三日目「変わらないもの」
ちなみに。この話は、今回でわかるとは思いますが、ゲームより何年もあとのことです。
「チルノ……。ごめんなさい……」
チルノがいた布団の中には、小さい子供がいた形跡があるだけで、何もなくなっていた。暴れた形跡もないし、どうやら眠りながら消えていったらしい。
「この様子だと。もう他も手遅れかしらね……」
ゆっくりと神社の外を見ながら言う。紫がいなくなってしまった今。博麗結界がさらに弱まり、寿命の概念が強く入ってくるだろう。そこで、霊夢は少し幻想郷を見渡すことにした。
「……。そうね。だいぶ常識が入ってきたわね」
飛び上がろうとした霊夢。だが、あまり高くは上がらなかった。人間は飛べないという概念も入ってきたのだ。
「急ぎましょうか」
まず霊夢は、人間の里へ向かった。
「よいしょ。……。ああ、いた」
里へつくと、まずは彼女を探した。伝えるべくことを伝えるために。
「はい。また明日ね。……あら。霊夢。珍しいわね」
「どうも。慧音。寺子屋終わった?」
彼女―とは、上白沢慧音だ。だが、老けている。少なくとも霊夢よりは。だが当たり前だろう。外見年齢は昔は皆同じだった。だが、寿命が現れ、元ある姿になり始めた。慧音も歳をとっていたのだ。
「ええ。今ね。で? ただの散歩じゃないでしょ? 何の用?」
「勘がいいわね。いいわ。でも、できれば人の少ない所で」
人気の多さを確認し、慧音の家へ移動する。
「さて。まずは聞こうかしら。最近、妖精や妖怪の数が減ったって聞いてない?」
「何? 急に。そうね……。最近聞いたのは、太陽の畑の花が元気ないってことくらい?」
ということは、幽香も消えてしまったのだろう。そう霊夢は思った。
「実はね。結界が弱まって、常識が入ってきた」
「ふ~ん。で?」
「あら。意外と無関心ね」
すると慧音は、少しだけ笑って、
「いいえ? 驚いているわ。でも、霊夢がわざわざ私に言いに来る理由は、もっと他にあると思ってね」
―勘が鋭すぎる人だ。そう霊夢は思った。
「負けたわ。単刀直入に話す。寿命の概念が入ってきた。つまり、あなたはいずれは死ぬ」
「ええ。つまり、半獣とか関係なく、普通の人間のように死ぬってわけね」
そう。慧音は半獣だから、普通の人間よりはもう少し長生きできた。が、こうなれば、人間と変わりなく寿命が来る。
「そうよ。で。もう気づいているとは思うけど……」
そう言いかけると、先に慧音が、
「妹紅と別れる……のね」
「…」
そう。妹紅は、不老不死。一見、寿命が入ってきて不老不死ではなくなると思うが違う。彼女は、蓬莱の薬を飲んだ時点で、蓬莱人なのだ。これは、外の常識など通用しない、月の常識である。寿命はかかわらない。
「それを伝えておきたかったわ。だってあなた、寿命のせいで」
「ええ。事実上、お婆ちゃんね」
きっと長くない。それを、霊夢は思い、伝えたのだろう。
「これからあなたはどうするの?」
飛び立つ霊夢に慧音は聞く。
「さあね。適当にふらつくわ。この謎の残ってるし」
すると慧音は不思議そうに、
「謎? 何かあったの?」
「ええ。実は、まだ私にも結界が弱った理由を知らないのよ。それを見つけ出すわ」
「……そう。やっぱり。あなたは変わらないわね」
すると霊夢は「?」という顔をする。
「前も、自分の気に食わないこと。知らないこと。とりあえず不利なことは絶対に作ろうとしてなかった。今も同じね」
「それは褒め言葉なのかしら? ま、どちらでもいいけど。じゃ、さよなら」
そういい、霊夢は飛び立って行った。霊夢はだいぶ離れた頃、慧音は小さな声でこう言った。
「ええ。いつまでも、あなたの褒め言葉よ。きっと、未来でも。変わらないはずだわ」