第四十六話 歯車
「おい! 馬鹿‼」
入江が都築の行動に、腕を伸ばすも。
届かずーー声だけをかけた。
都築は、走る黒装束を蹴り上げ。
「っが、っは?!」
その蹴った黒装束の上に乗り上げ。
周りの黒装束たちを蹴飛ばしていた。
強い衝撃と、激しい痛みに。
あっという間に。
黒装束の連中を、地面に寝ころばせていた。
「ふん!」
そして、身体を翻し。
獣の女の子の背中を追おうとした。
「手前! 何をするつもりってんだよ!」
「離して下さい! 出口サン‼」
「い~~や! 離さねェ‼ 絶ッッ対にだ!」
「いいから! 離せ‼」
掴まれた腕を掴み。
小さくなった身体を浮かせ。
「つってるでっしょ~~がぁ‼」
入江の顎を蹴飛ばした。
「!?」
あまりに、唐突もない攻撃に。
入江の手が、都築の腕から離れてしまう。
「あ゛‼ マサル! おい‼」
都築の背中が、小さくなっていく。
取り残された入江に。
「あの餓鬼の、仲間か??」
低い口調で、黒装束が言う。
それに、入江も。
「だから、なんだって言うんだよ! あァ゛ん゛??」
入江の手に、赤い粒子が集まり。
弓になった。
「ったくよ~~ッッ‼」
そして、矢を放ち。
黒装束を蹴散らすのだった。
◆
「‼」
辺りに衝撃音と、閃光が奔った。
都築は、振り向くことをしない。
それを起こした犯人を知っているのと。
小さな背中の少女を見逃さないようにだ。
その閃光と、衝撃音に。
辺りにいる住民たちが騒ぎ出し。
ようやく、ここで。
少女も立ち止まりーー振り返った。
「コロ!」
そう都築が、少女に声をかけていた。
「?? な、何??」
「やっぱり、コロだ!」
「ここ、コロ??」
「俺が、飼ってた犬」
一歩踏み出し都築に、少女は。
一歩、足を引いた。
「人、違いだわよ?」
得体の知れない都築に、怯え切っていた。
「うん。それは分かって居るんだ。でも」
都築が、少女に駆け寄り。
抱き着いた。
「抱き着きたくて、溜まらなかった」
もふもふ、と顔を埋める都築。
少女はどうしていいものなのか。
狼狽えてしまっていた。
「っそ、それだけでーー……ぼくは」
そして、肩に手を置き引き寄せた。
「あたしを追い駆けて来たの??」
「そうだよ」
「変わった子だわね~~」
満足したのか顔を上げると。
都築の顔も、髪も。
少女の毛だらけになっていた。
「あらあら」
少女は都築を背中に置き。
四本足で、走り出した。
「一緒に来て貰いましょうか!」
「?! ぅ、おぉう??」
「どうせ、ぼくも狙われることに違いはないもの」
器用にも、人の隙間をすり抜けていく。
「コロじゃないわよ。あたしは」
「ああ。それは、うん。分かってます」
「あたしの名前は! アネリだわよ!」
聞き取れなかった都築は、
「もっかい、お願いします!」
聞き返したので、
「アネリ! アネリ! アネリよ!」
声を高らかに、獣の少女ーーアネリが答えた。
それに都築も、自己紹介をした。
「俺の名前はーー都築マサルです」
この出会いで。
この異世界はーー彼を知るのだった。
偉大にして、要注意人物となるーー彼。
都築マサルを。




