四日目「護る約束」
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霊夢は人間の里を出た後、妖怪の山を飛んでいた。
「ここも静かになったわね。あいつらどんだけ長生きしたのよ……」
さみしいような、せいせいしたような。どちらでもないような気持ちが霊夢の頭の中を駆け巡る。その時、
「おや。霊夢さんじゃありませんか!」
後ろから声がした。振り返ると、ニコニコと笑い愛用のカメラを構えた射命丸文がいた。
「悲劇。幻想郷最大の謎を解明できない霊夢。いいスクープですね」
「あんたは死んでなかったの」
「おや? 死ぬという表現は私は好みませんね。元あるべき場所戻った。でしょう?」
その情報は勘なのか、誰かから聞いたのかは不明だ。
「つまり。あんたは若かったのね」
「天狗の中でです。人間でいうならとっくに死んでます」
ということは、この寿命の常識は人間の寿命を基準にはしていない。そうわかった。
「他の連中は?」
すると文は、半分笑い、半分さみしそうな顔で、
「天狗仲間はほとんど消えました。まだ数名残ってますが、長くないでしょうね」
「で? 守矢神社は?」
これは霊夢が一番気になっていたことだ。常識が入ってきた今、神という存在はなくなる。すると、元々外にいた神社はどうなるのだろうか。と。
「神社は……あれです」
文が指差す方向。神社がある方向だ。霊夢はゆっくりとその方向を見る。と、
「なくなってる……わね」
あった場所には平地があった。何もない。ただの空き地。
「神様の力でここにいたようなものでしたから。外の世界で神様と一緒に帰りました。おそらく」
「そう……。てことは、早苗は外にいるのね。ここの記憶があるかはわからないけど」
「そうなりますね。それにしても、どうしてでしょうね?」
射命丸は霊夢の周りをクルクル回りながら言う。
「どうして……って。何が?」
「いえ。実はついさっき、椛が戻った……いえ、この場合は死んだですかね」
射命丸はニコニコしながらいう。
「おかしいんですよね〜。他の天狗は光になって消えたのに。椛は普通に死んでしまいました。体が残って、永遠眠ったのですよ」
今度は不思議そうな顔をする。
「確かに。チルノも消えなかったわね。まあ。だいたい予想はつくけど」
「ほほう。ぜひお聞かせください!」
射命丸はメモとペンを持ち、霊夢に迫る。
「近い! 教えるから離れなさい。ったく。それは多分、その時寿命が来たのよ」
「ほ〜。寿命が来た?」
「ええ。紫や大妖精は、本来の寿命では死んでいた年齢だった。だから消えたのよ。でも、まだ来ておらず、概念が来た後に来る寿命場合。人間のように死んでゆくのよ」
つまり。チルノは大妖精より長寿だったわけだ。
「ですが。椛の死と仲間天狗死はたったの一日違いですよ? そんな差なんですか?」
「うーん。流石の私の推理でも、そこまでは解明できてないわ。でも、もしかしたら。概念がその個体に入り込むまでに時間がかかるのかも。だから、入ってきてから何日か経って、既に死んでいたことになったんじゃない?」
射命丸は微妙な顔をする。無理もない。霊夢だって確信できていないことだ。
「まあいいです。かなりいいスクープが取れました〜」
お辞儀をしながら言う。その時、霊夢はこう言った。
「なぜあんたはそこまで我慢できるの?」
「……何のことですか? 我慢とは?」
「とっくに気づいているわ。悲しみ、辛さ、孤独さ。全てを包んでいるのでしょ? それを耐えて、こうして立ち、笑顔でいる」
その言葉を聞いた射命丸は、拳をギュッと握る。そして、
「あは……これが…新聞記者の特技……建前です…」
声も震えている。下を向いたままだ。
「わかってるわよ。あの口調だと、見てきたんでしょう? 仲間達が消えていくにを。目の前で何もできずに。椛の時も」
歯を食いしばる射命丸。より一層拳も強く握られる。
「私だったら耐えきれない。どうして……」
そこまで霊夢が言うと、射命丸が遮って叫ぶ。
「だってしょうがないじゃないですか!」
顔を上げる。その顔には、まぶたから溢れ出した涙でいっぱいだった。
「椛に……苦しみながら倒れる椛に……言われちゃったんですよ……っ」
『文さん……私……文さんの笑顔大好きでしたよ……。だから…私が死んでも……笑ってください……。その顔せ……いつか…大スクープとってくださいね……。。。私、ずっと……応援してますからっ…』
「だから……私は乗り越えようとしました…! でも、…もう限界なんですよ……。笑うことも……生きることも……」
顔を地面に落とし、涙を拭こうとする。が、手で涙を拭いてもまだまだ出てくる。ずっと我慢したのだろう。きっと、仲間が消えた時から。
「私も支えは椛でした……。でも、その支えが……もうっ……」
泣き崩れる射命丸。そんな射命丸を見て、霊夢は、
「あんたは、それでいいのね?」
射命丸はそう聞くと顔を霊夢の方へ向ける。そして、霊夢は博麗神社の方へ飛ぶ。飛びながらこう言った。
「守りものを護りなさい。それがあんたの支えになる。きっと、その方が皆も喜ぶわ。この幻想郷もね」
そして、霊夢は飛んで行った。すると、射命丸はもう一度顔を拭き、森全体に聞こえるくらいの声量で言った。
「はい! 護ります! 約束も! この幻想郷も!」
その顔には、笑顔で溢れかえっていた。椛が大好きだった、あの笑顔で。
次回最終回。の予定