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ただ、美しかっただけ

見知らぬ男に青薔薇と呼ばれた白雪ですが…?

 

 

 

「え…?」


 聞いた事の無い名前で呼ばれた白雪は、訝しげに男を見下ろしました。

 薄汚れてこそいますが、上質そうな服を着て、上質な剣を提げた、青年です。年の頃は、白雪より五つ六つ年嵩な位でしょうか。


「いや、あんな女でもこの国の王妃だ。こんな所にいるはずが無いか」


 男が続けてひとりごちた言葉を、耳敏く聞き取ります。王妃さまの知り合い、それも、良い感情を持っていなさそうな様子に、利用出来ると考えました。

 無垢な娘を装って、男の前に跪きます。覗き込む様に男を見上げて、訊ねました。


「王妃…母を、ご存じなのですか?」


 命懸けで鍛えられただけあって、言葉遣いは完璧です。

 敢えて王妃さまを母と呼んだ白雪の下ろした釣り糸に、男はまんまと引っ掛かりました。


「母?王妃が?」

「わたしは白雪。この国の王女です」

「白雪…?王女白雪は死んだはずでは。しかし、この顔は…」


 王妃さまの顔を良く知っているのでしょう。白雪の顔を見つめて考え込む男に、白雪は悲しげな顔を造って身の上を語ります。


「わたしの美貌を妬んだ王妃が、わたしを殺す様殺し屋に命じたのです。哀れんだ殺し屋に命だけは助けて貰えましたが、こうして下女として働かされ、王妃が恐ろしくてろくに外にも出られません。父さまも王妃に騙されていて…。わたしの事はもう諦めておりますが、新たに生まれたと聞く妹がわたしの様に妬まれ虐められて殺されはしないかと思うと、気が気ではありません」


 事実とは全く異なる白雪の言い分を、男はあっさりと信じ込みました。


「実の子供を妬んで殺そうとするとは残虐な…!やはり、あの女は許せない」


 どうやら王妃さまに嫌悪を抱いているらしい男に、白雪は内心ほくそ笑みました。

 やはりあの女は性悪な魔女で、ひとの恨みを買っているに違い無い。

 驚いた顔を貼り付けて、男に問い掛けます。


「まぁ!?あなたにも王妃が何か酷い事を?」

「ああ。あの女は、私の叔父上の人生を、めちゃくちゃにしたんだ」


 悔しさと憎悪の滲む顔で、唸る様に男は言いました。


「人生を、めちゃくちゃに?」

「そうだ。元々叔父上とあの女は恋人同士で、結婚の約束さえしていた。にも拘わらずあの女は他の男に愛想を振り撒き、たくさんの求婚を受けた挙げ句、叔父上と一方的に関わりをって大国の王の妃になったんだ。あの女に散々振り回されて棄てられた叔父上は、精神を病んで狂ってしまわれた。若くして立派に公爵の地位を果たされておられた素晴らしい方だったのに、今では見る影も無く、これ以上恥を晒す位ならと、とうとう暗殺されることになった。母上、実の姉の、決定でだ」


 殺し屋に暗殺を頼むために自分は来たのだと、男は歯を食い縛りました。

 思った以上に深い憎悪に、さしもの白雪も面食らいました。

 思えば白雪は実の母である王妃さまについて、何も知らなかったのです。


「そんな、事が…」

「あの女に人生を狂わされたのは叔父上だけじゃない。何人もの男があの女に振り回されて酷い目に遭ってる。正式に嫁いで大人しくなったと思っていたが、まさか実の娘にすら牙を剥いているとは。このまま野放しには出来ないな」


 剣呑な男の様子に絶句する白雪でしたが、心の内では拍手喝采していました。

 上手く行けばこの男が、憎き王妃さまを殺してくれるかも知れないのですから。


 白雪は目に涙を浮かべて、男の手を掴みました。


「何とか、出来るのですか?でしたらどうか妹を、妹を助けてあげて下さい」

「ああ。必ずあの女を退け、あなたの妹を助けよう。あなたもこんな所には、」

「うん?何してやがる、黒髪。客か?」


 男の声に割り込んだのは帰って来たボスで、顔の片側だけ思いっ切り歪めてこちらを睥睨していました。

 扉の前の男を見て、さらに顔を歪めます。


「隣の帝国の第二皇子じゃねぇか。何でこんな所に」

「あなたは」

「ボス、彼が暗殺を依頼したいって」


 男とボスの疑問に答える様に、白雪は答えます。

 身なりが良いとは思っていましたが、まさか皇子さまとまでは思っておらず、驚いていました。

 ボスが皇子の顔を知っていた事も驚きでしたし、そんな大物から恨みを買っている王妃さまにも驚きです。


「依頼ねぇ…。まあ、入れば?」


 しっしと一度白雪たちを扉から避けさせてから、ボスが肩を竦めて皇子を小屋に招きました。

 皇子はボスの態度に少し眉を寄せつつも、小屋に入ります。


「黒髪、茶。で?用件は?」


 椅子も進めず自分だけ腰掛け、白雪にお茶汲みを命じた後で、ボスが皇子に問い掛けました。皇子の方は見ず、持っていた布包みを弄んでいます。


「あなたが、ここのボス?」


 白雪の扱いにぴくりと眉を揺らした皇子は、立ったままボスを見据えて問いを投げます。

 やはり皇子は見ないまま、ボスが興味無さそうに答えました。


「そ。普段なら下らねぇ交渉は他のヤツに任せんだけど、今はオレしかいねぇみてぇだし直々に聞いてやるよ。んで、あんたは誰を殺してぇんだ?」

「その前に、ひとつ良いか?」

「あ?ああ、座りたいなら勝手に座れよ。生憎と、客の対応は慣れてねぇんだ」

「いや、椅子ではなく…まあ、ありがたく座らせて貰うが」


 我が道を行くボスに戸惑いながらボスの正面に座った皇子は、真剣な目をボスに向けました。もっとも、閉じた包みの端で遊んでいるボスと、視線は合いませんが。


「話したいのはあの、白雪姫の事だ」

「シラユキヒメ?……ああ、黒髪か。そう言やあんたとは遠い親戚になるな。母方の祖父の妹が王妃の家に嫁いでただろ?」


 コイツ何言ってんだと言う顔で顔を上げたボスが、暫くして気付いて頷きました。

 加えられた身辺知識に、皇子も白雪も驚きます。


「…詳しいな」

「この辺の国の貴族や大店おおだなの家なんかは網羅してるさ。殺し屋雇うのなんざ金持ちが殆どなんだからな。で、黒髪がどうかしたか?」

「彼女はこの国の王女だろう。こんな所で下女なんてやっていて良いひとじゃない」


 お茶を運んだ白雪を見て、皇子が言います。

 ボスも多少は興味を持ったのか、片目を眇めて白雪を見ました。


「王女じゃねぇよ?」

「な!?」


 当然の様に言い放ったボスに、皇子が目を剥き、白雪も驚きで息を飲みました。


「馬鹿な、彼女は自分を王女だと。こんなにも王妃に瓜二つな娘が、なぜ王女でないなどと言えるんだ」

「オレとしてはそこまで似てるとは思わねぇけどな。ま、それは置いといてだ」


 鼻で笑ったボスが再び包みをいじり出します。


「確かにソイツは王妃の実の娘だが、それが何だ?王女白雪については国王から、森に入って行方知れず、死亡したと判断し、捜索の必要無しっつうお触れが出てる。つまりこの国に、白雪なんて王女は存在しねぇんだよ。ソイツは王女でも何でもない、ただのガキだ」

「しかし、」

「それがあんたら王侯貴族共のやり口だろうが。寧ろソイツは、殺されねぇだけマシな部類だろうがよ」


 ボスが片手で包みを高く投げ、もう片手で捕まえました。

 ぽんぽんと包みを両手の間で遊ばせながら、嗤います。

 反論出来ない皇子は、なればと口を開きました。


「…ならば白雪姫は、私が保護しよう。少女が理不尽な労働を強いられているのを憂いて、保護の手を差し伸べるなら文句あるまい」

「買うっつうなら譲るけどな、払えんのか?ソイツ、高ぇぞ?」

「高い?」

「おう」


 ボスが弄んでいた布包みから中身を取り出します。

 大きな金細工の林檎に目を見張る白雪を後目に、ボスが金の林檎を弄って中身を机に明けました。

 中に詰められていたのは大量の、宝飾品でした。

 指輪にネックレス、ブローチ、イヤリング。色取り取りに輝く金銀宝石に、白雪は目を奪われました。


 がたんっと、椅子を蹴倒して皇子が立ち上がります。


「それは…!!なぜ、ここにそれが!?」

「養育費」

「なに?」

「養育費だよ。そこのバカ娘の。死なねぇ様に面倒見てやってくれって、毎年毎年年二回ずつ、こうして金目のものや金貨銀貨を、オレに渡してるひとがいんの。でなけりゃそんなバカ娘、とっとと放り出してるさ」


 知らなかった裏事情に、白雪は呆然とボスを見つめました。

 白雪以上に酷い顔をした皇子が、机の上の林檎を睨みました。


「…売り払ったのか、あの、女っ」


 憤りを含んだ声を漏らし、男がぎりっと歯噛みしました。

 荷物から重たげな袋を取り出し、どすんと机に載せました。


「白雪姫とその林檎。譲って貰う」


 怒りに燃えた瞳で、ボスに告げます。

 苛烈な視線を全く気にせず、飄々とボスは訊ねました。


「林檎も欲しいんだ?」

「それは私の母上の家の家宝だ。求婚の証にと、叔父上がどこぞの性悪に与えた」

「へぇ…」


 袋を手に取り中を覗きながら、ボスは気の無い返事をしました。


「ま、こんだけありゃお代には十分か。好きにすれば」

「言われなくとも」


 林檎と白雪の腕を掴んで立ち去ろうとする皇子に、どうでも良さそうな口調でボスが訊ねます。


「依頼は良いのか?」

「結構だ」


 言い放つ皇子に、本当にどうでも良かったらしく特に気にした様子も無く、あっそとボスは頷きました。

 立ち去る背中に呼び掛けます。


「…そのバカ娘が死んだらオレの大事な赤目ちゃんが気に病むからな。ひとつ、忠告してやるよ」

「…何だ」


 振り向かないまま皇子は足を止めました。

 ボスが手を上げ、振り向いた白雪を指差します。


「そのガキはまだ命を狙われてる。国王には、気を付けろ」

「国王?王妃じゃないのか?」


 思わず振り向いた皇子を嘲笑って、ボスは目を細めました。


「バカじゃないなら、自分で気付けよ。家に国に逆らえないのは、何もあんたらだけじゃない。青薔薇はただ、美しかっただけだ」


 ボスの言葉に目を瞬くも、理解出来ないまま皇子は立ち去りました。

 

 

 

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


思い込みニスト達の競演


文章中わかりにくくて申し訳ないのですが

王妃さまの出身国→小国

白雪の出身国→大国

皇子の出身国→帝国

です

ちゃんと名前を付けて置けば良かったと今更後悔しています


続きも読んで頂けると嬉しいです

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