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高校教師3

作者: Maria

先生とは学校の数学準備室で会って、隣同士に座ってお喋りするの。




私は紅茶で先生はコーヒー。




窓の外の景色を一緒に眺めながら何てことない会話で盛り上がるの。




先生にとってはどうってことないしぐさもセリフもね、




私にとってはどれも素敵な宝物なの。




窓の外の景色は季節ごとにその色味を変えてゆく。






春のやわらかな空気も、




夏の爽やかな空も、




秋の葉の切ないダンスも、






冬の真っ白な雪景色も。






たくさんの風景をこの窓から見てきた。




そこには先生の肩にもたれ、先生の腕に抱かれて、甘いコーヒーの香りに包まれた幸せな私がいるの。




でもいつまでこの幸せが続くのかって考え出すと止まらなくなる。




禁断の恋の結末が向かう先には一体どんな世界が待っているのかな?って。







禁断の果実に手を出してしまった私に与えられた罰はね、決して自分の幸せを求めないこと。



だけどつい確かめたくなるの。






「ねぇ、先生。私のこと好き?生徒の中で私が一番?」




時々こんな子供じみた問いかけをしてしまうの。




先生は相変わらず涼しい顔をして窓の外のいちょうの葉っぱに瞳をやってる。




いちょうの葉が風に舞って、あっちやこっちにいく度に先生の瞳が動く。






そんな先生の視線を今度は私の瞳が追ってるんだ。




返事を急かすような私に先生はイラついたりしてる?






その証拠にさっきから先生は一言も言葉を発してくれない。




「そんなこと言わなくても分かるでしょ。」




え?とびっくりしたような顔で先生は私を見た。




私はかまわず続けたの。




「そりゃそうだよね。そんなこと簡単に言ったり出来ないもんね。先生と生徒なわけだし。それより何より先生は結婚してるんだもんね…」




先生は微かにうつむいて静かに私の話に耳を向けていた。




先生は私に

「好き」だとか

「愛してる」とか、そういう愛のセリフを言ってくれたことはないんだ。




仲良くお喋りもするし、キスだってする。




だけど先生は私を好きだと言ってはくれない。




あるいは初めから私のことなど先生は好きなんかじゃないのかもしれない。



先生にはずっと内緒にしてきたことがあるんだ。




それは口にしてはイケないことなんだろうけど…




私は好きだって言葉が欲しいんじゃない。

答えが欲しいんじゃないんだよ。






だって私たちの未来に正しい答えなんて最初から存在などしていない。






「もう行くよ。(ひな)ももう教室行きなさい。」




先生は二人きりの時も時々あの冷たい先生になることがある。







そんな時の先生の瞳は本当に、アイスや雪でもかなわないくらいにひんやりしてるの。







スーツの上着に袖を通す先生の後ろ姿が私は大好き。




大きい先生の背中が愛しくてたまらないの。




渡り廊下には数枚のいちょうの葉が落ちていた。






「雛〜授業遅れちゃうよー!?」




その声に私はハッとした。




だってね。

友達に呼ばれなかったら私はきっとずっと、そのいちょうの葉っぱを見ていたと思うな。






私は自分の幸せを求めちゃいけないんだ。




午後の古文の授業はまるで子守唄みたい。




授業中も私はずっと上の空で。






先生の真似して窓の外に瞳を向けたりしていたけど…






何にも映らないよ。




先生と一緒じゃなきゃ。




先生の隣からじゃなきゃ、私のこの瞳にはどんな景色も色を持たない。




中高生向けの雑誌には度々、登場するんだよ。






こんなしぐさをしたら可愛いだとか、キスのタイミングだとかね。






それからもちろんその先のことも。




先生に言ったら怒られてしまいそうだけど…






こういうのに遅いも早いもないと思うの。




私だって女の子なんだよ。




愛する人にはやっぱり愛されたいし、つながってたいって思ってしまうの。






先生はきっとこう言うの。「まだ早い」ってね。




それは私のことを思っての優しさから出た言葉。




けれど本当は知ってるよ。






先生だって教師である前に一人の男の人なんだよね。







今日は一世一代の勝負の日。




私だってもう子供なんかじゃない。




一人の女だもん。




「失礼します。」






今日だけはこの数学準備室のドアが、結婚式場の扉のような気分。




先生までの道は真っ赤な真っ赤なバージンロードなの。




神聖な扉を開けると先生が立っていた。




いつもとちょっとちがう真剣そうな私に、先生は少し戸惑ってるように見える。




「お願いがあるの。」






一瞬ピリッとした空気が二人を包んだ。




「何?」




あれほど正当な言葉並べて練習してきたっていうのに。




こういう時、何の役にだって立たない。




たくさんの、用意してきた言葉たちが、ぜーんぶすっ飛んで…




残ったセリフはただ一つ。




「抱いてほしいの。」






また一枚、いちょうの葉が風に揺られて落ちていく。




でも今度は窓の外には瞳を向けない。




私からずっと視線を外さないでいてくれる先生。




「どうかしてるよ。君はまだ高校生なんだよ。早過ぎる。一時の感情で物事を考えるべきじゃないよ。」




最もらしいセリフ並べてるけどようするに先生は自分を守りたいだけなんだよ。






「どうして?一時の感情なんかじゃないよ!!私は先生のことが好きだもん。誰よりも大好きなんだよ。」




ごまかそうとしたって無駄。




「先生だから?結婚してるからダメなの?もしバレた時安全でいたいから、だから抱いてくれないの?」




「そういうことじゃなくて…」




「私だって女だもん。愛されたい。先生に愛されてるって感じてたいの。心だけじゃなくて体でも…繋がってたいって思っちゃうんだよ。それっておかしいことなの?ねぇ、先生教えてよ…」




いちょうの葉が風に抱かれるように…




小さな角砂糖が二つ、先生のコーヒーに優しく包まれるように…




私だって先生の腕の中に包まれて眠りたいの。




愛されたいの。




私の願いも虚しく下校を知らせるチャイムが鳴り響く…




チャイムが鳴り終わるまでの間、いつまでも動くことの出来ない私たちがそこには居た。

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― 新着の感想 ―
[一言] この小説を読んで共感しました。私も高校の先生に恋してます。。抱いてって私も卒業したらいい手みたいです
[一言] 先生と生徒でも好きなんだ〜
2007/11/19 18:56 あやっき〜
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