第十一話 入江出口の憂鬱
俺が目を覚ますと。
そこは、異常な空間が広がっていた。
「っこ、ここは??」
辺りを見渡しても、職場のゲーセンなんかじゃねェ‼
裸に、腰にタオルを巻いた大男が立って居た。
おい、目の前に立つんじゃねェよ!
「一歩下がれよ! 丸見えなんだよ! 手前の租チンが‼」
腕を組み、苦虫を噛んだような表情で、俺を見下ろす男。
眉間にしわを寄せ。
「見なけりゃあいいだろうが。馬鹿かよ」
口悪く、俺に吐き捨てやがった。
なんなんだよ、このムカつく野郎は!
殴ってやろうとしたのに!
腰が立たない。
立たない??
「? 腰抜けたの? 間抜けだね。面も間抜けなのに」
歯に着せない物言いに、
「手前は誰なんだよ! ムカつく野郎だなァ‼」
「まず、礼儀的に。お前が名乗れば?」
名前??
「--……入江、出口?」
その言葉が浮かんだ。
おう。
俺の名前だ。
「入江出口! 銀河エンターテインメントのコインコーナーの従業員で、19歳だ。これでいいんだな?!」
男は、俺を見下ろす。
威圧的にだ。
「ーー……都築マサル」
ん?
都築マサル??
そう言うと、男ーー都築は、俺の腕を掴み上げた。
「っつ! ぃた」
引っ張られた腕の痛みに、俺は、そう漏らしてしまう。
なんっつー~~馬鹿力なんだよ!
手前はー~~‼
「額、広いよね。禿だな」
「!禿じゃねェ~~し‼」
「小林店長や、五十嵐チーフにも。からわれていたじゃん」
小林、店長?
五十嵐チーフ???
「小林チーフ、ち五十嵐さんを知ってんのか?! 手前‼」
抱きかかえられたまま、俺は噛みつくように言う。
なんでか、あいつを思い出しちまうな。
同姓同名、だからか?
でも、俺の知るあいつは。
「手前、何歳だよ」
「言う必要が、あんの?」
冷淡に吐き出すこいつは、人間の血が流れていないように思えて来た。
「別に言う理由もないけど、言わない理由もないし。26歳」
(年上なんか……じゃあ、単なる同姓同名か)
「そんな化け物を見る目に見んなよ」
さらに、眉間にしわを寄せる都築。
「……何? 俺の名前に、心辺り、あんの?」
「!?」
あいつも、いつも眉間にしわを寄せていたなァ。
可愛気もない野郎だ。
可哀想ってのもあったが、どうにも、無視することも出来なかった。
泣いているように見えちまうから。
「ちょっとばっかし。知り合いのクソ餓鬼を、思い出したんだよ」
俺が、そう苦笑交じりに言うと。
ん?
泣きそうな顔をしやがった。
ああ。
こいつは、あいつと同じで。
怒っている俺と同じだけど、違って。
いつも。
泣いてんだな。
「で。ここはどこなんだよ。都築ちゃん?」
カカカカカ!
都築の顔が、真っ赤に染まりやがった。
ああ、可愛いったらねェなァ~~wwwww
「二人の世界は、そこまでにしてもらうぜ? 禿!」
「はァ?! 禿じゃねェし!」
「禿だよ」
念を押すのは花が頭に乗ってる、女の子だ。
んー~~多分。
……女の子だ、ろう。
最初に禿って、罵ったツインテールは、女に間違いはない!
にゃろう~~っっ。
「ここはーー《ホロスカ遺跡》」
ポニーテールの……男??
ゴン太な眉毛が雄々しい。
「《迷宮》だよ」
混乱する俺を、都築が背負った。
「っよ、っと!」
「おい! っちょ、おい! 何、しょってんだよ!」
「……こんなところに、置いて行かれたいのか? いいなら、下ろすよ」
下ろそうとする都築!
「っま、待て! いい! しょってっていいから!」
「てか。軽っ!」
「あ゛ー~~最近、忙しくてよォ~~7キロ痩せたわ!」
笑う俺に。
「太らせよう……」
不敵に都築が、そう言ったように聞こえた。
「おい。なんか言ったか??」
「何も。難聴なのかよ」
「ぐ、ぐぬぬぬ~~」
「ほら! 漫才はいいから。《迷宮》に入るよ!」
ツインテールが、そう満面の笑顔で言う。
こいつが、リーダーなのか。
「--……え? 俺も??」
背負われた俺も、強制的に入る羽目になった。
「俺も??」
嫌な予感しかしねェんですけど~~‼