第五十七話 長い夜の終わり
『ボクは君のような、人たちに会ったことがあるよ』
そんな言葉が、都築の耳に聞こえた。
うとうと、と意識が遠のく中で。
(……人たち、ってのは? 意味、分かんねぇし)
舌打ちをする。
トポトポポーー……!
『結構、うん。ボクたちはいい友人関係にあったとは思うよ』
グラスの注いだ《人参茶》を覗き込むゲー・チー・ウー。
カラン、と中の氷が欠ける音が聞こえた。
『確か……うん。いや、いいや。でも、多分。君に近い種族だと思うよ』
グラスに口をつけ、飲み干していく。
だが。
都築が聞きたいことも、気になることも。
そんな言葉なんかじゃない。
『あ。一人、よく分かんない男が居たな。確か……江頭、保って言ったかな?』
(えがしら、たもつ……?? そんな奴、俺は……知らねぇし)
都築は大きくため息を漏らした。
『その男が、色んな奴らを招いててな。中々、面白かった』
喜々として語るゲー・チー・ウー。
ギシ! と立ち上がり。
大きく背伸びをした。
『平たく言うと。君は、帰れるよ』
聞きたかった言葉に、都築の身体が反応した。
それに、ゲー・チー・ウーの口から息が噴き出す音が鳴る。
馬鹿にされているのか、なんなのか。
都築には分からなかったが。
どうだってよかった。
(かえれ、る?? 日本に?? まぢ、か……)
『ただ。それによって、君を呼び出した魔術師に代償は発生することとなる。命のね』
都築を呼び出したのは、自称天才美少女魔導士なるミウ。
それは紛れもない事実だ。
『つまり。鎖を断つということにもなるからさ』
ゲー・チー・ウーが手をハサミの形にして動かす。
『打った杭を叩きつけた人間に災いがいき。地上から除外されるんだ』
(よく、分かんねぇなんだけど……ついていけねぇよ)
徐々に、ゲー・チー・ウーの顔が、都築に詰め寄ってくる。
目の中いっぱいになる。
『それでも君が構わないのなら。ボクが今すぐにでも、君を帰してあげるよ?』
ゲー・チー・ウーの問いかけに都築自身。
なんて返したのか覚えていなかったが。
すぐに、
『そっか。いいよ、それが君の望みなら。ボクは達観させてもらうよ。でもね? これだけは覚えておきなね。君の選択肢次第でーーここ、《腐海岸》が危険にさらされるようなら、その魔術師の命を対価に、君を元の世界に帰すよ』
強い口調の言葉が浴びせられたが。
都築の意識はなく。
次に目を覚ますと。
「お! 置きやがったかァ‼ この不良息子がァ~~‼」
「っへ? 出口、さん??」
間近にあった入江の顔に、思いっきり身体を引く都築。
辺りを見渡すと、
「ここは、ガーナの……俺の、家に」
嗅ぎなれた匂いを、都築は深く吸った。
そして、息を吐き出す。
「帰って来たんだ……」
ぷ、っはァーー~~っっ!
「!? っご、っほ、ごほほ! っで、ぐちサン」
安堵の息を吐く都築に入江が吸っていた煙草の煙を顔に吹きかけ、
「お帰り。マサルちゃん♪」
にこやかに、煙草を吸った。
すぅーー……。




