第六話 デコピン
堀から上がったびしょ濡れの都築を。
魔術で乾燥させたミウに、彼は息を吐く。
「ふう。ポンコツも役に立つんだな」
一応、感謝の言葉のようだったが。
「あのさ~~もう、ちょっとさ~~何か、言い方、間違ってないかな~~」
遠回しにミウも、言い返すも。
「あ゛? 元はと言やぁ~~ポンコツが、ポンコツのせいで、俺はここに居んだろうが!」
圧倒的な都築に、押されてしまい。
ぐぅの音も出ず、唇を噛み締めた。
「俺はサウナに入ろうとしてたんだよ!」
「何を内輪もめしているの? あんまり、騒がないでちょうだい」
アデルが、二人を制止する。
ここはーー《ホロスカ遺跡》なる、都築が初めて経験することとなる《迷宮》だ。
(こんなの、映画や小説の世界まんまじゃないか)
都築は辺りを見渡し、警戒するかのように目を細める。
それに、アデルは。
「そんなに警戒しても、お前に何が出来ると言うの? ツヅキ」
冷淡に聞く。
確かに、都築は何も出来ない異星人でしかない。
日本から、出たこともない。
いや、修学旅行にオーストラリアには行った。
かれこれ、九年前の話し。
だからどうした、と言う話しでもあるが。
「そうだな! 何もな!」
面白くない都築も、幼さのあるアデルに、大人気もなく言い返した。
「とっとと、案内しろョ」
「口が悪いなー~~ツヅキってばー」
背中でで、ミウが苦笑交じりの、小さく漏らしたつもりだったが、
「あ゛?」
都築に聞こえてしまう。
眼光鋭い、都築がミウへと振り返る。
ミウの身体が大きく震える。
「--……ッヒ!」
大きな目も、涙が溜まってしまう。
そして、背中から下ろされてしまう。
「ぁ、あの……」
そんなミウの額に、加減しつつ。
ピン!
「あぅち! っだ、だだだだ!」
デコピンをした。
「ポンコツは黙ってろ」
「ぅ、ううう~~」
額を抑えるミウを、アデルは見ていて、何かを言いかけようとしたが。
きゅ、っと口を閉じた。
「少しは黙って。仲がいいのは分かったから」
「あ゛! 仲がいいだぁ~~?!」
都築の表情が、怒りの顔に変わる。
それに、ミウも。
(そんなに嫌そうに、怒らなくたっていいじゃないかよー)
頬を膨らませた。
「さ。着いたよ」
俯いていたミウが、顔を上げると。
そこには。
「《ホロスカ遺跡》!」
地中にある遺跡にしては、以外と真新しい。
発見されたのは、最近さったからだ。
冒険考古学者のホロスカ・B・ラスタルjrが発掘をした。
ただ、その百年後の、今現在の話し。
彼の日記が、見つかり。
この遺跡が、再び、人間の目に姿を現したのだ。
そこに、アデル一向は発掘と称して。
盗掘しようとしているわけだ。
--恐らく。
都築は、そう思って居たし。
少なからず、良いことをしようとしていないだろうな、ぐらいに見ていた。
だから。
一刻も、早く。
ここから、出たかったし。
日本に帰りたかった。
「わ、わわわ! 僕も、あるのは知ってたけど! 洞窟の中に入ったことはなかったんだよねー~~ほわわー~~♥」
ミウの台詞に。
「知ってた、の? この遺跡を??」
ようやく、ここにきてアデルがミウに声をかけた。
ミウが、きょとんとした顔をする。
「え? この一帯の原住民と話すからー知ってるよー~~??」
「他の人は??」
「えー~~?? ほら、最近見つかったって大々的に報じてたし、知ってるでしょー~~」
ミウが真顔で、
「……だから、きっとーー原住民が赦さないよ」
アデルに釘を打つ。
見合う二人に、都築が間に入った。
「早く、お前んとこの隊長って奴んとこに、連れていけよ!」
不機嫌な顔で。
長い前髪が、一束垂れ、それを掻き上げた。
「俺は、関係がないんだよ! ったく!」
「関係なかろうと、あろうとも」
「あ゛? ポンコツ、なんだよ!」
「居ることで、マサルも原住民の的になる」
強い口調でミウが断る。
しかし、それは。
逆に言ってしまえば。
「そう。僕もーー裏切り者と罵られる」
眉間にしわがよるミウに。
都築も唇を突き出し、ミウを見下ろし言いたいことをまんま、吐き捨てる、。
「ま。仕方ないんじゃねェの? お前も、馬鹿なんじゃねェの?!」
「わ、かってるよ。馬鹿な真似したなってのは、正直……反省だってしているし」
涙声になっていくミウ。
「マサル。君を呼んでしまうことも想定していながっだじ」
「想定しとけよ、馬鹿じゃねェの?? 本当によォ~~」
「だっで、だっで。ぼぐだっで、うまぐいぐなんで、おも゛っでもいながっだじ!」
「だーかーらーよォ~~! 召喚練習だが、なんだがーー」
「れんじゅう゛!」
「練習で来るって想定もしておけよ! こんのポンコツ!」
都築は腰を屈め、ミウと視線を合わせた。
「ま。しゃねェから、お前は俺が護ってやるよ。横で、泣かれんのも、死なれんのも嫌だし、な」
はにかむ顔で、都築がミウの頭を撫ぜる。
「ほぁー~~♥ マサル~~君って奴は~~♥」
頬を紅潮させるミウ。
パシ!
「あぅち! っだ、だだだだ! ぅ、ううう~~」
都築は、二度目のデコピンをした。
そして、立ち上がる
「じゃ、てなわけで。連れてってもらおうか。アデル」