第二十九話 執事 グレダラス
「いらっしゃいませ。マサル様」
ミウの屋敷で都築を出迎えたのは。
「お前は……執事の」
「グレダラス、だ」
微笑んだ顔とは相違して、声は低い。
喧嘩口調だった。
都築は、ふぅん、と相づちを打つと。
「ポンコツはどこだよ」
グレダラスは、都築の放った言葉が癪に障ったのか。
強い口調で、聞き返した。
「! ポンコツとは、ミウお嬢様のことですか?」
「そいつ以外に誰がいんだよ」
素っ気なく都築も言う。
真っ暗な玄関で、二人が睨み合う。
「ポンコツがポンコツなら、傍にいんのもポンコツかよ」
「こ、のォ……言わせておけばァ!」
都築に襲いかかろうとしたグレダラスに。
「待ちなよ、グレダラス! ちょ、ちょっと!」
そこへ、ミウがやって来た。
待ってても、来ない二人を伺いに来たわけだ。
そしたらば、こんな現場に遭遇してしまった。
階段を二弾飛ばししながら、駆け寄って来るミウに。
「おおお、お嬢様! そんな危ない真似をなさってーー」
っずる。
「!?」
ドン! ゴン!
ダダダ、ッン‼‼
勢いよく都築の傍まで、転げ落ちてしまう。
その様子を、都築は腕を組みながら見ていた。
手を差し伸べることもなく。
「何、やってんだよ。ポンコツ」
冷淡に、ミウを見下ろす都築。
「っへ、へへへ」
「馬鹿奴だな。ったく! ほら!」
はにかんだ表情で都築が、ミウに手を差し伸べる。
「マサル~~♪」
ミウも手を指し伸ばすも、彼が阻止する。
執事のグレダラスがだ。
「君の手など、お嬢様には必要ない」
パシ! と払い叩きミウの手を掴み、立たせる。
ミウは、頬を大きく膨らませていた。
そんなことお構いなく。
「お嬢様には、私がいますから」
恍惚に、グレダラスが言い張った。
「……キモい奴だな」
「でしょ~~」
うんうん、とミウも頷く。
「!? ミウお嬢様??」
泣きじゃぐってしまうグレダラス。
「で。コントはいい」
都築は真剣な表情をし、ミウに尋ねた。
「お前は俺に、どんな美味い話しをしてくれんの?」
あくまでも都築はビジネスで来たのだ。
こんな街よりも遠い、屋敷にまで来る趣味はない。
会いたくて、とか。
そんな気持ちはない。
「--……うん。それには、もう一人、呼んでいるんだよ」
ミウは唇を突き出しながら言う。
「?? はぁ?! 誰だよ」
「今に分かるよ♪ さ、行こうよ」
ミウの手が、都築の手を握る。
とても、柔らかく。
か細いーー手の感触。
「……ああ」
都築は眉間にしわを寄せ、小さく頷いた。
「近い、近いですよ。ミウお嬢様」
いい雰囲気の中、グレダラスが割って入る。
「そんな、どこぞの馬の骨かも分からな」
「僕の《使い魔》だ。どこぞの馬の骨なんかじゃない」
グレダラスの言葉を遮るように、ミウも言い放った。
「ツヅキマサルは、僕だけの僕だ」
ミウはグレダラスを避け、都築を目の前にした。
瞬間。
ぴし!
「あうち!」
都築に、デコピンされた。
「ミウお嬢様ーー~~ッ!」
「誰が使い魔だ! 誰が僕だ!」
「君は、なんて真似をす」
グレダラスが、都築に顔を寄せた
その瞬間。
ピシ‼
「ふぁ゛‼」
次いでグレダラスの鼻を都築の指に追撃された。
「っだ! たたた!」
立ち上がり、鼻先を抑えるグレダラス。
ミウも額を抑えたっきりだった。
それを都築は見下ろし。
「ポンコツ共。早く、ビジネスの話しをしようじゃないか」




