ぎるしーユズちゃんも、お兄ちゃん子で、いい子だったもんなー……思春期の、反抗期もない子供しかいなかったしーこーゆーのって、憧れるんだよねー)
魅入っている烈に、二人は顔を交差させ。
はにかんでしまう。
「「悪い。烈~~」」
「!? いいえいいえ。親子って、いいですよねーなんでも……なんでも、あれ? っは、はは……」
ボロボロ。
ボロボローー……。
「ぅ、う゛うう゛ー~~ぁ゛アアぁああ゛ッッ‼」
凛が顔を見上げ、保の煙草を口元から抜き取ると、咥えた。
すぅうう。
大きく吸い込み。
ぷ、っはぁああ~~。
白煙を噴き出した。
「選択肢を選ぶのは自身の心との闘いだ。覚悟も必要さ。でも、お前なら正しい選択をすると、俺は思っているよ。いや、思いたいってのが心境かな?」




