第六十四話 帰りたい。
「なんじゃ。ボンタコタレスのご令嬢も一緒とはな」
マサルを抱きかかえたマーニーにそういう人物。
彼こそがミウの父親にして、偉大なる魔術師ダンブアである。
白い顎鬚は足元まであり、赤いリボンで全体を縛っている。
白くも質の多い紙も、赤く部分的に染められ、後ろで一括りに縛られていた。
赤いリボンに。
頭の上にも赤く、丸い帽子が控えめにあり、服も赤黒いものだった。
魔術師業界での彼を指してーー《赦の魔術師》と呼んだ。
「……貴方がいるということは、ここは」
《ボゾロイ》の屋敷である。
「召喚、したということ? 僕たちを」
「僕たちを? 勘違いするでない。呼んだのはーーお主の胸元に居る男をだ」
「?! マサルを?? 一体、どうしてですか」
「その男が。この世界の規律、いや。なにもかもを破滅させるのだ。よって、ここに呼んだまでの話しじゃ。マーニー嬢」
「なんの、話しですか? 話しが、見えません」
マーニーは強く、マサルの身体を抱きかかえた。
しかし。
徐々に、しかし確実に。
マサルの身体が、靄に変わっていっている。
「……ダンブア様は。ダンブア様は……ご存じ、なのでしょうか?」
「なんじゃ。お主、知らんのか」
「姉のメイレーに聞く前に、ここに召喚されてしまったので」
「ならば。知らずともよい」
冷淡に吐き捨てるダンブアに、マーニーが、
「知らねばなりません! マサルは、マサルは!」
声を強張らせながら、いい返した。
「もう、帰られよ。マーニー嬢」
ダンブアが手を伸ばし、魔法陣を浮かばせた。
「お待ちください。お館様」
そこにグレダラスが、口添えをした。
「恐れ多くも。都築が目覚めたときに、人質として置いておいた方がよろしいかと思います」
ダンブアも、目を泳がせ。
手を握り収めた。
「それもそうじゃのぅ。ふむ」
「口を挟み申し訳ございません」
「よい。気にするでない」
「はっ!」
マーニーも、小さく息を吐いた。
どんな形であれ。
(人質でもいいわ)
マサルの傍にいられる。
(お姉さまが。きっと、来る!)
◆
『大ちゃんーもー帰ろうよー』
声を震わせていう烈に、彼女が。
『まだだ。まだだよ。ボクには、まだしなければならないことがある』
『……--あの子、のこと?』
『ああ。そうだよ、烈』
烈は宙に浮く靄を睨んだ。
靄は、すすす、と大の方に動いた。
『烈~~睨んじゃダメだよ。怖がっているじゃないか』
『……』
『大事な試験体だよ。未来を感じるよ』
手を挙げると、靄がまとわりついた。
『ああ。本当に、この異世界に召喚されてよかった』
◆
「!?」
マサルが目を覚ますと。
「ここは……??」
「都築! ああ、都築‼」
「グレ、ダラス?」
抱き着くグレダラスに、マサルは夢心地に見ていた。
とても、懐かしい声だった。
あれは、一体誰だったのか。
マサルは思い出せない、ものの。
「ふぁー~~」
グレダラスの肩に、マサルは顔を埋めた。
「!? つ、つつつ、都築??」
だらしない顔で、鼻血を垂らすグレダラス。
「俺。帰りたいよ」
短く漏らすマサルに、
「いや。それはーー無理だろうな」
グレダラスも、短く答えた。




