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遅過ぎんだよ、バカ

引き続き

残酷描写、暴力描写、流血描写があります

苦手な方はご注意下さい


 呆気無いほど簡単に、王妃さまの首は落ちました。

 ころん、と転がる首。噴水の様に血を吹き出す胴体。

 鞠の様に床に落ち掛けたそれと、ゆっくりと倒れかけたそれは、何も無い所から現れた腕に、受け止められました。


「…呼ぶのが、遅過ぎんだよ、バカ」


 夥しい返り血を浴びるのは、鏡面の様な白銀の髪。


「な…ボス!?」


 突然現れたその姿に、床に座り込んだ白雪が声を上げます。皇子たちが禍々しい血の噴水に言葉を失っている中、六年の下女生活で猪の解体すら出来る様になった白雪だけは冷静とは言えないまでも状況を見渡せました。

 血塗れで王妃さまを抱き寄せた殺し屋のボスが、不機嫌そうに片目を眇めて白雪を見下ろします。


「漏らしたのかよ、汚ぇな。…多勢に無勢で女ひとりここに連れ込んでいびって、楽しかったか?はんっ、胸糞悪ぃヤツらだな」


 ぎゅっと王妃さまを抱き締め、肩に顔をうずめて、ボスは視線を落としました。


「最期まで誇り高く死んだのか。…あんたの死に様は、オレがちゃんと世界中に伝えてやるよ。卑劣な帝国に貶められた気高い王妃さまとしてさ。あんたの死は、無駄にしねぇから」


 普段の彼からは想像も着かない優しげな声に、白雪がぽかんと口を開きます。

 漸く何とか持ち直したらしい第一皇子が、座り込んだままながらボスへ警戒の視線を投げました。


「誰だ、お前は。白雪の、知り合いか?」

「まあな。第二皇子とも顔見知りだぜ?何せ、ソイツにそこのバカ娘を売ったのは、オレだからな」

「…森の、殺し屋か」

「ああ」


 血で汚れてしまった王妃さまの顔を、どこからか取り出した布で清めてやりながら、ボスは頷きました。

 殴られて腫れた王妃さまの頬に、顔をしかめます。


「ま、殺し屋っつうのは単なる表向きの職業だけどな。なぁ?そこのジジィ」


 にいっと口の端を吊り上げたボスから視線を向けられて、顔色を悪くした魔法使いの老爺がびくりと震えました。

 枯れ木の様な手から、からん、と杖が落ちました。


「…し、七賢者しちけんじゃさまのお一人が、なぜここに」


 震える声で問い掛けた老爺に、酷薄そうに目を細めたボスが王妃さまの首に頬を寄せて言います。


「今は、このひとの国に味方してんの。喧嘩売っちまったなぁ?ジジィ」

「ひっ。お、お許しを…」

「はっ。精々そこら中から敵視される帝国(この国)と、運命を共にしろよ。下手な死に方させなかったから、それで許してやる。ただ…逃げたら、承知しねぇからな?」


 低く脅したボスはそっと、王妃さまの遺体を横抱きにしました。


「じゃ、王妃は貰ってく。ここも長く続いた国だが、終わったな」


 不吉な言葉を残して、現れた時と同じく唐突に、ボスは姿を消しました。

 皆状況が理解出来ない中、恐らく最も理解しているであろう老爺へ、第一皇子が問い掛けました。


「何なんだ、アレは」

「あ、あのお方は…」


 少し前までの呑気そうな態度が嘘の様に怯えた老爺が、がたがたと震えながら答えます。


「魔法使いの中でも取り分け強い力を持つ七人に与えられる、七賢者の称号をお持ちのお方だ。七人の中で最も強く、そして冷酷だと噂の。あの方に知らてしまった以上我らの所業は、遅くても今日中に、最悪の形で周辺国に知れ渡るだろう。ただでさえ強大な彼の大国のみならず、周り中の国がこの国の敵になる。それ位なら容易く出来るだけの、地位に力、発言力と信頼を持ったお方だ。終わったんだ、この国は」


 余りに怯え、絶望を顕わにする老爺に、誰ひとりその言葉を否定出来るものはおらず、予測される暗い未来に言葉を失いました。




 ごん。


 自分に与えられた執務室にいた宰相は、背後から聞こえた打撃音に窓を振り向き、


「っ−!?」


 上げかけた悲鳴を辛うじて飲み込みました。


 他に部屋にひとがいなかった事に感謝し、慌てて立ち上がり窓を開けました。

 体中を真っ赤に血で染め、何やら巨大な布包みを抱えた知人を迎え入れるために。


「一体、どうしたのですか!?」


 声をひそめつつ問うた宰相に、暗い顔をした男、銀影がぼそりと呟きました。


「ごめん」

「はい?」

「…ごめん」


 唐突な謝罪を口にすると、持っていた布包みを応接椅子に下ろし、布を払います。

 中から現れたのは、


「なっ!?」


 首と胴を切り離された、王妃さまでした。

 俯く銀影に、宰相が掴み掛かります。


「何故!?あなたが付いていたならば、何故!?」

「付いてなかったんだよ!!怒るなら、怒るなら何でオレに教えなかった!?」


 掴み掛かる宰相の胸ぐらを逆に掴んで、銀影が宰相を怒鳴り付けました。


「王妃が帝国に行く事を一言伝えてくれれば、ずっと付いててやる事だって出来たんだ!!けどオレが王妃の不在に気付いたのは今日で!!慌てて探して呼ばれて駆け付けた時には、もう遅かったんだよ!!何で!!何でオレに教えなかった!!」


 凄まじい剣幕に呑まれ、宰相は呆然と銀影を見返しました。

 銀影が宰相を揺さ振り、悔しげに顔を歪めます。


「ひとりで拷問部屋に連れてかれて大勢相手に渡り合って。必死に道理を説いても誰も聞く耳持たず!国王が帝国を倒すと信じて気高く死んだ!オレが一緒なら、そんな事させる訳ねぇだろ!!」


 ぐっと唇を噛み締めた銀影が宰相を突き飛ばし、俯きました。


「帝国の所業は周辺中に伝える。とんでもねぇヤツらだ。周り中大国(この国)を味方するよ。だから、だから絶対ぜってぇ、帝国をぶっ潰せ」


 ばっと顔を上げ、銀影が宰相を睨み付けます。


「良いな!?絶っ対ぇだからな!?」


 言うだけ言って、銀影は煙の様に姿を消しました。

 残された王妃さまの遺体を見つめて、宰相が拳を握り締めます。


「言われ、なくとも…っ」


 吐き捨てられた言葉には、この上無い怒りが込められていました。




 王妃さまの無残な死を知った国王は怒り狂い、国内で災害の危機が納まるや帝国に宣戦布告しました。

 帝国皇族の行った非道な所業を知った近隣諸国は軒並み王妃さまに同情的な姿勢を示し、宣戦布告した国王を支持しました。


 大国の国民たちも大切な王妃さまを卑劣なやり方で殺された事に激怒し、否応も無く兵の士気は高まりました。

 対する帝国の国民たちは賢帝を毒殺した皇后たちに不信感を募らせ、国民を顧みない皇族に怒りを抱き、次々に大国へと寝返りました。


 破竹の勢いで帝国を蹂躙した国王はたちまち皇城に到達し、皇后たちを捕縛。

 王妃さま殺害に関与した人間は白雪も含め、ひとり残らず鉄靴で踊り狂わされた上で晒し首にされました。

 王妃さま殺害に関与していなかった皇族たちは皆国王に恭順を示し、長い続いた帝国は呆気無くその歴史に幕を閉じました。


 復讐を遂げた国王は戦争の事後処理を終えると、惜しむ声を振り切って国王の座を退き、僅か十二歳の息子にその地位を譲りました。王妃さまが亡くなって、七年後の事でした。

 幼くして王位を継いだ王子は宰相副宰相の補佐を受け、弟妹と協力して善政を敷き、周辺諸国からも讃えられる穏やかな賢帝となりました。

 王位から退いた国王は、死ぬまで王妃さまの喪に服し続けたそうです。


 自身の死に瀕しながらも気高く王族の在り方を説いた王妃さまの姿は多くのひとびとの心を打ち、理想の王族として長く語り継がれました。




 森の奥の小屋の前に、ローブを纏った人影が立っています。

 ごんごんと扉を叩きますが応答は無く、小屋にはひとの気配すらしません。

 人影が扉のノブをまわすと、錆び付いた音を立てて扉は開きました。


 人影が中を覗くと小屋の中には何も無く、がらんとした空間が広がっていました。


「連絡も無く、どこへ行ったと言うんですか?」


 人影が、呟きます。

 溜め息を吐いて、ヤケの様に声を上げました。


「言われた通り、帝国は潰しましたよ!!」


 それだけ叫んで、人影は立ち去りました。


 その小屋の住人たちがどこに消えたのか。

 それを知る者は、誰もいません。






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


この後一話(予定)で完結ですが

悲劇が良いよ!!と言う方は

以降のお話は蛇足になるので

読まない事をお勧めします


ジャンル詐欺だ!!と思われる方は

もう少しお付き合い頂けると嬉しいです

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