第二十四話 令嬢の魔導士
浴槽から上がろうとする都築に。
「おい! こいつは厄介な人間を巻き込んだもんだなァ! 手前は‼」
浴槽の底から、浮上してきた一糸まとわない格好の女の子。
その顔を入江が見た瞬間。
背筋に、冷たいものが伝った。
こんなにも、温かい空間だというのに。
「あ?? 知るか、んなもん」
入江の掴む綱に手をやり、掴み上がろうとする。
そんな他人ごとのような都築に。
「やっばいって! こいつァ、まぢで、ヤバイかんな?! 手前は~~!」
首を絞め、大きく都築の身体を揺らす入江。
眉間にしわを寄せると、入江を蹴飛ばした。
あまりに、想像しなかった行動に。
入江の身体も、浴槽に落っこちてしまう。
ぼっちゃーーーーん!
「おい! 手前‼ っざっけた真似しくさってんじゃねェぞォ~~‼」
びしょ濡れになった入江が、そう吠えるも。
「いいから。行こうぜ。起きられたほうが厄介だろ」
猫が左で抱きしめながら、上がっていく都築。
横に、浮かぶ女の子を見て。
「ま。しゃ~~ね、っか」
入江も、口元を引きつりながら。
そして、屋根に戻る。
その間。
都築の目の前に影があった。
「--……お前は、誰だ?」
濃い紫の長い髪を左右、三つ編みにし後ろでまとめ、 仁王立ちする女性が立っていた。
腰を置かれた手のひらには、茶色い杖が握られている。
「何? 私を知らんとな?」
「知るか」
喧嘩腰にいう都築。
「この屋敷の者さ。で、手前はこそ泥かい?」
都築は、猫を持ち上げた。
「おや♡ 可愛いじゃないかぁ~~♡」
女性は都築に駆け寄った。
「懸賞金がかかってる、猫を追って来たら、こびーー……」
女性の腕が、都築の顔めがけて飛んできた。
「!?」
それに驚いた都築が、後ろに身体を、仰け反らせる、と。
「っく! っしょう、が!」
登ってきた穴に、落っこちてしまう。
ぼっちゃーーーーん!
入江は、巻き込まれずにすみ、ほくそくんだ。
「ほぉ。手前も仲間か? このこそ泥の」
「‼ 手前は!?」
入江の顔から、血の気が引いていく。
「手前は、私の名前も、正体も知ってるみてぇじゃねぇの」
女性は、入江の額を手で弾き、浴槽の上に降り立った。
まさしく、お湯の上に、立っているのだ。
都築も、浴槽から身体を起こし、女性に。
「くそ女! 木端微塵にしてやろうか!?」
都築が拳を握り、前に突き出した。
女性は勝気な瞳を、都築に見下ろすと、口を開いた。
「私はこの屋敷の令嬢にして、天才魔導士。手前なんか、私の足元にも及ばないのだぞ?」
都築も不適に言い返した。
「あっそ。口だけなら、誰でも言えるだろうさ」
上で、入江が腕をばたつかせていた。
そんな入江に、都築は猫を放った。
「そいつを、あいつらんとこか、飼い主んとこに持ってけ!」
なんとか、入江も、猫をキャッチし。
言われなくとも、とばかりに逃げて行った。
「あ~~ぁ。味方、いなくなちゃってぇ~~いいのかなぁ~~??」
彼女は、本当に。
この屋敷の令嬢で。
名をーーメイレーと言った。
本人も、言ったように。
天才魔導士だった。




