第二十五話 メイレーと、マーニー
(っち! この女……殺気が)
都築はメイレーを睨んだ。
その都築に、メイレーが微笑む。
玩具を見つけた子供のように。
「本当に、大きな鼠もいたものだな」
都築は、浴槽に潜った。
ブクブクブクーー……。
ここ。
浴槽は、天然の湧水でもあるお湯を、そのまま使っていた。
つまりは、逃げ道もあると。
そう都築は思ったのだ。
(あんなんと、戦ってられるかよ)
底へと潜る都築に、
「この私から、逃げられるとでも、思って居るのか? 手前は」
メイレーの低い声が、耳に聞こえた。
かなり、潜ったというのに、だ。
すぐ、隣にいるのかのように。
(こいつぁ、無理だな)
都築は観念し、上へと戻った。
ばっしゃーーッッ‼
お湯の中に潜っていたため、都築の身体は、真っ赤だった。
「っは、っは、っは!」
顔の鼻先に、メイレーの杖が当てられた。
それを、都築が掴む。
メキ! と鈍い音が聞こえた。
「っつ!」
杖が折れる音ではなく。
都築の手首の、骨が軋む音だ。
その痛みに、都築の手が杖から離れた。
「くそ女!」
都築が口を大きく開き罵る。
「いい度胸だなぁ、手前は! いいぜぇ、気に入った」
「気に入られたかないね」
言い合いながら、都築は逃げ道を練った。
まず。
このメイレーをどうするか、を。
(そうだ。あんまり、使いたくないが)
都築は腕を伸ばした。
「!? 手前、汚ねぇ真似しやがって!」
メイレーの目が細められた。
「ふん。使える手があれば、使うのが鉄則だろう?」
腕の中には。
一糸まとわない少女がいる。
(このままズラかろう)
彼女の名前はーーマーニー。
「……お前、逃げないと……」
メイレーの、実の妹である。
気がついたマーニーに、都築も驚くも。
「いいから、気を失ってるふりしとけよ。面倒だから」
「お姉さまを、怒らせる方が面倒なのよ?」
「俺は、こっから出たいだけなんだよ!」
「それは無理だよ」
するり、と。
マーニーは、都築の腕をすり抜けた。
「これ以上、お姉さまを怒らせないで」
浴槽の中を泳ぎ、メイレーの元へと行くと、手が差し伸べられた。
マーニーも手を伸ばし、手を握った。
ばっしゃーー……ッ‼
メイレーは、その手を引っ張り上げた。
お湯の上に二人は立った。
そして。
都築を見下ろす。
「さて。どう料理してやろうかな? ふふふ」
ぞわ。
ぞわわ!
「くそったれが!」
歯を噛み締めながら、都築は、そう唸った。