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出て行きなさい

白雪姫登場


途中視点が定まらなくてわかりにくいかも知れないです




 白雪はとても幸せでした。


 父親から溺愛され、周り中から花よ蝶よと誉めそやされ、願い事は何でも叶えて貰えます。

 誰に訊いても白雪以上に美しいひとはいないと言われ、何をしても愛らしいと誉められました。


 まるで万能の神にでもなったつもりで、白雪は今日もお城を歩きます。

 白雪の周りは何時でもひとで溢れ、寂しさなんて、感じた事もありません。


 それはまさに、王妃さまがまだ姫君と呼ばれていた時に受けた待遇そのもの、いいえ、姫君以上に優遇された待遇でした。

 美しくも小国の姫でしかなかった王妃さまは王女として厳しい教育を受け、身分を弁え国王に従う様に躾られたのに対し、恐いもの知らずの大国の王女である白雪は、好き放題に振る舞う事が許されたのですから。


 けれどそんな万能の神白雪にも、許されない事がありました。

 それは、父である国王の仕事の、妨げになる事。


 公務だからと父から引き離された白雪は、不満に頬を膨らませてお城の廊下を歩いていました。

 お付きの侍女たちが苦心してご機嫌取りをしますが、白雪の不満は消えません。


 憤りに任せて適当に歩き、気付けば普段は訪れない場所にいました。


 たくさん階段を昇らなければ辿り着けないお城の最上階。驚くほど人気の無い廊下には、豪奢な扉と簡素な扉がひとつずつ。

 高い位置だから下階に比べて狭い空間とは言え、それでも大きな城の最上階に、あるのは部屋がひとつだけ。


 疑問に思った白雪は、傍らの侍女に訊きました。


「あの部屋は何なの?」

「あれは王妃さまのお部屋です。遠い他国からいらっしゃった王妃さまが、この国を良く知れる様にと、国王さまが一番眺めの良い部屋をお与えになったのです」


 そう言えばそんなひともいたわねと、白雪は頷きました。

 王妃さまの事はあまり良く思っていません。会う度に、あまり我が儘は駄目だとか、お稽古をさぼってはいけないとか、お小言ばかり言うからです。

 しかも王妃さまは、白雪を見ても見惚れたり賞賛の目で見たりしないのです。


 王妃さまは母親として我が子を案じて助言をしているだけですし、どんなに持て囃される白雪の顔も、王妃さまからすれば自分の若い頃の顔を見ている様なものなので、見惚れないのも当然なのですが。


 けれど今の白雪は父である国王さまに不満たらたらなので、ろくに話した事も無い母親に、甘やかされたいと考えました。


 ノックもせずに、白雪は扉を開きました。部屋の人間に了解など得なくとも怒られた事の無い白雪は、扉を開けるには了承が必要であると言う、当たり前の礼儀すら知らないのです。

 幸いにも王妃としての公務を終えて戻ったばかりだった王妃さまは、泣いたりせずに鏡台の前に座っていました。窶れた顔を誤魔化す化粧を落とし終え、一息吐いて鏡と話そうと思っていた所だったのです。


 突然の来訪者に驚いて振り向いた王妃さまは、慌てて持っていた鏡を布にくるんで隠しました。


「白雪。どうしたのですか?ひとの部屋に入る時は、きちんと部屋の主の了解を待たなければいけませんよ」


 立ち上がって白雪に歩み寄った王妃さまは、そう言って白雪を叱りました。


 白雪は王妃さまの言葉など聞きもせず、鏡台に置かれた鏡を気にしていました。

 すぐに隠されてしまったけれど、繊細で優美な装飾を施された美しい銀の手鏡は、白雪の心を一瞬で奪ったのです。


「あれは何?」


 鏡を指差して、白雪は訊ねました。


「白雪、喩え母とは言えわたしは王妃です。言葉遣いには気を付けなさいね。鏡台がどうかしましたか」

「鏡台じゃなくて、そこに置いてある布の中身よ!何か隠したでしょう!?」


 王妃さまのお小言なんて聞こうともしない白雪に、王妃さまは我が子の未来を案じました。今はそれで良かったとしても、何時までもものを知らないまま許される訳ではありません。


「白雪、最低限の礼儀も弁えられないならば、この部屋から出て行きなさいな。あなたの様な礼儀知らずな娘を、我が子に持った記憶はありません」


 きっぱりと言って、王妃さまは白雪を部屋から追い出しました。

 言葉でわからないなら、行動で理解させる。王妃さまがやられた教育方法でした。


 侍女も含めて廊下に追い遣ると、王妃さまは眉尻を下げて侍女たちを見ました。


「あなたたちも、白雪が愛らしいのはわかりますが、年長者として教え導く姿勢も必要ですよ。我が儘を聞いて甘やかしてばかりでは、白雪のためになりません。どうか白雪があなたたちの様な、素敵な淑女になれる様手助けしてあげて下さいな」


 白雪よりも聞いてくれるだろうと、王妃さまは侍女たちにお願いすると、しゃがんで白雪と視線を合わせました。


「白雪、あなたは王族なのです。いずれこの国の女王になるか、王妃や貴族の夫人になる身。礼儀と教養を身に付けなければ、身を滅ぼす結果に繋がりますよ」


 少しでも伝われば良いと思いながら、王妃さまは真摯に白雪に語り掛けました。

 柔らかな髪を、そっと優しく撫でます。


「あなたが淑女の嗜みを身に付けたら、わたしとお茶をしましょうね。布の中身も、その時に教えますから」


 最後にぽんと白雪の頭をひと撫でし、王妃さまは白雪の目の前で扉を閉ざしました。

 かちゃりと響いた錠の音が、はっきりと拒絶を示していました。


 白雪は呆然と、閉ざされた扉を見つめました。

 仕事を理由に仕方無く断られた事を除き、白雪が拒絶される事なんて、今まで無かったのです。

 始めは理解出来ずに頭が真っ白になりましたが、だんだんと怒りが湧いて来ました。


 足音高く足早に最上階から離れると、憤怒も露わに叫びました。


「何っなのあの女は!?」


 王妃だか母親だか知らないけれど、白雪のお願いを聞かないなんて有り得ない。


 憤る白雪に、侍女たちは困った顔をしました。

 王妃さまは決して、間違った事を言っていないのです。今の様に臆面も無く怒鳴り散らす姿は、幾ら愛らしい白雪でもみっともなく見えてしまうのですから。


「白雪さま、この様な場所で大声を上げては、」

「あなたはあの女に味方するの!?」


 意を決して白雪を諌めようとしたひとりの侍女を、白雪はきっと睨み付けました。


「ですが、王妃さまも白雪さまを思って、」

「何よ!!あなたなんか父さまに言い付けて、クビにしてやるんだから!!あの女だって、父さまに怒られれば良いんだわ!!」


 先刻まで国王に不満たらたらだった事も忘れてのたまった白雪の言葉に、侍女はさっと青醒めます。王妃さまならばともかく、たかが侍女など白雪の一言で、簡単に辞めさせられてしまうでしょう。

 国王は白雪を、溺愛しているのですから。


「白雪さま、王妃さまの持っていた布の中身ですが、私聞いた事がありますわ!」


 青醒める同僚を哀れんだ別の侍女が、慌てて白雪の興味を逸らそうと話題を振りました。


「あれは王妃さまが祖国からお持ちになられた品で、何でも特別な鏡だとか」

「王妃さまの鏡の話なら、私も聞いた事があります。王妃さまはあの鏡をそれはそれは大事にしていて、何時も布でくるんで隠して、誰にも、そう、国王さまにも触れさせないんですって」

「そうそう。王妃さまは普段穏やかでお優しい方だけれど、うっかり鏡に触そうになると、とても厳しく注意されるって、聞きましたよ」


 一人目の意図を理解した侍女たちが、口々に鏡について語り出しました。


「私は魔法の鏡って聞いたわ」

「私もそう聞きました。王妃さましかいないはずのお部屋から二人分の話し声が聞こえて、こっそり覗いたら王妃さまが鏡と会話してたって」

「それ、私も聞いたわ。侍従長が見たって言うやつでしょう?」

「あら、私はローサが見たって聞いたわよ?」


 途端に姦しくなる侍女たちの会話の中で、白雪はひとつの言葉に耳を留めました。


「魔法の鏡?」


 白雪が話題に食い付いた事で安堵した侍女たちは、興奮気味に頷きました。


「ええ、魔法の鏡です」

「喋る鏡なんですよ」

「喋るだけじゃなく、願い事も叶えてくれるのかも。だって王妃さまは、あんなに美しいんだから」

「鏡を覗くと美しくなるのかも!」


 わいわいと好き勝手に話す侍女の言葉を聞いて、白雪はますます鏡に興味を持ちました。


「欲しいわ、その鏡」


 白雪の一言で、侍女は突然静かになりました。


 今まで白雪が欲しいと言って、手に入らなかったものはありません。

 けれど鏡は王妃さまの宝物。王妃さまがどれほど鏡を大切にしているか、侍女たちは知っているのです。

 王妃さまが祖国から持って来た宝。奪って良いものではありません。


 けれど誰も、白雪を諌められませんでした。

 白雪の怒りを買って、国王に告げ口されるのが恐くて。


「そうよ。父さまにお願いするわ」


 にっこり笑った白雪に、答えられる侍女はひとりもいませんでした。






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


はっちゃけ過ぎて白雪の性格がとんでもないことに…


この先も読んで頂けると嬉しいです

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