第三十三話 復活のI
「イリエ、ツヅキが居ないの」
寝ていた入江をアデルが揺り起こす。
しかし、入江は起きない。
「……トイレじゃねェの~~? いちいち」
夢心地に、入江も言い返した。
「違うの」
アデルが入江の身体を、手で叩く。
しつこいアデルに、入江もようやく起き上がった。
「なんだって言うんだよ! 手前は!」
「連れ戻してきて欲しいの」
「手前が行け!」
眠い入江は、苛々とした口調で言い返す。
ただ、アデルも切り返す。
「おれのレベルじゃ無理なの。だからこうして、嫌々、お前に相談している」
「はァ?! 俺に何が出来るってんだよ!」
アデルと、入江が見つめ合う。
「連れ戻すことが出来るはずよ」
確信に近い言い方をするアデルを無視するかのように。
入江が寝た。
「! イリエ!」
「んな心配しなくたって、戻ってくっから。あいつを信用しろよ」
「…………本当に、戻って来るかしら」
「ああ」
布団越しに短く言う入江に、アデルも。
渋々と納得いかない様子だったが、部屋に戻って行った。
その音を耳で確認する。
(《きちんと、いい子にベッドに入ったようだな》)
器に過ぎなかった入江に、確実に《入江出口》が形成されていっていた。
がばっと入江が起き上がった。
そして、部屋の窓を開けた。
温い風が顔に吹き当たる。
「『ああ。いい風だなァ』」
煙草を取り出し、火をつけた。
すぅー~~……。
ぷっは~~ッッ‼
「『あの馬鹿は。本当に馬鹿なんだな!』」
入江は眉間にしわを寄せる。
すぅ。
ぷっは~~……。
「『やれやれだな。おい、愛聞いてんだろ?』」
--なんで、俺に言うんだよ。手前は。
「『女の諍いに、男の俺が行くのは、色々とて加減出来る気がしねェのよ』」
--ははは! 手前が手加減て言葉を聞くと、背筋がぞっとすんな。
「『だから、愛。頼むよ……姉さん』」
ーー仕方がねェなァ。
ボコ、ボコボコ。
--身体、貰うぜ。俺の可愛くない弟さん。
「『ああ。出来れば、無傷で帰って来て欲しいもんだな』」
--それは、約束出来かねるなァ。
足元の影が、足にまとわりつく。
そして、上に登っていく。
太い足が、細くなり。
太いウエストも、細くなり。
太い腕も、細くなった。
短い髪が、腰まで伸びた。
平らだった胸も、ささやかながらに膨らんだ。
「っは! ああ~~いい風だぜェ!」
バサバサ、と風で髪がなびく。
--おい! とっとと行けや!
「本当に、口の悪い弟君だなァ~~ふぅ♪」
そして、窓から身体を投げた。
ひゅん。
愛の腕が羽根に変わっていた。
「じゃ、っま! 馬鹿な後輩君の元に急ごうか!」
真剣な表情で、愛は、ミウの屋敷に向った。
実は都築がミウに会ったこと。
実は都築が、この家から出たこと、を。
入江は知っていた。
「歯痒いのは分かるさ。力が戻ってないっては哀れなもんだ」
それでも、動けなかったのは。
入江自身が、きちんと形成されていないからに、ほかならない。
ただ、形成ーー復刻出来たものがあった。
《入江愛》である。
力は以前と同様に。
「ははは! 俺が全部、めちゃくちゃにしてやんよォ♪」




