第二十二話 都築マサルの不運
「退け! 退けって!」
「っきゃ!」「おおっと!」「どこ見てやがんだァ‼」
通行人を押し分けて突き進んで行く。
掌に握り締められた紙を、都築マサルが開いた。
そして、前と紙を見比べる。
「ん」
紙にはこう書いてあった。
《猫を探してます。名前はアンナ。懸賞金はーー三000ゼルダ》
一ゼルダーー日本円で言えば、多分、一円である。
おおよそ、多分、三千円の収益だ。
捕まえられればだが。
「猫っつ~~のは! なんだって、早いんだよ! っち!」
都築は下半身に布を巻いていた。
走るたびにめくれるも、下は履いている。
◆
《ホロスカ遺跡》から転送されたのは。
何故か。
ミウの屋敷の、玄関だった。
ぽかんとしていた四人に。
執事は、取り乱すことなく。
「おかえりなさいませ。ミウお嬢様」
その声に、どこからともなく侍女たちも集まり。
「「「お帰りなさいませ。ミウお嬢様」」」
異様な光景に都築が、横にいるミウを見てしまう。
「おい。これは、なんだ? お前、……令嬢とか、そんなん?」
「まぁね。すっごい金持ちだぜ? 僕の親は、ね♪」
棘のあるミウの言い草を、都築は無視し。
立ち上がった。
「俺を帰せるんじゃねぇの? お前の親って」
「『それはないな。ないない! 安易な発想だね~~マサルちゃんてっばさ』」
入り江が、そう都築に声をかけた。
「! ちょろちょろと、出るぐらいなら、そのままを維持しろよ!」
「『無理っすわァ~~ブー~~!』」
「お前、子供かよ!」
詰め寄る都築に、入り江が耳元で囁く。
(こっから出ないと、おっかないおじさんが来ちゃうよ♪)
「--……おい、ポンコツ。じゃあな!」
一刻も早く、都築も出たかったこともあり、ミウに声をかける。
「っちょ! ちょっと、っちょっと! どこに行くのさ! 君は!」
慌てながらミウが、都築に詰め寄ろうとするも、足が引っかかって転んでしまう。
ばったーーん!
「っち。このポンコツは。しょーーもない」
都築も苦笑し、手をさし伸ばした。
ところを。
ジャキン!
ジャラララーー~~……ッッ‼
ミウは魔術を発動させていて、都築の身体を光の鎖で拘束した。
「おい。これはなんの真似だ。ポンコツ!」
「僕から逃げようとするからだよ。当然だろう」
冷淡な表情を向けるミウ。
「君は、僕が召喚した、僕の使い魔だ」
その言葉に。
執事、侍女たちがどよめいた。
「み、ミウお嬢様?? それは、誠でございます、か??」
「グレダラヌ。僕が、君にウソをついたことはあるかい?」
執事のグレダラヌは、この屋敷の執事をする家系に産まれた。
ミウ専属の執事だ。
オラクルを左目につけ、険しい顔つき。
が。
頬を、紅潮させ、目を潤ませている。
ついには、手袋をした手で、目元を覆う。
ぐす。
ぐすすすーー……。
またしても、異様な光景に。
「あああ、アデル。お前に《呪術者》として頼むから! この鎖を解いてくれ! あいつ、おかしいから!」
都築の懇願に、ゾクゾク、と身を震わせるアデル。
「いいよ。その代り、分かっているよね? マサル」
ブンブン‼
解放されたくて都築は、大きく頷いた。
「いいよ」
アデルは手を前に伸ばした、すると。
光が集まりーー長い杖になった。
(ちょっと、力が弱いのは。あの魔術師のせいね)
くるん。
ひゅん!
◆
「よっしゃ! 捕まえ、たーー……あ゛?!」
捕まえたはずが。
一緒に行った場所が、屋根の上で。
足元が抜けた。
猫を抱えたまま、都築は下に真っ逆さまだった。




