表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/18

そんな奇跡の様な事

コメディ気味です


少しですが痛い描写や出血がありますので

苦手な方はご注意下さい

 

 

 

「おっと、これはお久しぶりで」


 早朝小屋の入り口でジャガイモを剥いていた銀影ぎんえいは、フードを深く被った人影を見上げて片目を眇めました。

 勝手に白雪を売り払った所為で手が足りなくなった埋め合わせに食事の用意を請け負ったのだが、都合が良かったかも知れない。


「昨日王妃に会いに城へ忍び込んだのはあなたですか?」


 鋭く銀影を見据える人影、この国の宰相を見返し、飄々と笑います。


「いえ?記憶にございませんねぇ」

「とぼける気で?」

「まさか。行っていないのでとぼけるも何もありませんよ」


 言って、ジャガイモに目を落としました。堂々たる法螺吹きっぷりです。

 宰相は溜め息を吐くと剣呑だった雰囲気を消して、銀影の横に座りました。


「まあ。そう言う事にして置きましょう。陛下への報告は。それで、こちらが本題なんですが、あなた、一体どうして王妃さまを泣かせたんです?」

「はぁあ!?いってぇ!!」


 ぎょっとして顔を上げた拍子に手が滑り、銀影がさっくりと指を切りました。

 溢れ出る血に顔をしかめて指をしゃぶります。


「青薔薇…王妃が泣いたってどう言う事だよ」


 指をくわえたまま宰相を睨みました。

 宰相が、知らないのですかと呟いて、眉を下げました。


「恐らくあなたと会った直後から延々その場で泣き続けです。王妃のいた場所から近衛騎士団長が密会を疑って、密会相手があなたではないかと予測、陛下が白雪さまの生存を疑い始めました。王が動けばあなたは気付くでしょうが、一応、忠告に」

「へぇ」


 くわえた指を口から外して、銀影は首を傾げます。

 口の端にを吊り上げて、鼻を鳴らしました。


「そりゃまた、運が良いのか悪いのか」

「何か?」

「あのバカ娘なら、もういないよ」


 あっけらかんと発された内容に瞬間間の抜けた顔をした宰相は、目を剥いて銀影に掴み掛かります。

 手を洗って再びジャガイモ剥きを始めようとしていた銀影は、危うくまた手を切りそうになって宰相を憤怒の形相で睨み付けました。

 しかしそんな激怒の顔に負けず劣らずのど迫力で、宰相も銀影に喰って掛かりました。


「いきなり何すんだ危ねぇだろうが」

「白雪がいないとはどう言う事です、まさかあなた白雪を!?」

「殺しちゃいねぇよ」


 鬱陶しそうに宰相の手を払って、銀影が言います。


「昨日帝国の第二皇子が来て、引き取りたいっつうから売っぱらったんだよ。帝国とこの国は諍いもねぇがそこまで親交もねぇし、敢えて言うなら帝国の皇后が王妃を恨んでるのが問題だが、そう悪ぃ話でもねぇだろ?第二皇子も王妃を相当憎んでたが、バカ娘にまで憎悪向けたりはしてなかったし」


 悪びれもせず笑う銀影に、宰相の怒髪は天を突きました。


「大問題じゃないですか!帝国の皇后と言えば王妃さまの祖国の公爵家出身。彼女の弟が王妃さまに振られて気が触れたのは、一部では有名な話ですよ!?弟を狂わせた原因ふたりの娘なんて、どんな扱いを受けるか知れたもんじゃないでしょう!」

「でも、あのバカ娘も乗り気だったし?さしずめ王妃に復讐出来るとでも思ったんだろうが、望んで付いてったんだから自己責任だろ?」


 宰相の怒りなんてどこ吹く風で、銀影は軽く言います。

 しれっとジャガイモ剥きを再開している辺り、興味の度合いが知れます。今日の朝食以下です。


 怒りで言葉を失いわなわなと震えている宰相を横目で伺い、溜め息を吐きました。


「皇子は真剣に同情して連れ帰ったから、殺させやしないだろ。理解したかは微妙だが、国王に注意しろとも伝えたし。問題は帝国総出で王妃排除に動いた場合か?ま、悪くても精々帝国とこの国が戦争する程度だろ?何にも問題ねぇじゃねぇか」

「しれっと言ってますけど途中で戦争起きてるじゃないですか!!どこが問題無いんですか!?」

「朝っぱらから騒ぐな若造っ!!」


 銀影に詰め寄る宰相の頭に、突然扉を開けた老人が振り下ろしたフライパンが当たりました。直撃です。しかも底面ではなく側面でした。鈍い音がしました。


 頭を抱えて悶絶する宰相の背中を、銀影がそっと撫でました。


「戦争は、ほら、それを回避すんのがあんたの役目だろ?」


 ちっとも慰めになっていません。むしろ追い討ちです。


「いや、最悪、王妃位は守ってやるよ、他は知らねぇけど」

「…あなたが、誰かを守る?」


 思いっ切り涙目の宰相が、心底驚いた表情で銀影を見上げました。

 もしこれが王妃さまならとても愛らしい光景なのでしょうが、宰相だとちっとも可愛くありません。


「何だよ」

「いえ、そんな奇跡の様な事も、起きるのかと」

「…アイツは、まあ、気に入ってるからな」


 宰相が痛みも忘れて唖然とし、恐る恐る、銀影に問い掛けました。


「あなたが王妃さまを守って、それで、守られた王妃さまは国王のもとに戻して貰えるのですか?」

「…さぁな」


 笑う銀影に答える気が無いと察し、宰相は溜め息を吐きました。

 気を取り直して、話を戻します。


「それで、話を戻しますが、王妃さまの泣いた理由に心当たりはありますか」

「…あのひとって、昔恋人とかいたの?」

「恋人?知っている限りだと…ふたり、ですね」


 宰相の言葉で眉を寄せた銀影が、難しい顔で口を開きます。

 ジャガイモを剥く手は、止まっていました。


「ひとりは狂った公爵だろ?もうひとりは?」


 宰相が、言葉を迷いました。

 躊躇いながら口を開きかけ、閉じて、諦めた様に開きます。

 答えは、一言。


「鏡ですよ」

「鏡?…って、あの、バカ娘が割ったって言う?」


 片眉を上げて問うた銀影に、宰相は深く頷いて答えました。


「そうです。王妃さまが祖国から持っていらしてそれはそれは大事にしていたと言う、魔法の鏡。あまり広めて良い話ではないんですから、内密にして下さいよ。王妃さまが浮気、それも相手が鏡だなんて、王妃さまにも陛下にも害にしかならない話なんですから…」


 宰相の話を話半分で聞き流しつつ、銀影は考え込みます。

 宰相始め数人の協力者から、六年前の顛末は一通り聞いていました。


 化け物を映す、喋る鏡。

 割れて、消えて、何かを飲み込んだ青薔薇。

 半月の間眠り続け、目覚めた時には真っ赤な目、自分を、魔女と呼んだ。

 古い知り合いに似た銀影に、求めたのが、言葉。


「あ…。あぁ…。あー…」


 “あ”三段活用で呻いた銀影が、脱力して頭を抱えました。


「うわ…そう来るのか…」

「何かわかったんですか?」


 問い掛けて来る宰相へ顔を向け、自嘲気味の笑みを浮かべました。


「声だ」

「声?」

「その鏡と、オレの声が、似てるんだよ。んで、ちょっと癒やしを求めた王妃がオレに愛してるっつって欲しいって頼んで、オレが従った」


 宰相が、じとっ…とした目で銀影を見つめました。


「あの、」

「黙秘する」

「まだ何も言ってませんよ」

「…」


 何も答えなくなった銀影が高速皮剥きを始めたので宰相はふたたび溜め息を吐き、立ち上がると銀影を見下ろしました。


「取り敢えず、白雪さまの行方と王妃さまが泣いた原因がわかったので良しとします。精々気を付けますよ。あなたに、王妃さまを奪われない様にね」


 宰相が遥か見えなくなった所でジャガイモを剥き終えた銀影は、ナイフを置いて両手で顔を覆いました。


「…泣く位なら、呼び留めろよ、バカ薔薇」


 溜め息と共に呟かれた言葉を耳にしたのは、朝から宰相の大声で起こされた腹いせに、からかう気満々で扉にコップを当てていた、小屋の住人たちだけでした。

 銀影が全員からからかわれて、仕返しに老人以外を半殺しにした事は、言うまでもありません。






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


七人の殺し屋さん

全員登場はしないですがそれぞれ個性的で愉快なひとたち…のはず


続きも読んで頂けると嬉しいです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ